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タマゴ学術情報

タマゴに関する学術情報を配信していきます。

最新の学術情報

文献No.206
タマゴの栄養素摂取量と食の多様性を向上させる可能性

Mieke Faber et al., Potential of Egg as Complementary Food to Improve Nutrient Intake and Dietary Diversity. Nutrients., 2022, 14: 3396.

【要旨】

 この無作為化比較介入試験の初期目標は、南アフリカの低社会経済的地域での乳児の成長に及ぼす卵の影響を検討することにあったが、COVID-19によるロックダウン規制により登録は中断された。その結果、タマゴ群70名、対照群85名の小グループについて、ロックダウン下での小児の食事摂取、タマゴの利用並びに認知への影響を8ヶ月間評価した。
 対照群ではタマゴの摂取量は少なく、週4個以上のタマゴの摂取は10%以下であった。卵群では頻繁に摂取され、中間時点(毎日87.1%, 4-6日8.1%)および最終時点(毎日53.1%, 4-6日 21.9%)であった。卵群では対照群と比べ、最終時点でコレステロールとビタミンDの摂取量は高く、ナイアシンとビタミンB6の摂取量は低かった。
 結論として、タマゴの摂取ではタンパク質とミクロ栄養素の摂取量が高く、介護者は子供の卵摂取に積極的であった。卵摂取の頻度はアレルギー症状の発症や持続とは関係しなかった。したがって、タマゴの頻繁な摂取は乳児、とくに低あるいは中所得国の乳児への安全な補助食品として有用である。



文献No.207
中国における加齢黄斑変性症のリスクに関連する食事中のビタミン、カロテノイド、および
それらの供給源:人口ベースの症例対照研究

Hong Jiang et al., Dietary vitamins, carotenoids, and their sources in relation to age-related macular degeneration risk in China: A population-based case-control study. Br J Nutr. 2022, July 27, 1-22, doi: 10.1017/S0007114522002161

【要旨】

 メカニズム研究によって、抗酸化物質が加齢黄斑変性症(AMD)に有益な効果があることが示唆されている。本研究は、中国における食事由来ビタミンおよびカロテノイドの摂取源食品とAMDリスクとの関連を調査することを目的とした。臨床的にAMDと診断された患者とそれに対応した対照者の各260人について症例対照研究を実施した。参加者は食事情報と潜在的交絡因子について面接を受け、包括的な眼科検査を受診した。条件付きロジスティックモデルを用いて、ビタミンおよびカロテノイド並びにその供給源の摂取量についてAMDのオッズ比(OR)を評価した。
 第1と第4四分位群との比較で、OR(95%CI)はルテインで0.30(0.10、0.88)、β-クリプトキサンチンで0.28(0.11、0.74)であった。他のビタミンおよびカロテノイドの摂取量とAMDとの関連は弱く、有意ではなかった。ルテインの重要な供給源であるホウレン草と卵の摂取量が多いと、AMDのオッズ比の低下と相関し、それぞれの摂取量が最少群と最多の群間での比較で、ホウレン草ではOR=0.42(95%CI: 0.20, 0.88)、卵ではOR=0.52(95%CI: 0.27, 0.98)であった。卵とほうれん草の両方の摂取量が最多の群に属する者は、摂取量最少の群に比べAMD有病率が顕著に低かった(OR: 0.23; 95%CI: 0.08, 0.71 )。
 ルテインおよびルテインを多く含む食品の摂取量が多いと、AMDのオッズ比の有意な低下と相関していた。本研究はAMDの予防におけるルテインおよびルテイン含有食品の有益性を示すさらなる根拠となる。



文献No.208
卵タンパク質の健康効果(レビュー)

Michael J. Puglisi and Maria Luz Fernandez, The Health Benefits of Egg Protein. Nutrient. 2022, 14, 2904

【要旨】

 タマゴはコレステロール含有量が高いことでよく物議を醸す食品であるが、食事由来のコレステロールの摂取は心血管リスクと関連しないことが一般市民に受け入れられると、高コレステロール源と言われてきたタマゴなどの食品は、含まれている種々の食品成分によって評価されると考えられる。タマゴの栄養素のうち、よく議論されるもののひとつであるタンパク質の健康上の利点についてレビューする。
 卵タンパク質は、消化率が高く優れた必須アミノ酸源であり、タンパク質消化率補正アミノ酸スコア(PDCAAS値)が最高値で、開発途上国での栄養不良を減じ、子供の発育を促進し、低タンパク栄養失調症(kwashiorkor)を予防することが示されている。また、骨格筋の健康に不可欠であり、サルコペニア(筋肉減少症)の予防効果も示されている。
 また、卵タンパク質は食欲を抑えることができ、次の食事からのカロリー摂取量を低下させ、体重を減少させる。このレビューでは、卵タンパク質のその他の予防効果として、感染予防に加え血圧低下、抗癌作用も含まれる。卵タンパク質が一生にわたりヒトを守る数々の好影響を及ぼすことは明らかである。タマゴは低価格のタンパク源であり、子供での栄養不良を改善し、高齢者での骨格筋を改善しサルコペニアを防ぐ。さらに、感染予防、降圧や癌の予防効果もある。そして、卵タンパク質は食欲を抑え、体重低減作用もある。

※タンパク質消化率補正アミノ酸スコア。PDCAAS値が高いほど、タンパク質の消化率、体内利用率が高い。



文献No.209
タマゴを巡る倫理:合成生物学は世界のタマゴ生産業を混乱させるか

Aditi Mankad et al., Ethical Eggs: Can Synthetic Biology Disrupt the Global Egg Production Industry? Front. Sustain. Food Syst. 2022, 6, Article 915454. doi; 10.3389/fsufs.2022.

【要旨】

 タマゴの商業的生産の現場においては、生産に際し、孵化後1日で生きた副産物である雄鶏は業界の対策としてすぐに殺処分される。この対応の解決策として、孵化時におけるよりも産卵の時点で胚内の雄胚を早期に同定できる形質転換マーカー遺伝子の解明が研究されている。著者らは、屠殺および食品の持続性改善に関し、鍵となる倫理的課題である性選別に関するバイオテクノロジーによる解決が社会的に受け入れられるかどうかについて検討した。
 オーストラリア国内のオンライン調査(1,148名)で、この技術の展開支持、並びに新規な方法により得られたタマゴの購入意欲についての心理学的要因について調べた。その結果、ほとんどの参加者が少なくともこの遺伝子マーキング技術の開発を支援する適度の意向を示し、5 人に 1 人が強い支持を表明した。この対応策は、(a)タマゴ孵化産業での雄雛と殺作業の低減あるいは廃止(応答効率)、(b)性選別への新しい生物合成的対策(synbio)がタマゴ生産に際して雄雛と認定し排除する現行法より優れている(相対的利点)と言う点で中程度あるいは高い同意が示された。タマゴを摂取したヒトの約60%は、遺伝子標識法に依るタマゴの購入に中程度ないしは強い購入意向を持ったと報告している。タマゴの支持と購入の両面を含む部分介入経路モデルでは、決断に関わる鍵となる要因は、応答効率と相対的な利点に加え、技術と認識反応に対する評価意向であった(例えば技術の良し悪し、危険と安全、倫理的と非倫理的)。
 これらの結果は、消費者は決断と対応選択に当たっては、新しい遺伝子標識法の認知に価値があるかどうかに依存していることを示唆している。つまり、現在の屠殺法、より高い動物愛護のような様々な利益効果、持続性の改善および廃棄の低減などにどの程度価値があるかどうかを反映している。



文献No.210
子供の食事摂取と注意欠陥・多動性障害:症例対照研究

Atena Jamshidnia et al., Food intake and attention-deficit/hyperactivity disorder in children: A case_control study. Clin Nutr ESPEN. 2021, 44: 342-347.

【要旨】

 本研究の目的は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)児と健常児の食事摂取量を測定し、比較することである。
 この症例対照研究では、Yazd(ヤズド)(イラン中央部の都市)のKhatam Al-Anbia(カタム アル-アンビア)クリニックとImam Hussein(イマーム フセイン)サイコロジカルセンターを受診した多動児110名を選び、対照として、各症例1名に対し年齢と性別が均質な健常児2名を、症例と同じ都市部のYazd市内の小学校から登録した。一般的なアンケート終了後、身長と体重を測定した。食物摂取量は、186項目からなる食物摂取頻度調査表によって評価された。量的変数とカテゴリ変数は、それぞれ独立 t 検定とカイ 2 乗検定を用い、数値は平均値と標準偏差で報告した。2群間の食物摂取量の比較には、独立t 検定を用いた。
 ADHD児と健常児の2群間で、BMIとエネルギー摂取量に有意差は認められなかった。ADHD児の身体活動率は、健常児よりも高いことが示された (P = 0.001)。ADHD児のビタミン B12 とリボフラビンの摂取量は、健常児よりも有意に低く (P = 0.02)、精製穀物(白パン、麺、米など)の摂取量は、健常児よりも有意に高かった(P = 0.02)。また、健常児は、ADHD児と比較して、果物と野菜 (P = 0.02)、低脂肪牛乳 (P = 0.003)および卵 (P = 0.01)の摂取量が多かった。
 本研究では、ADHD児は精製穀物の摂取量が多い一方で、果物や野菜、低脂肪牛乳、卵、ビタミンB群の摂取量が少ないことが明らかになった。これらの結果を確認するためには、コホート研究や介入研究などの今後の研究が必要である。


学術情報バックナンバー 「カテゴリ分類リスト」

1.脂質、コレステロール

文献No.204
1日卵2個までの11週間の摂取は中国の若年成人のコレステロール値に影響しない

Zhili Ma et al., Daily intake of up to two eggs for 11 weeks does not affect the cholesterol balance of Chinese young adults. Food Sci. Nutr., 2022, 17;10(4):1081-1092

【要旨】

 体内のコレステロール量の約90%は、de novo合成と腸肝循環に由来している。そして過去の多数の研究によって、1日1個のタマゴの摂取は人体のコレステロール値にほとんど影響を与えないことが解っている。本研究では、1日2個までのタマゴの摂取が循環器疾患(CVDs)のリスクのバイオマーカーにほとんど影響を与えないことを想定した。中国の食事ガイドライン2016に従って、18歳から24歳までの大学生70人を対象に、ランダム化交差試験を実施した。被験者は朝食にゆで卵を1個食べる群、2個食べる群および食べない群の3群に分け、最長11週間の介入試験を行った。
 その結果、秋から冬にかけての試験で、タマゴの摂取量の増加に伴ない、血中の総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロールおよびコリンはすべての群で増加した(p < 0.05)。しかし、血中のトリグリセリド、LDL-コレステロール/HDL-コレステロール比、グルコース、肝酵素、CRPおよび尿中のミクロアルブミンに有意な差は認められなかった。朝食に卵を摂取した者では、空腹感は低く満腹感は高く、空腹時の血漿グレリンレベルが低下していた。さらにタマゴ由来のコレステロールは、単離末梢血単核細胞においてリポタンパク質代謝に関わるLDL受容体およびレシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼのmRNAの発現を促進し、TMAO形成に関わるコレステロールエステル転送タンパクおよびフラビン含有モノオキシゲナーゼ3のmRNAの発現を抑制した。
 結論として、1日2個までのタマゴの摂取は中国の大学生のCVDsのバイオマーカーにほとんど影響しないことが示され、タマゴの摂取に関する食事ガイドラインに有用な根拠を提示した。

文献No.198
慢性代謝性疾患の有無によるタマゴ摂取と血中脂質パラメータの関連:The EVIDENT Ⅱ Study

Arthur Eumann Mesas et al., Egg Consumption and Blood Lipid Parameters According to the Presence of Chronic Metabolic Disorders: The EVIDENT II Study. Journal of Clinical Endocrinology&Metabolism. 2022, 17;107(3): e963-e972.

【要旨】

 タマゴはコレステロールの主な供給源であるが、タマゴを多く摂取すると血中脂質プロファイルが悪化するかどうかについて、研究結果は一貫していない。血中脂質プロファイルは心血管代謝と密接に関連しているため、本研究では、タマゴの摂取量と血中脂質プロファイルとの関連を調べた上で、この関連が慢性代謝性疾患(肥満、高血圧、Ⅱ型糖尿病、脂質異常症など)の有無に依存するかどうかを検討した。
 EVIDENT Ⅱ試験に参加した成人を対象に多施設での横断研究を実施し、主な慢性代謝疾患について線形回帰モデルを適用した。
 18歳から70歳のスペイン人男女728名(女性61.9%、平均年齢52.1±11.9歳)で、タマゴの平均摂取量は、体重70kg当たり1週間5~6個に相当した。十分に調整し分析した結果、タマゴの摂取量と総コレステロール、HDL-cおよびトリグリセリドレベルとの相関は認められなかった。さらに、タマゴ摂取量の第1四分位(0-0.14g/日/kg BW)と比較して、第4四分位(>0.39g/日/kg BW)では、LDL-cレベル(係数-7.01;95%CI -13.39,-0.62) およびLDL-c/HDL-c比(係数-0.24,95%CI -0.41,-0.06 )が有意に低値を示した。層別分析では、慢性代謝性疾患を有する被験者についてはタマゴを多く摂取しても肥満、高血圧、2型糖尿病、脂質異常症の者あるいは降脂質剤治療を受けている者で血中脂質プロファイルと相関せず、上記の諸疾患がない健常者においては、より良好な血中脂質プロファイルと相関していた。
 このように、慢性代謝疾患を有する人がタマゴを多く摂取しても、血中脂質に悪影響はなかった。慢性疾患がない場合には、タマゴを多く摂取している人で血中脂質プロファイルは好ましかった。これらの結果は、健康的な食事の一部としてタマゴの摂取を進めている現在のガイドラインを支持するものである。

文献No.171
高果糖食を与えたラットにおける卵黄および大豆リン脂質の肝脂肪酸プロファイルおよび肝保護作用の比較

Mingyu Yin et al., Comparison of Egg Yolk and Soybean Phospholipids on Hepatic Fatty Acid Profile and Liver Protection in Rats Fed a High-Fructose Diet. Foods 2021, 10, 1569

【要旨】

 脂質代謝の乱れは、肝臓などの組織に過剰な脂質を蓄積させ、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の原因となる。また、血中脂質に悪影響を及ぼし、脂質異常症を引き起こす。リン脂質(PLs)は、心疾患や脳血管疾患などの慢性疾患の治療に用いられており、卵黄や大豆由来のリン脂質には、抗酸化作用や脂質低下作用がある。
 本研究では、高果糖給餌ラットモデルを用いて、卵黄リン脂質(EPLs)または大豆由来リン脂質(SPLs)が血中脂質濃度および肝臓脂肪酸組成に与える影響を調べた。また、PLsの脂質代謝および抗炎症作用についても評価した。ラット(n=24)を4群に分け、市販の標準飼料(コントロール群)、高果糖食(HFD,モデル群)および高果糖食に2%のEPLsあるいはSPLsを含むHFD(卵黄リン脂質群あるいは大豆リン脂質群)の4種類の飼料を4週間与えた。
 その結果、EPLsとSPLsはいずれも肝臓重量、肝臓TG、MDA含量および血清ALT、AST、TBA、CRPレベルを低下させた(P <0.05)。PLsはまた血液脂質低下や抗炎症作用も示した。EPLsおよびSPLsは、HFDを与えたラットの肝臓の脂肪酸C18:1、C18:0およびC22:6の蓄積を抑制した。EPLsを摂取すると、HFDを与えたラットと比較して血中および脳組織中のアセチルコリン含有量が有意に増加した。組織学的検査では、PLsの摂取が肝臓組織の損傷を改善することが示された。
 本研究では、卵黄リン脂質および大豆リン脂質には血液脂質低下および肝臓保護効果があり、卵黄リン脂質の治療効果は大豆リン脂質よりも高い傾向にあった。

TG Triglyceride
MDA Malondialdehyde
AST Aspartate transaminase
TBA Total bile acid
CRP C-reactive protein

文献No.170
成人での各種コリンサプリメントの代謝の違い

KA Böckmann et al., Differential metabolism of choline supplements in adult volunteers. Eur J Nutr. 2021, doi: 10.1007/s00394-021-02637-6

【要旨】

 コリンの十分な摂取は成長と恒常性維持に重要だが、実際の摂取量は不足していることが多い。コリンの不足は、ホスファチジルコリン(PC)とベタインの合成量を減少させ、最終的には肝臓、肺、脳などの臓器障害に繋がることが知られている。
 本研究では、塩化コリン、二酒石酸コリン、α-グリセロホスホコリン(GPC)および卵黄コリン(PC)の4種類のコリンサプリメントを用いて、コリン、ベタインおよびトリメチルアミンオキシド(TMAO)の血中濃度と動態に及ぼす影響を比較した。試験系は健康な成人男性6名を対象とした前向き無作為クロスオーバー試験で、550 mg/日相当のコリンを1週間以上のウォッシュアウト期間を設けて無作為に単回投与した。採血はサプリメント摂取前1回と、摂取直後から24時間後まで9回行った。血中のコリン、ベタインおよびTMAOの分析はタンデム質量分析法で実施した。
 すべてのサプリメントはコリンおよびベタインの血中濃度を摂取前よりも増加させた。この時のAUCには、4群間で差が見られなかった。卵黄コリンはコリンおよびベタインの血中濃度がピークに達するまでに3時間を要し、最も上昇が緩やかな特徴が見られた。また、すべての水溶性サプリメントはTMAOを急激に増加させたが、卵黄コリンはTMAOを増加させなかった。
 TMAOが好ましくない影響を及ぼすことを踏まえると、成人のコリン補給には卵黄コリンが最も適している可能性が示唆された。

文献No.168
中国人成人の血圧に及ぼす食事の脂肪源の違いの影響(コホート研究)

Liu Q, Impact of different dietary fat source son blood pressure in Chinese adults. PLOS ONE 2021, 16(3):e0247116.

【要旨】

 本研究は高血圧の予防策を提案することを目的に、中国での健康栄養調査(CHNS)のデータを用いて、食事の脂肪源と血圧との関連を調査した前向きコホート研究である。
 2006年に血圧が正常であった30~59歳の成人1,104名を対象とした。追跡期間は5年間。対象者は、2006年時点で高血圧前症および高血圧症の既往歴者あるいは高血圧症治療薬の服用者は除外した。1日の総エネルギー摂取量が不自然に多いまたは少ない(600 kcal/日未満または5,000 kcal/日以上)参加者は除外した。また、妊娠中の女性、授乳中の女性、運動障害者も除外した。解析には多変量ロジスティック回帰を用いて、正常血圧者と異常血圧者(高血圧前症群と高血圧群)のそれぞれについて、様々な食品からの食事脂肪摂取量と血圧との関連を検討した。
 血圧異常者では、魚介類から摂取する食事脂肪の割合が低く(P <0.001)、ファストフーズから摂取する食事脂肪の割合が高かった(P <0.001)。魚介類と卵・乳製品から摂取した食事脂肪は血圧異常を予防することができ、魚介類では相対リスクRR = 0.01 (95% CI: 0.001~ 0.25; P = 0.004)、卵・牛乳・乳製品ではRR = 0.14 (95% CI: 0.04~ 0.44; P = 0.001)であった。
 海産物、卵、牛乳および乳製品は,高血圧前症および高血圧の発生率を低下させる食事脂肪源として推奨できる。一方、ファストフーズは避けるべきである。

文献No.167
中国人、低所得の黒人・白人アメリカ人における、コレステロールおよび卵摂取と心疾患・死亡率の関連

XF Pan et al., Cholesterol and Egg Intakes with Cardiometabolic and All-Cause Mortality among Chinese and Low-Income Black and White Americans. Nutrients 2021, 13, 2094

【要旨】

 中国人および低所得の黒人アメリカ人、白人アメリカ人におけるコレステロールおよび卵の摂取量と心血管疾患死亡率および総死亡率との相関を調査した。対象者は黒人47,789人、白人20,360人、中国人134,280人(開始時年齢40~79歳)であった。制限3次スプライン多変量Cox回帰モデルを用いて、コレステロール150mg/日と卵1個/週の摂取をそれぞれ対照とし、死亡率のハザード比(HR)と95%信頼区間(95%CI)を推定した。
 コレステロール摂取量は黒人アメリカ人において総死亡率の増加と非線形の関連性を示し、心血管疾患による死亡率の増加とは線形の関連性を示した。コレステロールを1日当たり300mg/日および660mg/日を摂取した場合のHR(95%CI)は総死亡率でそれぞれ1.07(1.03-1.11)および1.13(1.05-1.21)であり(P-線形性= 0.04、P-非線形性= 0.002、およびP-全体<0.001)、心疾患による死亡率では、1.10 (1.03–1.16) および 1.21(1.08–1.36)と正相関した(P-線形性 = 0.007, P-非線形 = 0.07, P-全体 = 0.005)。白人アメリカ人では、コレステロール摂取と総死亡率および心血管疾患いずれも関連しなかった(P-線形性≥0.13、P-非線形性≥0.06、P-全体≥0.05)。中国人では、コレステロール300mg/日による総死亡率のHR(95%CI)=0.94(0.92-0.97)、心血管疾患死のHR(95%CI)は0.91(0.87-0.95)であり、非線形の逆相関が認められた。しかし、500mg以上摂取の場合は線形の逆相関は認められなかった(P-線形 ≥ 0.12; P-非線形 ≤ 0.001; P-全体 < 0.001)。
 卵摂取についても同様に、黒人アメリカ人では卵摂取量と全死亡率に正の相関があり、白人アメリカ人では関連なし、中国人では非線形の逆相関が認められた。
 本研究の結果から、コレステロールあるいは卵の摂取と心血管疾患および総死亡率との関連は民族間で異なることが示唆された。これには食事パターンや心血管代謝リスクの特性の違いが影響している可能性が考えられる。卵調理法など潜在的な交絡因子の影響については今後さらに検討する必要がある。

文献No.138
卵の摂取とコレステロール濃度との関連性:システマティックレビューとランダム化比較試験(RCT)のメタ分析

Li MY et al., Association between Egg Consumption and Cholesterol Concentration: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Nutrients. 2020, 4;12(7):E1995. doi: 10.3390/nu12071995.

【要旨】

 健康な人における卵の摂取と血清コレステロール濃度の関係については、長い間議論がなされている。本研究では、卵の摂取とLDL-コレステロール(LDL-c)濃度およびHDLコレステロール(HDL-c)濃度、LDL-c/HDL-c 比との関連を解析した。系統的レビューには、健康な集団における卵の摂取を調べた17報のランダム化比較試験(RCT)についてシステマティックレビューを行った。抽出されたデータをプール解析した結果、卵摂取群のLDL-c / HDL-c比が対照群よりも有意に高かった(平均差、MD= 0.14, 95%CI:0.05-0.22, 異質性、I 2 = 25%, P = 0.001)。LDL-c濃度においても卵摂取群が対照群よりも有意に高かった(MD = 8.14, 95%CI:4.46-11.82, I 2 = 18%, P<0.0001)。また、介入期間に関するサブグループ解析の結果、卵摂取の介入期間(2か月以上)が長いほどLDL-c / HDL-c比とLDL-c濃度が高くなる可能性が示唆された。ただし、本研究に用いた17報の論文の介入期間はすべて1年以内であり、卵の消費と人間の健康との関連を確認するには、長期追跡RCTが必要であると考える。

文献No.127
過体重の米国人閉経後女性では卵白の摂取と比較し全卵摂取はHDLのコレステロール流出能を増加させる
 (介入試験)

Sawrey-Kubicek L et al., Whole egg consumption compared with yolk-free egg increases the cholesterol efflux capacity of high-density lipoproteins in overweight, postmenopausal women. Am J Clin Nutr. 2019, 110(3):617-627.

【要旨】

 循環器疾患(CVD)のリスクの低下にはHDLの機能が重要な役割を果たしているが、食事療法がHDL機能に及ぼす影響は明らかにされていない。本研究では、CVDのリスクが高い過体重の閉経後女性20名を対象に、卵白と比較し全卵の摂取がHDLの機能性にどのような影響を与えるかを検討する単盲検無作為化クロスオーバー試験を行った。4週間のウォッシュアウト期間を挟み、1日当たり100gの卵白もしくは全卵を含む朝食を4週間摂取した結果、卵白と比較し、全卵摂取でコレステロールの流出能が有意に高まった(P <0.01)。しかし、血清HDLの機能、抗酸化あるいは炎症マーカーには有意な変化はなかった。また、ApoA-1、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール値にも卵摂取の影響は認められなかった。
 過体重の閉経後女性において1日2個の全卵摂取は血清コレステロール値に影響を及ぼすことなくコレステロール流出能を増強させることで、HDL機能の改善に寄与することが示された。
※コレステロール流出:HDLが抹消組織からコレステロールを取り除き、肝臓に運んで代謝する、すなわちコレステロールの逆転送能を指す。

文献No.119
食事由来コレステロールまたは卵摂取量と循環器疾患(CVD)および総死亡の発症リスクとの関連

Zhong V.W. et al., Associations of Dietary Cholesterol or Egg Consumption With Incident Cardiovascular Disease and Mortality. JAMA. 2019;321(11):1081-1095.

【要旨】

  コレステロールは、細胞膜や性ホルモンの材料となる重要な栄養成分であり、体内で合成されるだけではなく、食品中に含まれ食事によっても摂取している。本研究では、アメリカ人における食事由来コレステロールおよび卵の摂取量と循環器疾患(CVD)および総死亡の発症リスクとの関係を調査するため、メタアナリシスを行った。解析には成人を対象とした前向きコホート研究6報(平均17.5年間の追跡)からの29,615人のデータを対象とした。メタアナリスの結果、食事由来コレステロールを300mg/日を追加摂取するごとにCVD発症(ハザード比HR=1.17, 95%CI:1.09-1.26)および総死亡(HR=1.18, 95%CI:1.10-1.26)のリスク上昇が認められた。卵においても1/2個/日を追加摂取するごとにCVD発症(HR=1.06, 95%CI:1.03-1.10)および総死亡(HR=1.08, 95%CI:1.04-1.11)のリスク上昇が認められた。しかし、毎日のコレステロール摂取量で調整すると、卵の摂取とCVD発症および総死亡のリスクとの間の正相関はそれぞれHR=0.99, 95%CI:0.93-1.05およびHR=1.03, 95%CI:0.97-1.09となり、有意差は認められなくなった。
  これらの結果から、米国成人ではコレステロールあるいは卵を多く摂取するとCVDの発症や総死亡リスクが摂取量依存的に高まることから、食事摂取基準の策定に際し留意すべきであると結論されている。
  しかし、本研究は観察研究であり、因果関係を立証するものでないことに加え、食事摂取調査がただ1回の自己申告によるものである上に、研究毎に評価法が異なるなど方法論上の問題もある。さらに、飽和脂肪を多く含む肉類が最大のコレステロール摂取源である米国人での結果を、低飽和脂肪の卵が最大のコレステロール摂取源である日本人に適応することは、当然のことながら限界があることを理解しておくべきである。

文献No.111
小児期の卵摂取は青年期に悪影響を与えない

Melanie M. Mott et al., Egg intake has no adverse association with blood lipids or glucose in adolescent girls, Am. J. Clin. Nutr. 2018, DOI: 10.1080/07315724.2018.1469437

【要旨】

  青年期における卵摂取の心血管代謝への影響を調べた縦断研究は見当たらない。本研究では小児期での卵摂取が青年期後半(17~20歳)における血液脂質濃度、空腹時血糖値、インスリン抵抗性に与える影響を9~10歳の女児1,392名を対象として10年間追跡調査した(National Heart, Lung, and Blood Institute’s National Growth and Health Study)。食事調査は1~5,7,8および10年目に3日間実施し、9歳および17歳での平均値を求め解析に用いた。対象者を卵摂取量により<1個/週(n?=?361), 1~<3個/週(n?=?703), ?3個/週(n?=?328)の3群に分けて解析した結果、血中LDL-コレステロール値には3群で差は認められなかった(低摂取、中摂取および高摂取の各群でそれぞれ99.7, 98.8および95.5 mg/dL, P=0.0778)。しかし、食物繊維、乳製品、果物、野菜の高摂取との組み合わせによりLDL-C値が有意に低くなった。また、卵の摂取が3個/週以上の場合、脂質、グルコース、HOMA-IRに影響はなかったが、運動量の多い者ではインスリン抵抗性が最低値となった。
  以上の結果から、卵の摂取は血糖値、血中脂質レベルおよびインスリン抵抗性に悪影響を及ぼすことは無く、青年期の健康的な食事に組み込むことができることが示された。

文献No.110
卵のコレステロールは吸収されにくい(介入試験)

Jung Eun Kim, Wayne W. Campbell, Dietary Cholesterol Contained in Whole Eggs Is Not Well Absorbed and Does Not Acutely Affect Plasma Total Cholesterol Concentration in Men and Women: Results from 2 Randomized Controlled Crossover Studies, Nutrients 2018, 10(9), 1272

【要旨】

  全卵はコレステロールの摂取源であるが、血中コレステロール濃度とは相関しない。本研究では全卵摂取後のコレステロール吸収について調べるため2つの無作為クロスオーバー試験を実施した。Study 1は16名の男性を対象に生野菜を卵無しもしくは卵75g、卵150gと一緒に摂取、Study 2は女性17名を対象に加熱野菜を卵無しもしくは卵100gと一緒に摂取させ、摂取後の血液からTG-rich リポ蛋白(TRL)を分離した。Study 1 の結果、TRL中の総コレステロール曲線下面積(AUC0-10h)は群間で異ならなかった(5.3±1.2 vs. 4.2±1.2 vs. 1.7±1.2 mg/dL*10h, P= 0.1)が、TG のAUC0-10hは卵150g摂取で75gおよび卵無しと比較し有意に大きかった(80±12b vs. 21±12a vs. 13±12a mg/dL*10h, P=0.0006)。同様にStudy 2ではTRL中の総コレステロールAUC0-10hに有意差は無かった(5.2±1.0 vs. 3.8±1.0 mg/dL*10h, P=0.30)が、TGは卵無しと比べて卵100gで有意に増加した(31±3b vs. 11±3amg/dL*10h, P <0.0001)。また、どちらの試験でも全卵摂取により血中TGは有意に増加したが血中総コレステロールは変化が無かった。以上から、卵由来コレステロールは吸収されにくく、それが食後の血中コレステロールや長期的な血中コレステロールコントロールに影響を与えないメカニズムの一つと考えられる。

文献No.99
卵摂取と血清コレステロールの関係(総説)

Christopher N. Blesso et al., Dietary Cholesterol, Serum Lipids, and Heart Disease: Are Eggs Working for or Against You?, Nutrients 2018, 10, 426; doi:10.3390/nu10040426

【要旨】

  血液コレステロールと心疾患の関係は確立されており、初期予防としてはLDLを低下させることが基本である。さらに、疫学研究では、HDL濃度が高いと心疾患のリスクが低いことが示されている。卵は豊富なコレステロール摂取源の一つである。しかし、大規模な疫学研究では、卵の摂取と心臓血管疾患リスクとの間には関連性が薄いことが判明している。臨床研究では、卵の摂取による血清脂質中のコレステロールへの影響は人により非常に多様であり、多く(人口の約2/3)はほとんど反応を示さないが、一部ではLDL / HDL比は維持されながらも、LDLおよびHDLの上昇が確認されている。卵摂取によるLDLの上昇は有害ではなく、酸化LDLには影響を与えない。
  卵摂取によるその他の重要な変化として、リポタンパク質粒子プロファイルに良い影響を与えることや、HDLの機能増強効果がある。また、卵摂取によるHDLの上昇は、HDL機能のマーカー(例えば、抗酸化酵素、コレステロール代謝能力)も改善する。また、卵にはリン脂質などの血清脂質を減少させて心疾患の発症リスクを抑え、卵中のコレステロールの影響を修飾する可能性もある。
  以上、最近の卵についての介入試験は、コレステロール摂取が血清脂質に負の影響を及ぼさず、場合によってはリポタンパク質プロファイルおよびHDL機能を改善することを示唆している。

文献No.98
1日3個の卵摂取はLDL / HDL比を維持する(介入試験)

Lemos BS et al., Intake of 3 Eggs per Day When Compared to a Choline Bitartrate Supplement, Downregulates Cholesterol Synthesis without Changing the LDL/HDL Ratio, Nutrients, 2018, 10(2), 258. doi: 10.3390/nu10020258.

【要旨】

  高濃度のLDL-Cは循環器疾患(CVD)リスクと関連することから、食物コレステロールの血漿脂質濃度への影響は依然として懸念されている。そこで、卵摂取の影響を、重酒石酸コリンサプリメントと比較して、若い健常人において試験した。被験者は30人で、2週間の卵および卵を含む食品の摂取制限の後、無作為にグループ分けし、毎日卵3個摂取または重酒石酸コリンサプリメント(両群とも約400mgのコリン量)を4週間摂取した。3週間のウォッシュアウトの後、それぞれ試験食を入れ替え4週間摂取した。食事記録、血漿脂質、アポリポタンパク質(apo)濃度、およびコレステロール恒常性の調節遺伝子の末梢血単核細胞(PMBC)の遺伝子発現を、各介入の終了時に評価した。
  結果、飽和脂肪酸および一価不飽和脂肪酸の摂取量は、コリン摂取群」より卵摂取で多かった。さらに、血漿中の総コレステロール、HDL-CおよびLDL-Cの濃度が、コリン摂取と比較して卵摂取で高かったが(p < 0.01)、心疾患リスクの重要なマーカーであるLDL-C/HDL-C比には変化は見られなかった。コリン摂取と比較して、卵摂取では血漿apoA-IおよびapoEの濃度が高く、apoBには変化がなかった。ステロール調節エレメント結合タンパク質2(SREBP2)および3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA還元酵素(HMGCR)の発現は、卵摂取でそれぞれ有意に18%および31%低下しており(p < 0.05)、食事コレステロール負荷による、コレステロール増加に対する恒常化が示唆された。
  したがって、卵からコレステロールを追加摂取しても、若い健常者のCVDリスクは高まらないことが指摘され、PBMC遺伝子発現からのデータは、卵からのコレステロールがコレステロール生合成を下方制御し、さらにHDL-Cを増加させ、LDL-C / HDL-C比の維持につながることが示唆された。

文献No.96
地中海食における卵摂取と脂質異常の関連(コホート研究)

Vazquez-Ruiz Z et al., Egg consumption and dyslipidemia in a Mediterranean cohort, Nutr Hosp. 2018;35:153-161.

【要旨】

  地中海食のコホートにおける卵の摂取と脂質異常症との関連を評価した前向き研究。方法として、スペインの大学卒業生13,104人を平均8年間追跡した。ベースライン時の食事習慣は、136項目の食品摂取頻度アンケートを用いて評価した。6年間および8年間の追跡調査後の卵摂取量のカテゴリー別に、総コレステロール、HDL-CおよびTGの自己申告血中濃度を評価した。加えて、ベースライン時の卵摂取と、追跡期間中の高コレステロール血症、低  HDL-C血症および高TG血症の発症率との関連性を評価した。
各種条件で調整後も、中レベルの卵摂取量(卵2~4個/週VS 卵1個/週未満)において高TG血症の発症リスク(OR) は 0.71であった(95%信頼区間:0.54~0.93、p<0.05 )。 8年間の追跡調査後にHDL-C値については、卵1個/週摂取に対し、>卵4個/週では-4.01 mg/dl(-7.42?-0.61 )で卵摂取量の増加とHDL-Cレベルとの間に逆相関が見られた(傾向p=0.02)。6および8年間のフォローアップ後、TG値は上位3カテゴリーの卵摂取のそれぞれにおいて、最も低いカテゴリー(卵1個/週未満)より低かった。 以上の結果から、地中海食摂取におけるコホートにおいて、卵摂取の頻度は総コレステロール値またはTG値の上昇とは相関していないことが示された。

文献No.84
卵摂取の血清脂質への影響(メタアナリシス)

Rouhani WH et al., Effects of Egg Consumption on Blood Lipids: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials, J. Am. Coll. Nutr., 2017, 1-12

【要旨】

  卵の摂取は血清脂質濃度にほとんど影響しないことが広く認められているが、既存のランダム化比較試験のメタアナリシスは本論文が初めてである。本論文では、卵摂取が血清脂質濃度に及ぼす定量的影響を知るため、ランダム化比較試験のメタ分析を実施した。方法として、MEDLINE、Proquest、Google Scholarなどのオンラインデータベースを系統的に検索し、2000年以降に発表され、卵摂取群と非摂取群の血清脂質濃度を比較した28の論文を対象とし解析した。加重平均差は、ランダム効果モデルを用いて計算した。
  その結果、卵の摂取は対照群(卵低摂取)に比べ、総コレステロール(TC)は5.60 mg / dL(95% CI:3.11,8.09; P <0.0001)、LDL-Cは5.55 mg / dL(95% CI:3.14 、7.69; P <0.0001)およびHDL-Cは2.13 mg / dL(95% CI:1.10,3.16; P <0.0001)と有意に増加した。しかし、卵の摂取が増しても、LDL-C:HDL-CおよびTC:HDL-C比並びにTG濃度に対する影響は認められなかった。また、1日当たり摂取した卵の数あるいは試験期間は、血清脂質マーカーのいずれとも相関しなかった。卵摂取後での影響や心疾患リスクへの影響については今後の研究が必要である。

文献No.73
軽度高コレステロール血症男性において卵1個の追加摂取はLDLの酸化を抑制する(介入研究)

Kishimoto Y et al., Additional consumption of one egg per day increases serum lutein plus zeaxanthin concentration and lowers oxidized low-density lipoprotein in moderately hypercholesterolemic males. Food Res. Int., 2017, doi: 10.1016/j.foodres.2017.03.003

【要旨】

  卵は栄養価が高く、抗酸化カロテノイドのルテインおよびゼアキサンチンを含む。しかし、多く含まれるコレステロールの影響、特に血中コレステロール値が高い者への影響が懸念されている。そこで、卵1個/日の追加摂取が、軽度高コレステロール血症者の血中脂質およびLDLの酸化に与える影響について調べるため、介入試験を実施した。19名の日本人成人男性(総コレステロール値>5.2mmol/L(約200mg/dL))を対象とし、4週間、通常の食事に加えて半熟卵を1個/日摂取させた。その結果、介入期間中のコレステロール摂取量は有意に増加したが、血清総コレステロール濃度およびLDLコレステロール濃度は増加しなかった。また、LDLの酸化の指標であるMDA-LDL濃度は有意に減少し、LDLの酸化抑制能の指標であるLDL酸化lag timeは有意に延長した。摂取期間2、4週目には、血中のルテイン+ゼアキサンチン濃度が摂取前と比較して有意に増加し、MDA-LDLの減少およびLDL酸化lag time延長と正の相関が認められた。以上の結果から、軽度高コレステロール血症男性において、4週間卵を1個/日追加摂取することで、血中総コレステロールおよびLDLコレステロール濃度に影響を与えず、ルテインおよびゼアキサンチン濃度を増加させ、LDL酸化を抑制する可能性が認められた。

文献No.67
卵白の脂質蓄積抑制効果(動物試験)

Ochiai M et al., Egg white hydrolysate can be a low-allergenic food material to suppress ectopic fat accumulation in rats fed an equicaloric diet. J. Nutr. Sci. Vitaminol., 2017, 63(2):111-119.

【要旨】

  卵白および低アレルギー性の卵白加水分解物が体脂肪蓄積に及ぼす影響を検討した。継続摂取の影響については、ラットを3群に分け、カゼイン(C, n=6)、卵白(EW, n=7)、卵白加水分解物(EWH, n=7)を含む高脂肪・高蔗糖食を8週間与えた。EWおよびEWH群の摂取エネルギー量はC群の摂食量に合わせた。EWおよびEWH食の摂取により糞便に排出される脂質量が増加し、肝臓や筋肉中の脂質量が減少したが、腹部や全身の脂肪組織中の脂質量には変化はなかった。一方、血糖値およびアルカリホスファターゼ活性が有意に低下した。次に、物理化学的特性について検討した結果、EWおよびEWHはCよりも分散性が高く、EW添加のミセル溶液では、コレステロールやトリグリセリドのミセルへの溶解性が低いことが示された。単回摂取の影響については、ddYマウスを対照(C, n=15)、卵白(EW, n=15)、卵白加水分解物(EWH, n=13)の3群に分け、EWおよびEWH 500 mg/kgを与えた後、30分後に大豆油を経口投与した。採血の結果、単回摂取では脂質誘導性の高TG血症を抑制せず、小腸通過速度にも影響を与えなかった。これらの結果から、EWおよびEWHの継続摂取は脂質の吸収抑制により、肝臓や筋肉への脂質蓄積を抑制し、高脂肪食誘導性の肥満の予防に効果的である可能性が示された。

文献No.63
乳酸発酵卵白の血中脂質への影響(介入試験)

Matsuoka R et al., Lactic-fermented egg white reduced serum cholesterol concentrations in mildly hypercholesterolemic Japanese men: a double-blind, parallel-arm design. Lipids in Health and Disease 2017, 16:101,doi: 10.1186/s12944-017-0499-1

【要旨】

  乳酸発酵卵白(Lactic-fermented egg white, LE)は卵白の硫黄臭が無く摂取しやすい。本研究では、8週間のLE摂取が血中コレステロール(Chol)濃度に及ぼす影響を検討するため、血中総Chol濃度がやや高めの成人男性88名(血中TC値204?259 mg/dL)を対象とし、二重盲検並行群間比較試験を実施した。毎日タンパク質として4, 6および8gに相当するLEを摂取する3群に無作為に割り付けた。摂取前と4および8週間後に血中Chol濃度を測定した。8週間後の血中総Chol濃度は、8g摂取群で摂取前と比較し有意に低下した(-11.0±3.7mg/dL, p<0.05)。また、4g摂取群と比較しても有意に低下した(p<0.05)。血中LDL-Chol濃度についても同様に、摂取前および4 g摂取群と比較して8g摂取群で有意に低下(-13.7±3.1 mg/dL, p<0.05)、HDL-Chol濃度は8 g摂取群で摂取前と比較して有意に低下した(p<0.05)。LDL-Chol/HDL-Chol比は、有意差はないものの摂取前と比較し低値であった。これらの効果のメカニズムとしては、卵白によるChol吸収抑制が考えられる。
  以上より、血中総Chol濃度がやや高めの男性におけるタンパク質8 g相当のLE摂取は、血中総およびLDL-Chol濃度を低下させ、動脈硬化予防に有用であることが示唆された。

文献No.52
TMAOと卵摂取の関係(介入試験)

DiMarco, D.M. et al., Intake of up to 3 Eggs/Day Increases HDL Cholesterol and Plasma Choline While Plasma Trimethylamine-N-oxide is Unchanged in a Healthy Population. Lipids 2017, doi:10.1007/s11745-017-4230-9

【要旨】

  No.51のクロスオーバー介入試験において、卵摂取がCVDリスクのバイオマーカーへ及ぼす影響を明らかにするため、各介入の終了後に血圧測定、食事記録、血中バイオマーカー(脂質、糖、コリン、TMAO)の測定を行い、評価に用いた。その結果、BMI、ウエスト周囲長、収縮期血圧、血糖値、血中中性脂肪値に変化はなかった。一方、拡張期血圧は卵摂取により低下(P<0.05)した。卵を摂取しない場合と比較し、1~3個の摂取により、LDL-Cの低下(P<0.05)、HDL-Cの上昇、LDL-C/HDL-C比の低下が認められた(P<0.01)。また、血中コリン濃度は卵摂取量依存的に増加したが(P<0.0001)、血中TMAO濃度に変化は認められなかった。以上の結果から、健常者では卵3個/日の摂取は血中コレステロールおよびTMAO値に影響を及ぼさず、CVD関連因子を改善することが示された。

文献No.51
卵摂取によりHDLの機能が改善(介入試験)

DiMarco, D.M. et al., Intake of up to 3 Eggs per Day Is Associated with Changes in HDL Function and Increased Plasma Antioxidants in Healthy, Young Adults. J. Nutr. 2017, doi: 10.3945/jn.116.241877.

【要旨】

  卵0~3個の摂取が、LDLおよびHDLの粒子径やHDLの機能、血中の抗酸化物質に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、18~ 30歳の健常者38名を対象とし3期計14週間のクロスオーバー介入試験を実施した。2週間のウォッシュアウト期間(卵0個/日)後、1日当たり1、2、3個を各4週間摂取し、各介入の終了後に採血を行い分析した。卵を摂取しない場合と比較し、1~3個/日の摂取によって、large-LDLおよびlarge-HDL濃度、血中apoAⅠ濃度、LCAT活性が上昇した(P<0.05)。卵2~3個/日の摂取ではapoAⅡおよび血中ルテイン・ゼアキサンチン濃度が有意に上昇した(P<0.05)。また、3個/日の摂取では1~2個/日と比較し、パラオキソナーゼ-1活性も有意に増加した(P<0.05)。卵摂取はCETP活性には影響を及ぼさなかった。以上の結果から、卵1~3個/日の摂取は若年健常者において、アテローム性動脈硬化に関わるLDL粒子サイズおよびHDLの機能を改善し、血中の抗酸化物質濃度増加させることが明らかになった。

※パラオキソナーゼ-1:HDLに存在する抗酸化酵素であり、リポ蛋白を酸化から保護する。
※CETP(コレステロールエステル転送タンパク質):HDL中のコレステロールエステルをVLDLやLDLなどのリポ蛋白に転送するタンパク質。

文献No.43
卵黄が脂肪肝を改善(動物試験)

Erami K et al., Dietary egg yolk supplementation improves low-protein-diet-induced fatty liver in rats. J. Nutr. Sci. Vitaminol., 2016, 62:240-248.

【要旨】

  卵黄摂取が低タンパク質誘導性脂肪肝に与える影響について、4週齢のSD系雄ラット(n=25)をカゼイン20%含有食(C)、カゼイン5%含有の低タンパク質食(LP-C)、卵黄12.5%含有の低タンパク質卵黄食(LP-EY)および卵黄油4.1%含有の低タンパク質卵黄油食(LP-EYO)の4群に分け、2週間飼育した。低タンパク質(LP)食は、タンパク質4.13%、脂質4.7%となるように調製した。LP-C群ではC群と比較し肝臓のトリグリセリド(TG)量の増加と空胞化、血中TG値および遊離脂肪酸量の低下が認められたが、LP-EY群ではこのような変化はなかった。また、脂質合成関連酵素(FAS, G6PDH, ME)はLP-EY群およびLP-EYO群で低下し、リポ蛋白分泌に関わるミクロソームトリアシルグリセロール輸送タンパク質(MTP)はLP-EY群でのみ増加した。これらの結果から、卵黄摂取は、脂質合成関連酵素の発現低下およびMTPの発現増加を介する肝臓から血中への脂質分泌改善という2つのメカニズムを介して、低タンパク食で惹起する脂肪肝を改善する可能性が示唆された。

文献No.26
新しいコレステロール分析法の提唱

Tania GA et al., Cholesterol determination in foods: Comparison between high performance and ultra-high performance liquid chromatography.
Food Chemistry, 2016, 193:18?25

【要旨】

  わが国では、食品中のコレステロールの定量にはガスクロマトグラフィー(GC)が適用されているが(日本食品標準成分表、食品表示の公定法)、他のステロール類とのピークの重複という問題点がある。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)ではこの問題を回避でき、低温で分析を行うためコレステロールの酸化を防止するという利点もある。そこで、HPLCとUHPLC(超高速液体クロマトグラフィー)を用い、サワークリーム、卵、卵黄、チキンナゲットについてコレステロールの定量法を検討した。HPLCとUHPLCはいずれも迅速かつ高感度で、正確な測定が可能であったが、検出限界および定量限界はUHPLCで優れていた(UHPLC: 0.7μg/mL、2.4μg/mL、HPLC: 3μg/mL、11μg/mL)。とくに、UHPLCでは有機溶剤の使用量が少なく、分析時間も短縮されたことから、より環境に優しい分析方法であるといえる。本法は現代社会における食生活や調理法の多様化に的確に対応できるコレステロール分析法と判断され、今後の普遍化が期待される。

2.循環器疾患

文献No.188
50カ国177,000人におけるタマゴの摂取量と血中脂質、循環器疾患および死亡率との相関

Mahshid Dehghan et al., Association of egg intake with blood lipids, cardiovascular disease, and mortality in 177,000 people in 50 countries. Am. J. Clin. Nutr., 111(4):795–803 (2020).

【要旨】

 タマゴは必須栄養素を豊富に含むが、コレステロールの摂取源でもある。そのため、一部のガイドラインでは、循環器疾患(CVD)のリスクを高める可能性があるという懸念から、タマゴの摂取を制限することが推奨されてきた。大部分は高収入国での研究に基づくものであるが、タマゴが疾病に与える影響については、証拠は相反している。そこで、低、中および高収入国を対象にした大規模研究を対象にタマゴの摂取量と血中脂質、CVDおよび死亡率との相関について検討した
 それぞれの国ごとに確定された食物摂取頻度調査法(FFQ)でタマゴの摂取量が求められている21ヵ国を対象にしたPURE study*1の146,011人(93%以上がCVDの既往なしの者)、および2例の多国間前向き研究であるONTARGET*2およびTRANSCEND*3試験の31,544人(全て血管疾患患者)を対象に解析した。タマゴの摂取量は、過去1年間の摂取量についてFFQを用いて記録された。主なアウトカムは死亡および主要なCVD(CVDによる死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全)の複合評価とした。副次アウトカムは総死亡、主要なCVD、血中脂質、血圧とした。各研究において、施設、地域、国での差を考慮したうえで、ランダム切片を用いた多変量Cox frailtyモデルを用いてハザード比(HR)を算出した。
 PURE studyでは、複合イベントが14,700件(死亡8932件、CVD8477件)記録された。CVDの既往歴がある人を除外し、タマゴ1個/週未満の摂取と比較してタマゴ7個/週以上の摂取は、複合アウトカム(HR: 0.96, 95%CI:0.89-1.04; P-trend=0.74)、総死亡(HR:1.04;95% CI:0.94- 1.15; P-trend=0.38)、主要なCVD (HR: 0.92, 95%CI:0.83-1.01; P-trend=0.20)および血中脂質のいずれとも有意な相関は認められなかった。ONTARGET/TRANSCEND試験についても同様の結果であった(複合アウトカム(HR: 0.97; 95%CI:0.76-1.25; P-trend=0.09)、総死亡(HR: 0.88; 95%CI:0.62-1.24; P-trend=0.55)、主要CVD(HR: 0.97; 95%CI:0.73-1.29; P-trend=0.12 ))。
 6大陸50カ国、177,000人を対象とした3つの大規模国際前向き研究では、タマゴの摂取と血中脂質、死亡率、主要なCVDの間に有意な関連は認められなかった。

*1 PURE study:Prospective Urban Rural Epidemiology study
*2 ONTARGET:Ongoing Telmisartan Alone and in Combination with Ramipril Global End Point Trial
*3 TRANSCEND:Telmisartan Randomized Assessment Study in ACEI Intolerant Subjects with Cardiovascular Disease

文献No.186
2型糖尿病のリスクを有する成人を対象とした植物ベースの食事でのタマゴの摂取と心血管代謝リスク
との関係

Valentine Y Njike et al., Egg Consumption in the Context of Plant-Based Diets and Cardiometabolic Risk Factors in Adults at Risk of Type 2 Diabetes. J. Nutr. 151(12):3651-3660 (2021).

【要旨】

 植物由来の食事(PBD※1)は通常、2型糖尿病(T2DM)のリスクのある人に推奨されている。本研究では、T2DMのリスクを有する成人において、PBDにタマゴを含むことが、タマゴを除いた場合と比較して心血管代謝リスク因子にどのような影響を及ぼすかを検討した。
 T2DMのリスクを有する成人35名(平均年齢60.7歳、女性25名、男性10名)を、2つの食事療法群(PBDのみおよびPBD+タマゴ)に分け、4週間のウォッシュアウトを挟む6週間のランダム化単盲検クロスオーバー試験を行った。6週間の試験期間中、栄養士が参加者に対しPBDに関連して毎日タマゴを除く、あるいは2個含むように指導を行った。評価項目は血管内皮機能(EF:Endothelial function)、脂質プロファイル、血圧、インスリン感受性、体格測定、食事摂取量。血管内皮機能(EF)は、FMD(Flow-Mediated Dilatation)※2を測定した。データは一般化線形モデルを用いて解析した。
 PBDのみと比較して、PBD+タマゴの群でEFに悪影響は認められなかった(-1.7%±6.5% vs. -1.8%±7.5%、P=0.9805)。同様に、PBD+タマゴ群でPBDのみと比較して、脂質プロファイル、血圧、インスリン感受性、身体組成に悪影響は認められなかった(P = 0.1096-0.9781)。PBD+タマゴの群では、PBDのみの群と比較して、セレン(23.1 ± 30.3 μg/日に対して 2.3 ± 34.9 μg/日;P = 0.0124) およびコリン(172.0 ± 96.0 mg/日に対して -3.4 ± 68.1 mg/日;P < 0.0001) の摂取量が改善された。
 毎日タマゴ2個の摂取は、2型糖尿病のリスクのある成人の心血管代謝リスクに悪影響を及ぼさない。また、タマゴ摂取は2型糖尿病のリスクのある人に通常推奨される植物由来の食事では摂れない栄養素を補い、食事の質を高めることが示された。

※1 PBD(Plant-Based Diets) 動物性食品を除いた食事のことで、果物、野菜、全粒穀物、豆類、ナッツ類、種子、ハーブ、スパイスなどから構成され、赤肉、鶏肉、魚、卵、乳製品などは除かれた食事法。今回の研究ではUSDAのヘルシーベジタリアンミールプランに基づいたPBDを作成。

※2 FMD(Flow-Mediated Dilatation):FMDは血管内皮機能の検査の一つであり、上腕を用いて測定を行う。片側の上腕を駆血することにより阻血状態とし、一定時間駆血した後に開放し、超音波装置で測定した上腕動脈の血管径の最大変化率を用いて血管内皮機能を評価する。

文献No.178
血管機能に対する卵と卵成分の効果:介入研究のシステマティックレビュー

Hadi Emamat et al., The effect of egg and its derivatives on vascular function: A systematic review of interventional studies. Clin Nutr ESPEN. 2020 Oct;39:15-21. doi: 10.1016/j.clnesp.2020.06.016. Epub 2020 Jul 12

【要旨】

 循環器疾患(CVD)は、世界の多くの地域で主な死因の一つである。アテローム性動脈硬化症はCVDの最も重要な成因の1つであり、血管機能障害はアテローム性動脈硬化症の主要リスクである。本研究は、卵と卵に含まれる成分の摂取が血管機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
 PubMed、Scopus、Google Scholarで、2020年2月までの卵または卵の成分の摂取が成人の血管機能に及ぼす影響を評価した英語で発表された臨床研究を調査対象とした。調査の結果、35件の研究論文が得られ、最終的に2005年から2018年までの7件の介入研究が該当した。
 全卵の長期摂取は、FMD(血流依存性血管拡張)に有意な悪影響を及ぼさないことが示された。また、ルテイン強化卵黄およびオボアルブミン由来タンパク質加水分解物はそれぞれ、FMDおよびPWV(脈波伝播速度)に有意な悪影響を及ぼさないことが示された。
 しかし、卵黄由来リン脂質製剤での介入試験では、FMDが3.4%改善され(P <0.05)、グルコースの一部を全卵または卵白に置き換えた介入試験では食後のFMD値が改善された(P <0.05)。
 コレステロールが富むにも関わらず、全卵の摂取は血管機能に悪影響を及ぼさず、むしろある種の卵成分は血管機能を改善する可能性が示された。卵または卵成分が血管機能に及ぼす影響については、さらなる確認研究が必要である。

文献No.176
n-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)強化卵の摂取が冠動脈疾患(CAD)患者の炎症性バイオマーカー
および微小血管機能に及ぼす効果(クロアチアでの無作為化試験)

Ćurić ŽB, et al., Effects of n-3 Polyunsaturated Fatty Acid-Enriched Hen Egg Consumption on the Inflammatory Biomarkers and Microvascular Function in Patients with Acute and Chronic Coronary Syndrome-A Randomized Study. Biology, 2021, 10(8), 774.

【要旨】

 n-3系PUFA(多価不飽和脂肪酸)の摂取は、心血管疾患のリスクを低減する可能性が指摘されている。本研究では、n-3系PUFA強化卵摂取によるCAD患者への有効性および安全性の検証を目的とした。
 20名の急性CAD(Ac-CAD)患者と20名の慢性CAD(Ch-CAD)患者を対象として、対照群(20名)は通常の鶏卵3個/日(249 mg n-3系PUFAs/日)、介入群(20名)はn-3 系PUFA強化卵3個/日(1,053 mg n-3系PUFAs/日)を3週間摂取した。そして、介入前後で血清脂質および脂肪酸組成、炎症および酸化ストレスバイオマーカー、微小血管に及ぼす影響を調べた。
 n-3系PUFA強化卵摂取群では、血清のn-3 PUFA濃度は有意に上昇し、LDLコレステロール(前後比較:P = 0.011)、hsCRP(群間比較:P < 0.001)、IL-1a(前後比較:P = 0.047)およびGPx活性(前後比較:P < 0.001)が有意に低下した。しかし、閉塞後反応性充血(PORH)には変化は見られなかった。Ac-CAD患者の層別解析では、n-3系PUFA強化卵摂取群でLDLコレステロール(前後比較:P = 0.002)とIL-6(前後比較:P = 0.047)が有意に低下した。さらにAc-CAD患者をランダムに選択して脂肪酸組成を測定したところ、n-3系PUFA強化卵摂取群で血清中のn-3系PUFA濃度が上昇し、n-6/n-3 PUFA比は介入前後で34%低下した。 本研究の結果から、n-3系PUFA強化卵の摂取は、CAD患者の血清のn-6/n-3比を好ましい値に低下させ、軽度の抗炎症作用を示す可能性が示された。また、通常卵とn-3系PUFA強化卵のいずれも、CAD患者が日常の食事で安全に摂取できることが示された。

註:ここで用いられたn-3PUFA強化卵は通常飼料中の大豆油5%を魚油(1.5%)とアマニ油(3.5%)の混合油で置換した飼料を摂取させて得られたもので、1個当たり ALA 230.5 mg, EPA 15. 1 mgおよびDHA 105.5 mgを含む。対象卵のn-3 PUFA含量はALA 36 mg, EPA 0 mgおよびDHA 47 mg.

略語一覧
hsCRP 高感度C反応性タンパク
IL-1a インターロイキン-1a
GPx グルタチオンペルオキシダーゼ

文献No.175
卵の摂取と動脈硬化との関連:縦断研究

Naiwen Ji et al., Association between egg consumption and arterial stiffness: a longitudinal study. Nutrition Journal, 2021, 20:67

【要旨】

 卵の摂取と循環器疾患(CVD)のリスクとの関連については、これまでの研究では明確にされていない。本研究では、CVDの主要な前臨床病因である動脈硬化のリスク変化と卵の摂取との関連を縦断的に調べることを目的とした。
 本研究は中国の唐山で実施された人口ベースの前向きコホート研究であるKailuan Studyに参加したCVDと癌ではない成人7,315名の中国人を対象とした。卵の摂取量は2014年に食事頻度調査によって評価した。動脈硬化は上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)※1で評価し、追跡開始時と追跡調査中(平均追跡調査:3.41年)に繰り返し測定した。解析には一般線形回帰分析を用い、年齢・性別などについて調整し、卵の摂取量が異なる群間のbaPWV変化率の平均値を算出した。
 その結果、適度な卵摂取群(3~3.9個/週)のbaPWV変化率(調整平均:0.2±11.4cm/s/y)は、卵摂取量が少ない群(0〜1.9個/週)の値(調整平均:35.9±11.2cm/s/y)と比較して、追跡期間中のbaPWVの変化率が最も小さかった(P=0.002)。卵摂取量が少ない群と多い群(5個以上/週)では、baPWVの変化は同様であった。
 今回の大規模縦断研究では、卵摂取量が少ない群と多い群の間で、baPWVレベルで評価される動脈硬化に有意な差は認められなかった。しかし、適度な卵摂取群(3~3.9個/週)は、動脈硬化のリスク低減に効果があると考えられた。

※1 上腕-足首脈波伝播速度(baPWV):
上腕から足首の2点間の距離と脈動の時間差から算出される値。血管の硬さの 程度が分かり、動脈硬化の指標として用いられている。

文献No.162
腎機能正常者にコリンサプリメントを投与すると空腹時の血漿TMAO濃度を上昇させるが、タマゴの摂取では
認められない: 無作為化臨床試験

Wilcox J et al., Dietary Choline Supplements, but Not Eggs, Raise Fasting TMAO Levels in Participants with Normal Renal Function: A Randomized Clinical Trial. Am J Med. 2021. doi: 10.1016/j.amjmed.2021.03.016.

【要旨】

 トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)は、コリンなどから腸内細菌によって生成し、血栓症や動脈硬化の原因となる代謝物とみなされている。卵にはコリンが豊富に含まれているが,卵を日常的に摂取した場合の血中や尿中のTMAOレベルや血小板機能に及ぼす影響は不明である。
 腎機能が正常な(推定糸球体濾過量>60)健康な被験者(男性41%、白人81%、年齢中央値28歳)を5つのグループ((i)ゆで卵4個(n=18)、(ii)酒石酸コリンサプリメント(n=20)、(iii)ゆで卵4個+酒石酸コリンサプリメント(n=16)、(iv) 卵4個分の卵白+酒石酸コリンサプリメント(n=18)、(v)ホスファチジルコリンサプリメント(n=10))に分けて、4週間の介入試験を行った*補足1。空腹時に採血、採尿し、TMAOを含むコリン代謝物の濃度と血小板反応性を評価した。
 その結果、被験者の血漿中TMAO濃度は、酒石酸コリンを含む介入群(ii、iiiおよびiv群)で有意に上昇した(P <0.0001)。一方で、ゆで卵またはホスファチジルコリンサプリメント介入群(iおよび v群)では血漿中のTMAO濃度には有意な上昇は認められなかった。血小板反応性は、酒石酸コリンを含む介入群すべてで有意に上昇したが(いずれもP <0.01)で、ゆで卵やホスファチジルコリンサプリメント介入群では有意な上昇は認められなかった。
 以上の結果より、卵黄にはコリンが多く含まれているにもかかわらず,本試験の被験者においては1日4個の卵を摂取しても,TMAOや血小板反応性の有意な上昇は認められなかった。しかし,同程度の総コリン量を有する酒石酸コリンサプリメントでは,TMAOと血小板反応性の両方を上昇させた。このことから,食事中のコリンの形態と供給源が,全身のTMAOレベルと血小板反応性に異なる影響を与えることが示された。

補足1:各試験食品の総コリン量
(i) ゆで卵4個:467mg(卵1個50gあたり116.8mg)
(ii) 酒石酸コリンサプリメント2錠:411mg(1錠あたり205.5mg)
(iii) ゆで卵4個+酒石酸コリンサプリメント:878mg
(iv) 卵4個分の卵白+酒石酸コリンサプリメント:413mg
(v)ホスファチジルコリンサプリメント:410mg(1錠あたり68.3mg)

文献No.156
ヒスパニック・コミュニティ・ヘルス研究/ラテン系住民研究(HCHS/SOL study)における食事要因、腸内細菌叢
および血清トリメチルアミン-N-オキシドと心血管疾患(CVD)循環器疾患との関連(米国でのコホート研究)

Mei Z et al., Dietary factors, gut microbiota, and serum trimethylamine-N-oxide associated with cardiovascular disease in the Hispanic Community Health Study/Study of Latinos. Am. J. Clin. Nutr., 2021. doi: 10.1093/ajcn/nqab001.

【要旨】

 トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)は、コリンやL-カルニチンなどから腸内細菌によって生成し, 循環器疾患(CVD)と相関すると見なされている。しかし、TMAOに関連する主要な食事要因や腸内細菌種は,ヒトではまだ特定されていない。本研究では、HCHS/SOL studyに参加した18~74歳の3972名(女性57.3%)を対象に、CVDと食事要因および腸内細菌種との関連についてロジスティック回帰分析を用いて評価した。摂食情報(2008-2011年)は24時間思い出し法により取得し、血清のTMAOとその前駆体(コリン、カルニチン、ベタイン)を測定した。2016-2018年のフォローアップ対象者(n=626)について、メタゲノムシークエンス法を用いて腸内細菌叢のプロファイリング(特性解明)を行った。
 解析の結果、CVDの有病率と血清TMAOとは正相関し、1標準偏差(SD)上昇ごとのオッズ比(OR)は、1.34(95%信頼区間:1.17‐1.54)であった。魚、赤身肉および卵が血清TMAOやその前駆体と正相関を示す食事因子のトップスリーであった。TMAOと有意に関連する腸内細菌種は9種同定された(偽発見率FDR<0.05)。そのうち3種は、カルニチンをトリメチルアミン(TMA)に変換する酵素であるカルニチンモノオキシゲナーゼをコードする相同遺伝子を持っている可能性が示された。同定された9種類の腸内細菌種のうちの4種の菌の生息数が多い参加者で、少ない参加者よりもTMAOと赤身肉との相関性が顕著であったが(交互作用のP 値=0.013)、TMAOと魚および卵との関連性は認められなかった。以上の結果より、本研究に参加した被験者においても、CVDリスクとTMAOの相関が認められ、とくに、魚、赤身肉および卵の摂取量が血清TMAOと相関する主要な食事要因であることが解った。また、TMAを産生する腸内細菌叢が同定され、赤身肉とTMAO関連微生物による修飾は、食事中のカルニチン由来のTMA産生を支持するが、魚とTMAOとの相関は腸内細菌叢とは無関係であることが示唆された。

文献No.146
コリンの摂取は安定型狭心症(SAP)患者での急性心筋梗塞(AMI)発症リスクを高める。

Van Parys A et al., Dietary choline is related to increased risk of acute myocardial infarction in patients with stable angina pectoris. Biochimie. 2020, 173:68-75.

【要旨】

 血漿コリン値が高いと、メタボリックシンドロームや心血管疾患を含む慢性疾患のリスクと関連する。しかし、コリンの摂取は血漿コリン濃度とは相関しておらず、コリンの摂取と心血管イベントに関する研究はほとんどなく、証拠は矛盾している。その上、コリンの栄養所要量は確立されておらず、依然としてコリンの摂取と心血管イベントとの関連性は論点となっている。
 本研究では、安定型狭心症(SAP)が疑われる患者における食事性コリンと急性心筋梗塞(AMI)の発症リスクとの関連を評価した。ノルウェー西部ビタミン介入試験(WENBIT)に参加した合計1,981人の患者(男性80%、年齢中央値62歳)を対象とし、169種の食品についての食物摂取頻度質問票を用いて算出したエネルギー調整後のコリン摂取量とWENBITから得られたAMIデータをもとに、Cox回帰分析によりリスク評価を行った。
エネルギー摂取量で調整した総コリン摂取量(中央値)は288mg/日(25%タイル値255、75%タイル値326 )、追跡期間(中央値)は7.5年(25%タイル値6.3、75%タイル値8.8)であり、追跡期間中に312人(15.7%)の患者が少なくとも1回のAMIを経験した。AMI発症リスク(ハザード比、HR)は、総コリンで50mg 増加あたりHR=1.11, 95%CI:1.03-1.21、ホスファチジルコリンで50mg増加あたりHR=1.24,95%CI:1.08-1.42、スフィンゴミエリンで5mg増加あたりHR=1.16 95%CI:1.02-1.31であった。
 以上の結果より、総コリン、ホスファチジルコリン、およびスフィンゴミエリンの摂取量の増加は、SAPが疑われる患者のAMI発症リスクの上昇と有意な関連が認められた。一方、健常者においては食事性コリンと心血管疾患リスクとの間に関連性が認められないことも報告されている*1。適切な栄養所要量を設定するためには、コリン摂取量の健康効果に関するより多くの研究が必要であると考える。

1)タマゴ科学研究会 タマゴ 学術情報 文献No.71
コリン・ベタインの摂取とCVDリスクの関係(メタアナリシス)
Katie A M et al., Dietary choline and betaine and risk of CVD: A systematic review and meta-Analysis of prospective studies, Nutrients, 2017, 9(7), 711; doi: 10.3390/nu9070711.

文献No.143
全卵摂取は、過体重の閉経後女性の血漿TMAO濃度や腸内細菌叢に影響を与えずに血漿コリンとベタインを増加させる

Chenghao Zhu et al., Whole egg consumption increases plasma choline and betaine without affecting TMAO levels or gut microbiome in overweight postmenopausal women. Nutr Res . 2020, 78, 36-41.

【要旨】

 重要な共生系の一つとして腸内細菌叢は循環器疾患(CVD)を含む様々な疾病と代謝的に関連している。トリメチルアミンは食事由来のコリンやベタイン、L-カルニチンから生成し、肝臓において、脂質代謝に影響を及ぼすトリメチルアミンN-オキシド(TMAO)に変換される。生体内のTMAOはCVDのリスクと正の相関がある。卵にはコリンが豊富に含まれるため、卵の摂取が血中TMAOを増加させる可能性がある。本研究では過体重の閉経後女性において、1日2個の卵摂取が腸内細菌叢の変化を介し血中TMAO濃度に影響を与えるかどうかを評価するため、ランダム化クロスオーバー試験を実施した。過体重の閉経後女性20名(57.7±5.64歳)を対象とし、朝食として全卵2個あるいは卵黄を除去した同等量の対照食を、それぞれ4週間摂取させた。ウォッシュアウト期間は4週間とした。各介入の前後で空腹時採血と採便を行い、血中TMAO、コリン、ベタイン、その他代謝物および腸内細菌叢の組成を分析した。その結果、血中TMAO濃度には変化は無かったが、血中コリンおよびベタインの濃度は全卵の摂取によって有意に増加した。対照食では増加しなかった。腸内細菌叢の組成に卵摂取による影響はなかったが、大きな個体差が認められた。以上より、過体重の閉経後女性において、卵2個の摂取は血中TMAO濃度および腸内細菌叢の組成に影響を与えることなく、血中コリンおよびベタインを増加させることが示された。

文献No.142
卵の摂取量とCVDリスク:前向きコホート研究のメタ分析

Godos J et al., Egg consumption and cardiovascular risk: a dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. Eur J Nutr. 2020. doi: 10.1007/s00394-020-02345-7.

【要旨】

 世界的に主要な死亡原因である循環器疾患(CVD)は、食事による影響を強く受ける。この研究では、卵の摂取と冠状動脈性心疾患(CHD)、脳卒中、心不全を含むCVD発症リスクおよびCVDによる死亡リスクとの関連を解析した。適格基準を満たす39件の論文を抽出(解析対象者は合計1,831,038人)し解析した。その結果、CVDのリスクは最大6個/週(相対リスクSRR=0.96, 95%CI:0.92-1.00)、CHDのリスクは最大2個/週(SRR=0.96,0.91-1.00)までの卵摂取で有意に低下した。心不全では7個/週(SRR=1.15, 95%CI:1.02-1.30)以上の卵摂取で有意なリスク上昇が認められた。脳卒中リスクとの間には、有意な関連が認められなかった。得 ら れ た 結果 の 証拠 の 強 さ の 点 で は 、 脳卒中は中程度( リスク な し と 見 な し た) 、 そ の 他 の 疾患 に 関 し て は そ の 程度 は 低 か った 。一方で、糖尿病の有無に関するサブグループ解析では糖尿病がある場合には卵7個/週の摂取とCVDリスク、CHDリスクとの間には有意な低下は認められなかった。
  以上の結果より、卵の摂取がCVDリスクに対してイベントリスクが低下するエビデンスが確認された一方で、卵摂取がCVDリスクを増やすという決定的なエビデンスは認められない。心不全に関しては今後、卵摂取量の増加とリスク上昇の関連を探る研究が必要だろう。

文献No.141
コリン、トリメチルアミンN-オキシドの摂取はLdlr-/-およびApoe-/-雄マウスの動脈硬化発症に影響しない(動物試験)

P. Aldana-Hernández et al., Dietary Choline or Trimethylamine N-oxide Supplementation Does Not Influence Atherosclerosis Development in Ldlr−/− and Apoe−/− Male Mice. J. Nutr. 2020, 150:249–255.

【要旨】

 コリンは重要な栄養素であるが、近年、コリンを過剰に摂取すると腸内細菌叢によってトリメチルアミン(TMA)に代謝され、肝臓でトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)に酸化されることが報告されている。また疫学研究では、血漿TMAO濃度と心血管疾患に正の相関があり、動物試験では動脈硬化モデルであるapoE欠損(Apoe -/-)マウスにおける過剰なコリンの摂取と血漿TMAO濃度およびアテローム性動脈硬化症の病変サイズとの間に相関が示されている。本研究では、コリンの摂取とアテローム性動脈硬化症の関係性を詳しく調査した。
  2種類のアテローム性動脈硬化症モデルマウス(LDL受容体欠損(Ldlr -/-)型およびApoe -/-型)を4群に分け、それぞれに対照食、1%コリン含有食、0.9%ベタイン含有食、0.12%または0.2%TMAO含有食を与えた。試験食介入後、血漿脂質と大動脈でのアテローム性動脈硬化症の病変サイズを測定した。
  Ldlr -/-マウスを8週間飼育した結果、コリン、TMAO含有食群で、対照食群に対して血漿TMAO濃度がそれぞれ1.6倍、4倍増加した。16週間飼育では、TMAO含有食群でのみ血漿TMAO濃度が対照食群に対して2倍に増加した。Apoe -/-マウスでは 、12週間、コリン、ベタイン、TMAO含有食を摂取しても血漿TMAO濃度は増加しなかった。ただし、28週間のコリンとTMAOの摂取では、血漿TMAO濃度は対照食群と比べて、それぞれ1.8倍と1.5倍に有意に増加した。
  しかし、モデルマウスの系統に関係なく、食餌の種類によってアテローム性動脈硬化症の病変サイズが変化することはなかった。以上の結果より、コリン、トリメチルアミンN-オキシドを高レベルで摂取させると血漿TMAOのレベルは高まるが、動脈硬化症の発症程度には差がないことが示唆された。

文献No.137
日本人の動物性および植物性タンパク質の摂取量と総死亡率および原因特異性死亡率との関連性(コホート研究)

Budhathoki S et al., Association of Animal and Plant Protein Intake with All-Cause and Cause-Specific Mortality in a Japanese Cohort. JAMA Intern Med. 2019 Nov 1;179(11):1509-1518.

【要旨】

 本研究では、日本人において動物性および植物性のタンパク質摂取と、総死亡率との関連を評価した。癌、循環器疾患、虚血性心疾患の病歴がない45〜74歳の70,696人(男性45.5%、女性54.5%)を対象とした17年間の追跡調査を実施、その間の死亡者数計12,381人。タンパク質摂取量は、調査開始から5年後の計5回分の食持頻度調査の結果から推定した。タンパク質摂取量/総エネルギー比に基づいて、被験者を五分位のカテゴリーに分けてデータを分析し、総死亡率および原因特異性死亡率のハザード比(HR)を推定した。
 植物性タンパク質の摂取量が多いと、総死亡率と循環器疾患関連死亡率が低下した(HR=0.88、95%CI:0.82-0.95)。動物性タンパク質の摂取は総死亡率とは関連していなかったが、赤身肉タンパク質の3%エネルギー相当量を植物性タンパク質で置き換えると、総死亡率(HR=0.66、95%CI:0.55-0.80)、癌関連死亡率(HR=0.61、95%CI:0.45-0.82)、循環器疾患関連死亡率(HR=0.58、95%CI:0.39-0.86)が低下した。 加工肉タンパク質からの置き換えでは、総死亡率(HR=0.54、95%CI:0.38-0.75)と癌関連死亡率(HR=0.50、95%CI:0.30-0.85)が低下した。卵タンパク質からの置き換えでは、総死亡率は低下した(HR=0.82、95%CI:0.70-0.97)が、循環器疾患関連死亡率との関連は認められなかった(HR=0.79、95%CI:0.57-1.11)。
 本研究によって、赤身肉、加工肉および卵のタンパク質の摂取で総死亡率には影響は認められなかったが、植物性タンパク質に置き換えると総死亡、癌関連死亡および循環器疾患関連死亡の低下と相関したことから、タンパク質源を選択することの重要性が示された。

文献No.136
白人における動物性および植物性タンパク質の摂取量と総死亡率および原因特異性死亡率との関連性(コホート研究)

Huanget J et al., Association Between Plant and Animal Protein Intake and Overall and Cause-Specific Mortality. JAMA Intern Med. 2020 Jul 13:e202790. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.2790.

【要旨】

 近年、高タンパク質食の重要性が注目されるが、植物性タンパク質と動物性タンパク質の摂取に関する長期的な原因特異性死亡率の分析はされていない。そこで本研究では、1995年から2011年にアメリカ国立衛生研究所で行われた416,104人を対象とした前向きコホート研究を分析した。いくつかの重要な危険因子を調整すると、植物タンパク質の摂取量の増加は、男女とも総死亡率および心血管疾患による死亡率の低下と相関していた。10 g/ 1000 kcalあたりの総死亡率のハザード比は、男性:0.88 (95%CI、0.84 - 0.91)、女性:0.86 (95%CI 0.82 - 0.90)であった。一方、10 g/ 1000 kcalあたりの心血管疾患による死亡率のハザード比は、男性:0.88 (95%CI、0.81 - 0.95)、女性:0.83 (95%CI 0.75 - 0.92)であった。とくに、エネルギー3%あたりの動物性タンパク質(卵タンパク質、赤身肉タンパク質)を植物性タンパク質に置き換えると、総死亡率との間に顕著な逆相関が確認された(卵の場合は男性で24%、女性で21%リスク低下、赤身肉の場合は男性で13%、女性で15%リスク低下)。本研究の結果、植物性タンパク質の摂取量が多いと総死亡および循環器疾患脂肪のリスクが僅かながら低下することが認められ、タンパク質源の選択が健康と寿命に影響を与える可能性が示唆された。

文献No.126
卵の摂取量とCVD発症および総死亡リスクとの関連(コホート研究)

Xia X et al., Associations of egg consumption with incident cardiovascular disease and all-cause mortality. Sci China Life Sci., 2020, 10. doi: 10.1007/s11427-020-1656-8.

【要旨】

 卵は栄養豊富であるが、その一方でコレステロールが多く含まれているため、消費をためらう食品の1つである。中国でのこれまでの疫学研究において、卵の摂取量が7個/週以上摂取した場合におけるCVD(心血管疾患)発症および総死亡リスクについては明らかにされていない。
 本研究では、Prediction for Atherosclerotic Cardiovascular Disease Risk in China(China-PAR)プロジェクトに登録されたCVD歴のない成人102,136名を対象として、卵の摂取量とCVD発症および総死亡リスクとの関係を調査した。追跡調査期間(777,163人年≒約7.6年)のCVD発症は4,848件、死亡は5,511件が確認された。卵の摂取量とCVD発症および総死亡リスクとの間にはU字型の関連が観察された。卵の摂取量が3~6個未満/週に対する1個未満/週および10個以上/週のCVD発症リスク(ハザード比、HR)はHR=1.22,95%CI:1.11-1.35およびHR=1.39,95%CI:1.28-1.52であった。総死亡リスクはそれぞれHR=1.2995%CI:1.18-1.41およびHR=1.13, 95%CI:1.04-1.24であった。
 本研究の結果、卵の摂取量が少なくても多くてもCVDの発症リスクと総死亡リスクが高まることが認められた。CVD予防には週に3~6回の中程度の卵摂取が推奨されるべきであると著者は主張している。

文献No.125
卵の摂取量とCVD発症リスク:米国の3件の大規模コホート研究*1のプール解析と関連研究の系統的レビューおよびメタアナリシスのアップデート

Drouin-Chartier JP et al., Egg consumption and risk of cardiovascular disease: three large prospective US cohort studies, systematic review, and updated meta-analysis. BMJ., 2020, 321:11. 1081-1095.

【要旨】

 本研究では、卵の摂取とCVD(心血管疾患)発症リスクとの関係を調査するため、食事や潜在的な交絡因子を制御した①最長32年間の追跡調査研究を含む米国の3つの大規模コホート研究*1のプール解析(対象者:成人215,618名)および②米国、欧州、アジアを含む関連研究のメタアナリシス(対象者:2型糖尿病患者を含む成人1,720,108名)を行った。
 本研究の結果、卵を1個/日の追加摂取するごとのCVD発症リスク(ハザード比、HR)は、①ではHR=0.98,95%CI:0.92-1.04、②ではHR=0.98, 95%CI:0.93-1.03となり、関連は認められなかった。卵の摂取量が最も高い群と卵の摂取量が少ない群との間で比較しても、①ではHR=0.93, 95%CI:0.82-1.05、②ではHR=0.99, 95%CI:0.93-1.06であり、同様な結果が得られた。②は2型糖尿病患者のみに制限した場合、卵を1個/日の追加摂取するごとのCVD発症リスクは、HR=1.25,95%CI:0.99-1.59であった(有意差なし)。卵の摂取量が最も高い群と卵の摂取量が少ない群との間で比較すると、HR=1.40, 95%CI:1.00-1.97となり、卵の摂取量が最も高い群ではリスクの上昇が認められたが、研究間にかなりの異質性が存在した。
 米国の3つの大規模コホート研究のプール解析および関連研究のメタアナリシスの結果、卵の摂取(1日あたり最大1個)とCVD発症のリスクとの間に関連性は認められなかった。2型糖尿病患者の卵摂取とCVD発症リスクについては研究間でかなりの不均一性が観察されるため、これらの不一致を理解するには、さらなる研究が必要である。

1) Nurses' Health Study[NHS]:1988-2012
Nurses' Health Study [NHS II]:1991-2013
Health Professionals Follow-up Study [HPFS]:1986-2012
<補足> 本研究に対しては、大規模な介入研究の必要性や、単一の食品だけでなく栄養や
食生活全体に焦点を当てた視点からの確認も必要であるとの主張もある。
Odegaard AO et al., BMJ.,2020,368, doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m744.

文献No.120
米国の成人における卵と栄養素および心血管疾患の危険因子との関連(横断研究)

Melough MM et al., Association of eggs with dietary nutrient adequacy and cardiovascular risk factors in US adults. Public Health Nutr. 2019:1-10. doi: 10.1017/S1368980019000211.

【要旨】

  全卵は、栄養素を豊富に含んでいる。本研究では、全卵の摂取が栄養素の摂取にどの程度寄与しているかを検討し、米国成人におけるCVDの危険因子との関連を横断研究にて評価した。
  本研究は、米国の国民健康栄養調査(NHANES)2003~2012年における21,845名のデータを用いて解析した。
  解析の結果、米国成人の約73%が全卵を摂取していた。卵の摂取は、タンパク質、飽和脂肪、一価および多価不飽和脂肪、Fe、Zn、Ca、Se、コリン、その他のビタミンやミネラルの摂取量の増加と関連していた。卵の摂取量は、食事由来のコレステロール摂取量、BMIおよび胴囲と正の相関があった。一方、卵の摂取量は、心血管疾患の危険因子として知られる血清コレステロールとの相関はなく、TAG、TAG:HDL-コレステロール、TC:HDL-コレステロールとは負の相関があった。
  本研究により、卵の摂取は複数の栄養素の供給源として重要であり、心血管疾患の危険因子とは有益な相関があるケースも見られ、ネガティブな影響は認められなかった。

文献No.107
卵および魚の摂取は心不全リスクと関連なし(コホート研究)

Virtanen HEK et al., Intake of Different Dietary Proteins and Risk of Heart Failure in Men: The Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study. Circ Heart Fail. 2018 11(6):e004531.

【要旨】

  タンパク質の摂取と心不全の関連を調べるため前向きコホート研究を実施した。1984~1989年に開始されたKuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Studyの参加者のうち42~60歳の男性2441名を対象とし、約20年間の追跡調査を実施した。タンパク質摂取については開始時4日間の食事記録を取り調査した。心不全の発生データはフィンランドの登録機関から入手し、タンパク質摂取による心不全リスクをCox比例ハザード比から推定した。平均22.2年間の追跡期間中、心不全の発生は334例であった。総タンパク質の高摂取は心不全リスクの増加と関連する傾向がみられた(最も摂取量が多いグループの多変量調整ハザード比HR=1.33;95%CI: 0.95-1.85; P-trend=0.05)。タンパク質源別の解析を行った結果、動物性タンパク質摂取でも全タンパク質の場合と同様の傾向がみられ、HR=1.43(95%CI: 1.00-2.03; P-trend=0.07)であったが、魚ではHR=1.00(95%CI: 0.73-1.39; P-trend=0.48)、卵ではHR=0.98(95%CI: 0.71-1.36; P-trend=0.80)であり心不全リスクとの相関は認められなかった。一方、乳製品ではHR=1.49(95%CI: 1.06-2.09; P-trend=0.03)、発酵乳製品ではHR=1.70(95%CI: 1.21-2.40; P-trend<0.001)であり心不全リスクと正の相関が見られた。また、植物性タンパク質はHR: 1.17(95%CI: 0.72-1.91; P-trend=0.35)であり相関は無かった。
  以上より、中年男性では動物性タンパク質の高摂取が心不全リスクの増加に関連するが、魚および卵摂取は心不全リスクに関連しないことが示唆された。

文献No.106
TMAOは単球を増加させ心血管疾患リスクの上昇に関連する(動物試験)

Haghikia A. et al., Gut Microbiota?Dependent Trimethylamine N-Oxide Predicts Risk of Cardiovascular Events in Patients With Stroke and Is Related to Proinflammatory Monocytes, Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2018 Jul 5. doi: 10.1161/ATVBAHA.118.311023.

【要旨】

  腸内微生物依存性代謝物、特にトリメチルアミン由来のトリメチルアミンオキサイド(TMAO)は最近、アテローム性動脈硬化症および血栓症を促進すると報告されている。本研究では、2つの独立した前向きコホートにおける虚血性脳卒中患者のTMAOと心血管リスクとの関係を初めて検討し、脳卒中患者の心血管リスクの潜在的な要因として、TMAOと炎症促進性単球との関連性をマウスを用い調べた。
  第1の研究(n=78)では、高TMAO値が心筋梗塞、再発性脳卒中および心臓血管死を含む心血管疾患の発症リスクの増加と関連していた(Q4 vs. Q1; HR=2.31; 95%CI, 1.25-4.23; P <0.01)。第2の独立した検証コホート(n=593)では、TMAO値が高いと有害な心血管疾患の危険性が顕著に増加することが認められた(Q4 vs. Q1; HR=5.0; 95%CI, 1.7-14.8; P <0.01)。また、高血圧、糖尿病、LDLコレステロールを含む心血管リスク因子で調整後では、HR=3.3; 95%CI, 1.2-10.9; P = 0.04と推定された。TMAO値と炎症誘発性中間体CD14++ CD16+単球の割合との間にも有意な相関が見られた(r=0.70; P <0.01)。
  さらに、TMAO合成を増加させるためにコリンを豊富に含む食餌を与えたマウスでは、炎症誘発性マウスLy6Chigh単球のレベルは対照群よりも有意に高かった(choline添加群: 9.2±0.5×103/ mL vs. 対照群:6.5±0.5×103 / mL; P <0.01)。この増加は、腸内微生物叢が枯渇したマウスでは見られなかった。(choline+ABS:5.4±0.7×103 / mL; P <0.001 vs. choline)
  本研究の結果は、単球でのTMAO関連増加が、TMAO値の上昇した患者の心血管疾患リスクの上昇をもたらす可能性を示唆している。

文献No.103
卵摂取はCVDリスク低下に関連がある(コホート研究)

Chenxi Qin et al., Associations of egg consumption with cardiovascular disease in a cohort study of 0.5 million Chinese adults. Heart. 2018, 1?8. doi:10.1136/heartjnl-2017-312651.

【要旨】

  中国では他の高所得国と比較して出血性脳卒中の発症率が高い。卵摂取との関連について、脳卒中のサブタイプ別に解析した大規模な調査は無いため、卵摂取と循環器疾患(CVD)、虚血性心疾患(IHD)、主要冠動脈疾患(MCE)、出血性脳卒中および虚血性脳卒中との関連を調べることを目的として前向きコホート研究を実施した。
  2004年から2008年の間に、中国の10地域(都市部5地域、農村部5地域)から募集した30-79歳50万人以上のうち、癌、CVD、糖尿病の既往歴のない461,213人を対象として8.9年の追跡調査を行った。期間中、CVDは83,977件、MCEは5103件発生し、CVD死亡例は9985件であった。参加者の卵摂取頻度を調査し、ほとんど食べない(n=42,046)、1~3日/月(n=92,568)、1~3日/週(n=216,990)、4~6日/週(n=49,182)、7日/週以上(n=60,427)の5群に分け、層別Cox回帰分析を行い、卵摂取と各CVDによる死亡率との関連について調整ハザード比(HR)を求めた。
  その結果、非摂取と比較して毎日摂取でCVDリスクが低かった(HR:0.89,95%CI 0.87-0.92)。また、多変量解析により求めたHR(95%CI)は、IHD:0.88(0.84-0.93)、MCE:0.86(0.76-0.97)、出血性脳卒中:0.74(0.67-0.89)、虚血性脳卒中:0.90(0.85-0.95)であり、全ての指標で卵摂取と用量依存的に負の相関があった(P<0.05)。また、毎日摂取者は非摂取者と比較してCVD死亡リスクが18%低く、出血性脳卒中の死亡リスクが28%低かった。
  以上から、中国の成人では適度な量の卵摂取(1個/日以下)は他のリスク因子とはほとんど無関係に、CVDのリスク低下と有意に相関することが示された。

文献No.93
朝食における卵2個の摂取はCVDリスク因子を改善する(介入研究)

Missimer A et al., Compared to an Oatmeal Breakfast, Two Eggs/Day Increased Plasma Carotenoids and Choline without Increasing Trimethyl Amine N-Oxide Concentrations. J. Am. Coll. Nutr., 2018, 37(2):140-148.

【要旨】

  卵の習慣的な摂取は、その抗酸化能により循環器疾患のリスクを改善する可能性がある。本試験では、18-30歳の健常男女48名を対象とし、朝食として毎日2個の卵およびオートミール38.4gを4週間摂取するクロスオーバー試験を実施した(ウォッシュアウト期間は3週間)。各介入期間の終わりに空腹時血液および末梢血単核細胞(PBMC)を採取した。核磁気共鳴分析の結果、卵摂取により血中HDLおよび大型のLDL濃度が有意に増加し(p<0.001およびp<0.05)、アポリポタンパク質濃度も有意に増加した(p<0.05)。抗酸化物質のルテイン、ゼアキサンチンの摂取量に有意差は無かったが、血中カロテノイド濃度は卵摂取により明らかに増加した(p<0.001)。一方、LCAT、CETPおよびパラオキソナーゼ1の活性には2群間で差は無かった。食事および血中のコリンはどちらもオートミール摂取群と比較して卵摂取群で有意に高かったが(p<0.001)、血中TMAO(トリメチルアミン-N-オキシド)濃度には有意な差がなかった。さらに、卵2個の摂取は、PBMCにおけるコレステロール代謝、酸化およびTMAO産生に関連する遺伝子発現に影響しなかった。
  以上の結果から、朝食における卵2個の摂取は、オートミール食と比較して血中TMAO濃度に影響を及ぼさず、血中カロテノイドの増加およびCVDリスク関連バイオマーカーの改善をもたらすことが示された。

※LCAT(レシチンコレステロールアシル基転移酵素):HDL中の遊離コレステロールをエステル化する酵素。
※CETP(コレステロールエステル転送タンパク質):HDL中のコレステロールエステルをVLDLやLDLなどのリポ蛋白に転送するタンパク質。

文献No.83
卵摂取とCVDおよび糖尿病リスク(総説)

Geiker NRW et al., Egg consumption, cardiovascular diseases and type 2 diabetes. Eur. J. Clin. Nutr., 2017, doi: 10.1038/ejcn.2017.153.

【要旨】

  卵は栄養素が豊富で、必須脂肪酸やアミノ酸の良い供給源である。一方で、コレステロール含有量が多く、 1970年代以降、健常人では卵の摂取量を2?4個/週に、心血管疾患(CVD)や2型糖尿病(T2D)では摂取量をさらに制限することが推奨されてきた。本総説では、この摂取制限について評価した。3種のWebデータベースを用いて文献検索を行い、2015年春までの10年間に発表されたヒトを対象とした研究(介入研究および観察研究)を抽出した。介入研究からは、健常者およびT2D患者において、卵摂取の増加がCVDおよびT2Dのリスクマーカーに有意な影響を及ぼさないことが示された。観察研究では、卵の摂取とCVDおよびT2Dリスクに関連が見られる報告もあったが、卵の摂取量が多い人に特徴的な食事パターンやその他の因子が関わっている可能性が指摘された。食事パターンや身体活動および遺伝要因が、卵のような単一の食品よりも大きな影響を及ぼすと考えられる。
  結論として、CVDまたはT2Dの患者において、健康的な生活習慣が確立されていれば7個/週の卵摂取は安全であると言える。

文献No.71
コリン・ベタインの摂取とCVDリスクの関係(メタアナリシス)

Katie A M et al., Dietary choline and betaine and risk of CVD: A systematic review and meta-Analysis of prospective studies, Nutrients, 2017, 9(7), 711; doi: 10.3390/nu9070711.

【要旨】

  コリンは卵、肉、魚などさまざまな食品が摂取源となっている。食事由来のコリン、ベタインとCVDリスクの関係を調査するため、システマティックレビューおよびメタアナリシスを行った。解析には、成人を対象とした前向きコホート研究6報から、184,010人のデータを使用した。メタアナリシスの結果、CVDイベント発生率はコリン摂取量(RR: 1.00, 95% CI 0.98, 1.02)およびベタイン摂取量(RR: 0.99, 95% CI 0.98, 1.01)のどちらとも関連がなく、研究間の異質性は無かった。ホスファチジルコリン摂取量とCVD死亡率に関するデータは2件のみであり、メタアナリシスの結果、関連は見られなかった(RR: 1.09, 95% CI 0.89, 1.35)。しかし、2報中1報では正の相関が示されており、研究間に有意な異質性があった(I2 = 84%, p< 0.001)。
  以上より、食事由来コリンおよびベタインとCVD発症率には関連が認められなかった。また、コリンとCVD死亡率についても関連が見られなかったが、更なる研究が必要と考えられる。

文献No.69
イランにおける卵の高摂取は脳卒中発症リスクを低下させる(症例対照研究)

Fallah-Moshkani R et al., A case-control study on egg consumption and risk of stroke among Iranian population, J. Health Popul. Nutr., 2017, 36(1):28. doi: 10.1186/s41043-017-0104-2.

【要旨】

  卵の摂取と脳卒中のリスクについての利用可能なデータのほとんどは、西欧諸国からのものに限られるが、一致した結果は得られていない。米国では、死因として1年に19人中1人が脳卒中に起因するが、イランでは、1年に969人中1人である。中東諸国での伝統的な食事パターンは、炭水化物の摂取量が多く、卵の消費量は、米国およびヨーロッパよりも低いなど、食事背景にはかなり相違がある。そこで、イランの成人の卵摂取量と脳卒中のリスクとの関連性を調べることとした。
  症例対照研究として、アルザラ大学病院に入院した195人の脳卒中患者を症例対象として選択し、脳血管疾患または神経障害の病歴のない他の病棟に入院した患者から対照症例195人をリクルートした。168項目の食物頻度アンケート(FFQ)を使用して、参加者の過去1年間の通常の食事摂取(卵消費を含む)を評価した。
  卵の消費は脳卒中のオッズ比の低下と関連し、潜在的な交絡因子についての調整後、卵摂取量の最も高いカテゴリー(> 2個/週)は、低い摂取量(<1個/週)に比べ、脳卒中発症率が77%低かった(OR 0.23; 95%CI 0.11?0.45)。BMIでさらに調整すると、関連が強化された(OR 0.20; 95%CI 0.09?0.41)。
  以上のように、過去1年間の卵の高摂取(> 2個/週)が脳卒中リスクの低下と関連しているという証拠が得られた。これらの知見を確認するために、さらなる前向き研究が必要である。

文献No.65
ルテイン強化卵黄含有バターミルクは血管内皮機能や脂質代謝に影響なし(介入試験)

Sanne M. van der Made et al., One-year daily consumption of buttermilk drink containing lutein-enriched egg-yolks does not affect endothelial function in fasting and postprandial state. Sci. Rep., 2017, 2; 7(1):1353. doi: 10.1038/s41598-017-01370-7.

【要旨】

  これまでの研究で、ルテイン強化卵黄含有バターミルクを1日1回1年間摂取しても、黄斑変性の早期兆候を有する成人の空腹時血清脂質およびリポタンパク質濃度に有意な影響を及ぼさないことが示されている。本研究では、血管内皮機能を反映するパラメータを用いて、これらの知見をさらに実証することとした。さらに、絶食後から食後までの状態について観察した。1年間のプラセボ対照食事介入試験に参加した試験(Egg)群52名、対照群49名の被験者について、高脂肪混合食の食後のFMD(血流依存性血管拡張反応)検査※およびトリアシルグリセロール(TAG)、グルコースおよび遊離脂肪酸(NEFA))の生化学的変化を、試験開始時および終了時に評価した。高脂肪混合食摂取後の血糖値および血清脂質(TAGおよびNEFA)の応答は、試験開始時ならびに1年の摂取試験終了時で、Egg群および対照群で同等であった。空腹時FMDは、試験開始時と終了時に群間で同等であった。さらに、高脂肪混合食食事後のFMDの変化も、群間で同等であった。したがって、ルテイン強化卵黄含有バターミルク飲料の1年間の摂取は、食後の脂質およびグルコース代謝または血管内皮機能に影響を及ぼさないことが示された。
  結論:ルテイン強化卵黄含有バターミルクの毎日を摂取しても、早期の黄斑変性の兆候を有する対象における血管内皮機能、食後の血糖値および脂質代謝に悪影響を及ぼさないことがわかった。
  ※FMD:Flow Mediated Dilationの略で「血流依存性血管拡張反応」

文献No.62
糖尿病患者の卵摂取は心血管疾患リスクに影響を及ぼさない

Richard C et al., Impact of Egg Consumption on Cardiovascular Risk Factors in Individuals with Type 2 Diabetes and at Risk for Developing Diabetes: A Systematic Review of Randomized Nutritional Intervention Studies. Can. J. Diabetes. 2017. doi: 10.1016/j.jcjd.2016.12.002.

【要旨】

  2型糖尿病患者もしくは糖尿病リスクのある者が卵を摂取するとCVDリスクにどのような影響を及ぼすかを検証するため、システマティックレビューを実施した。卵摂取群と対照群(2個/週未満)を比較したRCT研究を対象として文献検索を行った結果、10報(6研究)が抽出された。介入期間は12~20週間で、全研究において6~12個/週の卵摂取は対照群と比較して、血中総コレステロール、LDLコレステロール、トリグリセリド、空腹時血糖値、インスリン、CRP値に影響を及ぼさなかった。また、6研究中4研究では卵摂取によりHDLコレステロールの増加がみられた。以上の結果から、心血管の健康増進ガイドラインに基づいた食事の中で、卵を6~12個/週摂取することは、2型糖尿病患者もしくは糖尿病発症リスクのある者のCVDのリスク因子に悪影響を及ぼさないことが示唆された。

文献No.61
血中コリン濃度と心血管疾患リスクの関係(横断研究)

Roe AJ et al., Choline and its metabolites are differently associated with cardiometabolic risk factors, history of cardiovascular disease, and MRI-documented cerebrovascular disease in older adults. Am. J. Clin. Nutr. 2017. pii: ajcn137158. doi: 10.3945/ajcn.116.137158

【要旨】

  血漿のコリンおよびコリン代謝物と、心血管代謝リスク因子、心血管疾患既往歴、脳血管病変との関連を調査した横断研究。米国で行われたThe Nutrition, Aging, and Memory in Elders (NAME)コホート研究の参加者296名(73±8.1歳)を対象とした。血漿コリン、ベタイン、ホスファチジルコリン濃度の測定、MRIおよび認知機能テストによる脳血管病変の評価を行った。解析には線形モデルおよびロジスティック回帰モデルを使用した。
解析の結果、血漿コリン濃度が高い者ではHDL-Cが有意に低く、ホモシステインおよびBMIが有意に高く、心血管疾患既往歴および大血管疾患のオッズ比が高かった。しかし、小血管疾患のオッズ比は低かった。一方、血漿ベタイン濃度が高い者では血漿LDL-CおよびTGが有意に低く、糖尿病のオッズ比も低かった。また、ホスファチジルコリン濃度が高い者ではHDL-Cが有意に高く、BMI、腹囲、CRPが有意に低く、高血圧および糖尿病のオッズ比が低かったが、LDL-CおよびTGは有意に高かった。
  以上の結果より、コリンおよびコリン代謝物は心血管代謝のリスク因子や血管疾患のサブタイプに異なる影響を及ぼすことから、心血管および脳血管疾患(大血管および小血管)の発症への関与がコリンの形態によって異なることが示唆された。

文献No.54
タンパク質の種類(赤身肉、鶏肉、魚、卵、豆)と死亡リスクとの関連(コホート研究)

Farvid MS et al., Dietary Protein Sources and All-Cause and Cause-Specific Mortality: The Golestan Cohort Study in Iran, Am. J. Prev. Med., 2017, 52(2): 237-248.

【要旨】

  タンパク質源(赤身肉、鶏肉、魚、卵、豆類)と全死亡及び循環器疾患(CVD)や癌による死亡との関係について、イランのゴレスタン州で2004年から開始された中東で最初のコホート研究のデータに基づく調査結果の報告である。調査開始時の年齢36?85才、男女合わせて42,403人が参加しており、フォローアップ期間は2015年までの11年間、339,867人年で解析を行い、期間中3,291人が死亡した。
  卵摂取の増加は全死亡リスクの低下と相関し(HR = 0.88, 95%CI = 0.79, 0.97, P-trend = 0.03)、魚消費量の増加は、全癌、消化器癌の死亡リスク低下と相関した。豆類の摂取量は、全癌、消化器癌、その他の癌の死亡リスク低下と相関した。しかし、欧米で報告されているような赤身肉や鶏肉の摂取量と全死亡及びCVDや癌による死亡との関係は認められなかった(ただし、イランでは赤身肉の摂取量が欧米諸国と比較してかなり少ないことを考慮する必要がある)。

文献No.41
卵摂取量と心疾患リスクに相関無し(メタアナリシス)

Alexander DD et al., Meta-analysis of egg consumption and risk of coronary heart disease and stroke. J. Am. Coll. Nutr., 2016, doi: 10.1002/mnfr.201600324.

【要旨】

  コレステロールの摂取と心疾患との関係は長年研究されてきた。最近のレビューでは、食事コレステロールは注意すべき栄養素ではないとも指摘されている。改めて食事コレステロールの最大の寄与源である卵の摂取量と冠動脈心疾患や脳卒中のリスクについて、それぞれ7つの前向きコホート研究の結果を用いて包括的なメタ分析を行った。対象者数は冠動脈疾患リスク評価では約276,000人、脳卒中リスク評価では約308,000人。卵摂取量が多い群(1個/日)と少ない群(<2個/週)で比較するため、指標として統合相対リスク推定値(SRRE)を用いた。その結果、脳卒中では1個/日の卵摂取で12%のリスクの低下が認められ(SRRE=0.88)、差は統計学的に有意であった。一方、冠動脈疾患ではSRRE=0.97であり、統計学的な有意差は認められなかった。これらの結果から、1日1個の卵摂取が、脳卒中リスク減少に寄与することと、冠動脈心疾患リスクとは関係ないことが示された。

文献No.36
卵摂取と心血管疾患発症リスクの増加に関連はなかった(コホート研究)

J. Diez-Espino et al., Egg consumption and cardiovascular disease according to diabetic status: The PREDIMED study. Clin. Nutr., 2016, doi: 10.1016/j.clnu.2016.06.009

【要旨】

  主な食事コレステロール源である卵の摂取量と循環器疾患発症率および2型糖尿病との関連性を明らかにした。PREDIMED (PREvencion con DIeta MEDiterranea) studyの結果より循環器疾患の既往歴がなく、2型糖尿病もしくは循環器疾患のリスクファクター(1.高血圧;> 140/90または降圧剤治療中、2.血中LDL-C濃度;> 160 mg/dLまたは脂質低下治療中、3.血中HDL-C濃度;< 40 mg/dLの男性、;50 mg/dLの女性、4.肥満または過体重、5.喫煙中、6.若年性冠動脈心疾患の家族歴)のうち、3つ以上を持つ55-80歳男性、60-80歳女性の計7,216名(2型糖尿病罹患率約50%)を対象に、2003年10月から2009年6月の間で平均5.8年間の前向き追跡調査を行った。その結果、循環器疾患イベントに関して、卵摂取量が4個/週以上の群のハザード比は、2個/週以下の群と比較すると、非糖尿病患者では0.96(95%CI, 0.33-2.76)、糖尿病患者では1.33(95%CI, 0.72-2.46)であり、糖尿病の有無による交互作用は認められなかった。調査期間中の卵の累積摂取量500個あたりにおけるハザード比は、非糖尿病群で0.94(95%CI, 0.66-1.33)、糖尿病群で1.18(95%, 0.90-1.55)であった。以上の結果より、循環器疾患リスクの高い非糖尿病者および糖尿病患者において、卵の摂取と循環器疾患リスクの増加に関連がないことが明らかになった。

文献No.25
冠動脈疾患者の卵摂取は血中脂質・血圧に影響なし(介入試験)

Katz DL et al., Effects of egg ingestion on endothelial function in adults with coronary artery disease: A randomized, controlled, crossover trial. Am. Heart J., 2015, 169:162-169.

【要旨】

  平均年齢67歳の32名(女性6名、男性26名)の冠動脈疾患者を対象に、ランダム化単盲検クロスオーバー試験を行った。4週間のウォッシュアウト期を挟み、卵2個を含む朝食、卵代替品1/2カップを含む朝食あるいは高炭水化物の朝食の3種類の食事をそれぞれ6週間ずつ摂取させた。各食事の摂取6週間後に血管内皮機能などの評価を行った結果、高炭水化物食と卵2個を含む朝食との間で、FMD、総コレステロール値、血圧、体重に違いは認められなかった。また、卵2個を含む朝食と卵代替品1/2カップを含む朝食との間でも結果に違いはなかった。以上より、冠動脈疾患者が6週間毎日卵2個を摂取しても何ら明確な副作用は認められず、卵排除論を支持しなかった。より長期の介入試験が実施されれば、公衆栄養政策に役立つと思われる。

※FMD(Flow Mediated Dilatation):血流依存性血管拡張反応といわれ、血管内皮機能を評価する検査。血管内皮機能障害は動脈硬化を引き起こす要因となる。

文献No.18
卵の摂取量と冠動脈疾患リスクは相関なし(コホート研究)

Virtanen JK et al., Associations of egg and cholesterol intakes with carotid intima-media thickness and risk of incident coronary artery disease according to apolipoprotein E phenotype in men: the Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study. Am. J. Clin. Nutr., 2016, doi: 103945/ajcn.115.122317.

【要旨】

  コレステロール摂取量や卵摂取量と冠動脈疾患の発症リスクや頸動脈内膜中膜厚との関係を調べるために、フィンランドに住む42~60歳の男性1032人を対象に、平均20.8年追跡調査を行った。また、血中脂質に影響を与える大きな要因の一つであるApoE遺伝子多型についても調査しており、対象者の32.5%が、LDLコレステロール濃度が高くなりやすいApoE4遺伝子型であった。
  卵摂取量が<19g/日、19-36g/日、>36g/日で3分類したところ、卵摂取量と冠動脈疾患発症リスクに相関はなかった。また、ApoE4遺伝子型で層別解析をしても相関はなかった。さらに、コレステロール摂取量が<321mg/日、321-438mg/日、>438mg/日の3分類をしても冠動脈疾患発症リスクとの相関はなかった。同様にApoE4遺伝子型での層別解析でも相関は認められなかった。
  加えて、頸動脈内膜中膜厚と卵摂取量およびコレステロール摂取量との間にも相関は見られず、ApoE4遺伝子型で層別解析を行っても同様の結果であった。
  以上のことから、卵およびコレステロールの摂取は冠動脈疾患発症リスクおよび頸動脈内膜中膜厚との相関はないと結論付けられた。

  ※頸動脈内膜中膜厚:頚動脈血管壁内腔側の表層を構成する内膜と中膜を合わせた厚み。動脈硬化の進展に伴って肥厚することから、動脈硬化性ハイリスク患者のスクリーニングおよび生活習慣病治療の指標とされている。

文献No.13
卵摂取量と血管イベント発生リスクに関連はない(コホート研究)

Goldberg S et al., Egg consumption and carotid atherosclerosis in the Northern Manhattan Study. Atherosclerosis., 2014, 235:273?280.

【要旨】

  卵摂取とアテローム性頸動脈硬化症や血管イベントとの関連を調べるために、40歳以上の北部マンハッタン住民1429人を対象に平均11年間の追跡調査を行った。その結果、卵摂取量と頸動脈内膜中膜厚、プラークがある人の割合、厚さ、面積は逆相関することがわかった。また、卵摂取と血管イベント発生リスクとの関連も認められなかった。これらの結果は、血管の健康のためにはコレステロールを多く含む卵の摂取を極端に制限、あるいは排除すべきだとする現時点での推奨を支持しなかった。

文献No.10
卵の摂取量は冠動脈石灰化と相関なし(コホート研究)

Jeremy M R et al., Association of egg consumption and calcified atherosclerotic plaque in the coronary arteries: the NHLBI Family Heart Study. ESPEN J., 2014, 9: e131-e135.

【要旨】

  平均年齢56.5歳(男性41%)のNHLBI Family Heart Study(心疾患に関する国家的疫学調査)に参加した循環器疾患がない米国人1848人を対象とし、鶏卵の摂取量(半定量的食事摂取頻度調査)とCTで診断した冠動脈石灰化(CAC)との関係を検討した。卵をほとんど食べない群、1~3個/月、1個/週および2個以上/週の4群で比較した結果、各群間で有意な差は認められなかった。つまり、この研究では卵の摂取量とCACとの間には相関はなかった。
※CAC (coronary-artery calcium):血管壁へカルシウムが沈着し、動脈硬化を促す症状。

文献No.9
心血管疾患のリスクが高くても、卵は問題なく摂取できる(総説)

Nicholas R. Fuller, et al., Egg Consumption and Human Cardio-Metabolic Health in People with and without Diabetes. Nutrients.,2015;7:7399-7420; doi:10.3390/nu7095344

【要旨】

  一般集団と心血管疾患のリスクの高い集団(例えば、2型糖尿病の人)の両方に対する食事性コレステロールや卵の摂取に関するガイドラインは、国家間だけでなく、同一国内の専門家の間でも意見が異なっている。
  レビューの結果、より多くの卵を含む食事は、一般集団、心血管疾患のリスクが高い集団、冠状動脈心臓病患者、2型糖尿病患者の全てにおいて、健康的な食事として問題なく摂取できることを示唆している。また、食事背景や食事介入は、食品でなく、栄養成分が鍵であるように思われる。飽和脂肪酸含量が低い食事や、飽和脂肪酸が多価及び一価不飽和脂肪酸と置き換えられた食事と関連する高卵食は、LDLコレステロールで有用な結果になる可能性がある。

文献No.8
卵摂取量は心筋梗塞、脳卒中リスクと相関無し(コホート研究)

Larsson S C, et al., Egg consumption and risk of heart failure, myocardial infarction, and stroke: results from 2 prospective cohorts. Am. J. Clin. Nur., 2015, pii: ajcn119263.

【要旨】

  スウェーデンの男性37766人と女性32805人を対象とし、13年追跡調査した2つの前向きコホート研究から、卵の摂取量と心不全、心筋梗塞、脳卒中の発症との関係を調査した。その結果、男性、女性とも卵摂取量と心筋梗塞、脳卒中との関係はなかった。また、卵摂取量と心不全の関係については、女性については関連がなかったが、男性については、1個/日以上の卵摂取によって、心不全発症リスクが30%増加した。男女でこのように異なる結果が出たことと、メカニズムが不明のため解釈には注意が必要である。

3.糖尿病

文献No.187
妊娠後期での動物性タンパク質の高摂取は妊娠糖尿病リスクと関連(コホート研究)

Hang Yaw Yang et al., Higher Animal Protein Intake During the Second Trimester of Pregnancy Is Associated With Risk of GDM. Front Nutr., 2021, 8: 718792.

【要旨】

 本研究はタンパク質の摂取量並びに摂取源と妊娠糖尿病(GDM)のリスクとの関連性を検討することを目的とした。マレーシアの妊婦452 名(マレー人88.9%, 平均年齢30.01±4.48歳)を対象とした前向きコホート研究で、半定量食物頻度調査票を用いて総タンパク質、動物性タンパク質および植物性タンパク質の摂取量を評価した。
 対象者のうち、全体の10.62%(48 /452名)が GDM と診断された。妊娠前~妊娠中期までは、ほとんどの女性(妊娠前:90.3%、妊娠初期:88.9%、妊娠中期:90.2%)がエネルギー摂取量の10〜20%をタンパク質から摂取しており,推奨タンパク質摂取量の75%以上を摂取している割合は、妊娠前:86.5%、妊娠初期:79.9%、妊娠中期:74.6%であった。
 タンパク質の摂取量に基づき3分位に分け、GMDリスクについて解析した結果、特に妊娠中期において動物性タンパク質総摂取量が最高分位の者および赤身肉タンパク質摂取量が多い者(それぞれ≧42.15 g/日および≧2.94 g/日)では、摂取量が中程度の者と比べてGDMリスクが有意に高かった(それぞれ、調整オッズ比(AOR)=2.76, [95%CI: 1.27-6.04]、AOR=2.69, [1.27-5.70])。興味あることに、卵タンパク質の摂取量が最高分位の者(≧2.86 g/日)では、摂取量が中程度の者と比較してGDMリスクが有意に低かった(AOR = 0.43, 95% CI = 0.18-0.91)。植物性タンパク質の摂取量および妊娠前および妊娠初期のタンパク質摂取量はGDMリスクと関連しなかった。
 動物性タンパク質の摂取、特に妊娠中期における赤身肉タンパク質摂取が多いとGDMリスクと正の相関があったが、卵タンパク質摂取量が多いとGDMリスクと逆相関していた。妊娠前あるいは妊娠初期でのタンパク質摂取量はDGMと相関しなかった。これらの結果から、特に妊娠初期以降において妊娠糖尿病の予防にタンパク質の質が重要であることが強調された。

文献No.172
食事パターンと糖尿病前症(糖尿病予備軍)リスク:台湾における横断研究

Yi-Cheng Hou et al., Dietary Patterns and the Risk of Prediabetes in Taiwan: A Cross-Sectional Study. Nutrients. 2020 Nov; 12(11): 3322

【要旨】

 台湾成人の29.6%は糖尿病前症であり、食事療法による予防と管理が必要である。本研究では、糖尿病前症のリスクに関連する台湾の食事パターンを特定することを目的として、空腹時血糖値とHbA1cレベルの観点から探索的因子分析を行った。
 台北慈済医院で募集した20歳から65歳までの被験者(n=199)から、身長体重、空腹時血糖値、HbA1c値、3日間の24時間の食事記録、および食事摂取頻度アンケートのデータを得た。そして因子分析により、次の5つの食事パターンを特定した:西洋式(シーフード、肉、内臓、肉加工品を含む)、慎重式(野菜、果物、根または葉のでんぷん、大豆製品を含む)、便利式(餃子、パン、果物の加工品、ナッツ製品を含む)、アジア伝統式(中国菓子、もち米、粥、米を含む)、および大陸式(卵、コーヒー、ミルク、スナックを含む)。この5つの食事パターンの三分位数を比較し、それぞれの因子の重要性を分析した。
 他の諸研究で西洋式および慎重式は主要な食事パターンであるとされているが、西洋式の食事パターンの因子負荷が高いほど、空腹時血糖値が有意に高かった(P =0.016)。一方、大陸式の食事パターンの因子負荷が高いほど、空腹時血糖値とHbA1c値が有意に低かった(ともにP =0.001)。
 以上のことから、肉類やシーフードの消費量を減らし、卵、コーヒー、牛乳の消費量を増やすことは糖尿病前症のリスクの低下と関連している可能性がある。

文献No.157
INAFM2 rs67839313変異体および卵の摂取量と2型糖尿病および空腹時血糖値との関連:中国の家族を対象
とした研究(FISSIC program)

Wang X et al., Interactive associations of the INAFM2 rs67839313 variant and egg consumption with type 2 diabetes mellitus and fasting blood glucose in a Chinese population: A family-based study. Gene. 2021, 770, 20, 145357.

【要旨】

 2型糖尿病には遺伝でき要因の関与が指摘されている。先行研究※によるとINAFM2 rs67839313遺伝子は日本人では2型糖尿病と関連していたが、他の地域住民(南アジア、ヨーロッパ、メキシコ/ラテンアメリカ)では関連していなかった。そこで本研究では、中国人におけるrs67839313と2型糖尿病との関連性を検証し、 rs67839313および卵の摂取量と2型糖尿病並びに空腹時血糖値との相互関連について検証した。
 3980組家系の7175名(2型糖尿病患者4202名、対照者2973名)の中国人を、卵の摂取量によって2つのグループ(4個/週未満および4個/週以上)に分類し、rs67839313と2型糖尿病並びに空腹時血糖値との相関を分析した。
 その結果、rs67839313_Tは2型糖尿病のリスク増加と有意に相関した(オッズ比OR=1.22, P < 0.001)。rs67839313_Tの遺伝子型を持つ人の中では、卵摂取量が週4回未満の人で2型糖尿病のリスクはOR=1.37で、週4回以上の人(OR=1.17)よりも高かった。また、rs67839313_Tと卵摂取量の間には、2型糖尿病のリスクに対する有意な相互作用が認められた(P = 0.008)。2型糖尿病でない者では、rs67839313_Tは空腹時血糖と相関し、卵摂取量が週当たり<4個の者で0.188 mmol/L上昇し、≥4個では0.152 mmol/L減少した。rs67839313_Tと卵の摂取量との間の相互作用が認められ、空腹時血糖値と有意に相関することが認められた(P = 0.003)。
 これらの結果から、 INAFM2 rs67839313_Tは、中国人の2型糖尿病リスクおよび空腹時血糖値の上昇と関連しているが、より多くの卵を摂取することで、この遺伝的リスクとの相関は解消されるようである。この知見は、2型糖尿病に関連する遺伝的発現機構の解明、並びに2型糖尿病の正しい栄養的管理の面で重要な意義がある。

※M Imamura et al., Genome-wide association studies in the Japanese population identify seven novel loci for type 2 diabetes. Nat. Commun. 2016, 7, (1), 10.

文献No.150
中国成人の高い卵摂取量は糖尿病リスク上昇と関連した―中国健康・栄養調査

Wang Y et al., Higher egg consumption associated with increased risk of diabetes in Chinese adults - China Health and Nutrition Survey. Br J Nutr. 2020. doi: 10.1017/S0007114520003955.

【要旨】

 卵の摂取と糖尿病との関連性については結論が出ていない。本研究は、中国の成人における長期的な卵摂取と糖尿病との関連を検討することを目的とし、中国健康栄養調査1991年~2009年に参加した 18 歳以上の成人 8,545 名(平均50.9歳)を分析対象とした。調査対象者の卵の摂取量は、3 日間の 24 時間食事思い出し法と秤量法による食事記録を用いて評価し、糖尿病の診断は、2009年時点の空腹時血糖値を用いた。卵の摂取量と糖尿病リスクの関連性は、卵の摂取量を四分位に分けてロジスティック回帰を用いて解析した。調査対象者の卵摂取量は、1991年の16g/日から2009年には31g/日と約2倍増加した。また、2009年時点で解析対象者の11%が糖尿病を発症していた。卵の摂取量と糖尿病リスク(調整オッズ比、OR)は、卵の摂取量第1分位(0~9.0g/日)と比較して、第2分位(9.1~20.6g/日)では1.29(95%CI: 1.03-1.62)、第3分位(20.7~37.5g/日)では1.37(1.09‐1.72)、第4分位(37.6g/日以上)では1.25(1.04‐1.64)であり、有意な相関が認められた(傾向P=0.029)。卵摂取量のパターン(ベースライン時点の摂取量の違い)には3つの時系列パターンがあり、グループ1(30.7%、開始時の摂取量が少なく、僅かに増加)と比較し、グループ2(62.2%、開始時中程度の摂取で増加)およびグループ3(7.1%、開始時の摂取量が多く、減少)では糖尿病のオッズ比の上昇がみられた。本研究の結果より、中国人成人では卵の摂取量が多いと糖尿病のリスクと正相関することが示唆された。このリスクは女性で男性より高かった。なお、この論文の結論では「中国人のための食事ガイドラインはエビデンスに基づくべきであり、卵の摂取レベルを取り入れた健康的な食事を推進すべきである。」と書かれている。
 一方で、同じ中国人の研究でも、卵の摂取と糖尿病との間には関連性がないとする観察研究報告もある(参考文献1)。したがって、中国人における卵の摂取と2型糖尿病の関連性はまだ結論付けられず、より精度の高い研究が求められる。

参考文献1
Ni LP et al., Egg consumption and risk of type 2 diabetes mellitus in middle and elderly Chinese population: An observational study. Medicine (Baltimore). 2020. doi:10.1097/MD.0000000000019752.

文献No.135
2型糖尿病リスク者において、高炭水化物食の代わりに卵の朝食を摂取すると心血管代謝のリスク因子に好影響(介入試験)

Maki KC et al., Effects of substituting eggs for high-carbohydrate breakfast foods on the cardiometabolic risk-factor profile in adults at risk for type 2 diabetes mellitus. Eur J Clin Nutr. 2020, 74: 784–795.

【要旨】

 糖尿病とメタボリックシンドロームリスクを有する者において、高炭水化物食と比較し卵を含む朝食が心血管代謝のリスク因子に与える影響を検討するため、ランダム化クロスオーバー試験を実施した。30名の男女(平均年齢54.1±1.9歳、BMI31.9±0.7kg/m2)を対象として朝食の介入を行った。被験食として卵2個/日(週6日)を含む食事、対照食として同一エネルギーで卵を含まない高炭水化物食をそれぞれ4週間ずつ摂取させた。ウォッシュアウト期間は4週間以上、朝食以外の食事は普段通りとした。食事摂取量、インスリン感受性、脂質マーカー、血圧、体重を測定した。その結果、どちらの食事ともインスリン感受性指数(ISI)に影響はなかったが、インスリン抵抗性を示すHOMA-IRは高炭水化物食では卵摂取と比較して有意に高かった(P=0.028)。LDL-C値の変化は卵摂取により-2.9%で有意ではなかったが、高炭水化物食では-6.0%で、卵摂取と比較して有意に減少した(P=0.023)。収縮期血圧の変化は卵摂取で-2.7%、高炭水化物食では0.0%であり、高炭水化物食と比較して卵摂取で有意に低下した(P=0.018)。エネルギー摂取量は卵摂取期間の方が+149kcalと有意に多かったが(P=0.008)、体重の変化に有意差はなかった。
 糖尿病リスクのある者が朝食で卵を2個/日(週6日)摂取することは、卵を含まない高炭水化物の朝食と比較してインスリン感受性、LDL-C値、および体重に悪影響は与えず、心血管代謝のリスク因子に良い影響を及ぼす可能性がある。

文献No.131
卵の摂取量と2型糖尿病のリスク:米国の3件の大規模コホート研究のプール解析および関連研究の系統的レビューとメタアナリシスのアップデート

Drouin-Chartier JP et al., Egg consumption and risk of type 2 diabetes: findings from 3 large US cohort studies of men and women and a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies. Am J Clin Nutr., 2020, doi: 10.1093/ajcn/nqaa115 2020;00:1‐12

【要旨】

 本研究では、卵の摂取と2型糖尿病の発症リスクとの関係を調査するため、食事や潜在的な交絡因子を考慮した①最長32年間の追跡調査研究を含む米国の3例の大規模コホート研究のプール解析(対象者:成人213,798名)および②米国、欧州、アジアを含む関連研究のメタアナリシス(対象者:成人589,559名, 2型糖尿病患者41,248名含む)を行った。
 本研究の結果、卵を毎日1個追加摂取するごと2型糖尿病の発症リスク(ハザード比、HR)は、①米国人を対象とした研究の解析では、HR=1.14, 95%CI:1.07-1.20で、リスクの上昇が認められた。一方で、②米国、欧州、アジアを含む解析では、相対リスク(相対危険度、RR)は、RR=1.07, 95%CI:0.99-1.15となり、関連は認められなかったが、明確な地域差があり、米国の研究では RR=1.18であるのに対し、欧州では RR=0.99, アジアでは RR=0.82 であった。
 両解析の結果から、適度の卵の摂取(卵を1個/日の追加摂取)と2型糖尿病の発症リスクとの間に相関は認められなかった。米国、ヨーロッパおよびアジアでのコホート研究間での多様性が卵摂取習慣の違いにあるのかどうか今後の研究が必要である。

文献No.124
ポーランド人の食事パターンにおける卵の摂取と空腹時血糖値の関連(コホート研究)

Czekajło-Kozłowska et al. Association between egg consumption and elevated fasting glucose prevalence in relation to dietary patterns in selected group of Polish adults. Nutrition J., 2019, 18:90.

【要旨】

 食事全体の観点から卵の摂取が糖代謝に及ぼす影響を明らかにするため、PURE studyに参加したポーランドの成人男女1,630名を対象として解析を行った。
 食物摂取頻度調査の結果を用いて主成分分析により3つの食事パターンを導き、卵の摂取と空腹時血糖値との関連を解析した。食事パターンは①欧米型(脂質、菓子類、精製穀物、高脂肪乳製品、赤身肉加工肉、砂糖摂取が多い)、②堅実型(果物、野菜、種実類、低脂肪乳の摂取が多い)、③伝統型(混合料理、スープ、赤身肉、魚の摂取が多い)の3パターンに分類した。卵の摂取量は男女ともに「欧米型」と「伝統型」で有意に多かった(P<0.0001)。女性では、いずれの食事パターンにおいても卵の摂取量と空腹時血糖値との間に相関は無かった。一方男性では、「欧米型」および「伝統型」で卵の摂取量と空腹時血糖値に正の相関があり(それぞれP=0.0403, P=0.0045)、健康的な「堅実型」では卵の摂取量が多くても血糖値の上昇とは関連しなかった。また、対象者全体について、卵の摂取量と血糖値上昇のオッズ比の関連を解析した結果、女性では関連が見られなかったが、男性では5個/週以上の卵を摂取する者は、1個/週以下の者と比較して、空腹時血糖値の上昇リスクが高かった(OR=1.79; 95% CI 1.13–2.84)。しかし、各食事パターンの関連因子で調整しところ、これらの相関はいずれも認められなかった。
 以上より、空腹時血糖値上昇に対し、卵の摂取事態が危険因子となることはなく、不健康な食習慣が影響していると考えられた。

文献No.112
中年男性の卵摂取は糖尿病リスクを低減する

Lee J et al., Egg consumption is associated with a lower risk of type 2 diabetes in middle-aged and older men, Nutr Res Pract. 2018, 12(5):396-405.

【要旨】

  本前向き研究では、大規模なコホート研究のデータを用いて、卵摂取と2型糖尿病発症リスクとの性別特異的関連を調べた。ベースライン時に2型糖尿病でない韓国人成人(40-69歳)7,002 名(男性:女性=47:53)を対象に14年間の追跡調査を実施した。食事摂取量は、ベースライン(2001年~2002年)および第2追跡試験(2005年~2006年)で実施した食物頻度アンケートによって評価した。被験者は卵摂取量に応じて0~1個/週、1~2個/週、2~4個/週、4個~/週の4群に分類した。コレステロールも摂取量に応じて4群に分類した。多変量Cox比例ハザードモデルを使用して、卵摂取またはコレステロール摂取に応じた2型糖尿病の95%信頼区間(95%CI)でのハザード比(HR)を算出した。2型糖尿病(T2DM)は、空腹時グルコース濃度≧126mg /dLまたは現時点でのグルコース低下薬またはインスリン注射の有無で判断した。14年間のフォローアップ期間中、857名(男性:女性=52:48)の被験者がT2DMを発症した。男性では、頻繁な卵摂取群(2~4個/週)で卵摂取が少ない群(0~1個/週)に比べT2DMリスクが40%低かった(HR = 0.60, 95%CI: 0.37-0.97, P-trend= 0.0342)。しかし、卵摂取が最も多い群(4個~/週)では、少ない群 (0~1個/週)と比べて減少傾向にあったが、有意差は認められなかった。女性では卵摂取とT2DM罹患率との関連は認められなかった (HR = 0.61, 95%CI: 0.27-1.37, P-trend= 0.2986)。コレステロール摂取と2型糖尿病発症リスクの間の相関は男女共に見られなかった。
  以上の結果から、卵の摂取は男性ではT2DMの発症リスクを低減するが、女性では相関は見られず、卵摂取とT2DMリスクとの関係における性差が示唆された。

文献No.108
卵摂取でインスリン抵抗性が低下(介入試験)

Pourafshar S et al., Egg consumption may improve factors associated with glycemic control and insulin sensitivity in adults with pre- and type II diabetes. Food Funct. 2018 Aug 15;9(8):4469-4479. doi: 10.1039/c8fo00194d.

【要旨】

  一般に糖尿病予備軍は2型糖尿病の発症を引き起こす。卵は、タンパク質、ビタミン、ミネラル、カロテノイド、レシチンなどの重要な栄養素の豊富な摂取源である。本研究では、糖尿病予備軍および2型糖尿病の40?75歳の42人の過体重または肥満者を対象にRCTを実施した。参加者は無作為に1日に卵を1個または同等量のエネルギーに相当する113gの卵白を12週間摂取した。すべての時点での血液の脂質プロファイルおよび血糖コントロールに関連するバイオマーカーを分析した。定期的な全卵の摂取は空腹時血糖の改善をもたらし、最終測定時に有意に(P=0.05)4.4%減少した。全卵群の参加者では、すべての測定時にインスリン抵抗性(HOMA-IR)が有意に(P=0.01)低下した。全卵群では、コレステロールやリン脂質輸送を行いHDLを産生するABC輸送体A1(ABCA1)が6週間の測定時に有意に高く(0.78±0.21 vs. 0.28±0.05mg dL-1P<0.001)、最終測定時にも高い傾向にあった(0.62±0.11 vs. 0.55±0.18mg dL-1P=0.1)。アポリポタンパク質A1(apo A1)値もまた、最終測定時に卵白群と比較して全卵群で有意に高かった(147.43±5.34 vs. 142.81±5.09mg dL-1P=0.01)。総コレステロールおよびLDL-Cレベルに有意な変化はなかった。
  毎日卵1個を摂取すると、糖尿病予備軍および2型糖尿病患者の脂質プロファイルに悪影響を及ぼすことなく、糖尿病のリスクが低下する可能性がある。

文献No.91
卵白加水分解物は2型糖尿病マウスの耐糖能を改善する

Ochiai M et al., Egg white hydrolysate improves glucose tolerance in type-2 diabetic NSY mice, J. Nutr. Sci. Vitaminol., 2017, 63(6):422-429. doi: 10.3177/jnsv.63.422.

【要旨】

  卵白(EW)および低アレルギー性EW加水分解物(EWH)は、異所性脂肪の蓄積を抑制し、血清グルコースおよびインスリンレベルを改善することが以前に報告されている。本研究では、EWとEWHがグルコースの腸管吸収に及ぼす影響を明らかにするために、EWとEWHの耐糖能に対する食事の効果を種々の方法で調べた。 2型糖尿病モデルのNSYマウスを、次の4群:低脂肪および低ショ糖のカゼインをベースとした食群(NL)、 高脂肪および高ショ糖(HFS)のカゼインベース食群(NH)、 HFS EWベース食群(NE)、およびHFS EWHベース食群(NEH)に分け、8週間飼育した。
  6週目および7週目の終わりに、試験Aとして経口グルコース負荷試験(OGTT)およびインスリン耐性試験(ITT)を行った。7週目の終わりに、試験Bとして腹腔内グルコース負荷試験(ipGTT)を行った。
  試験Aでは、OGTTおよびITT共にNE群では血糖値が抑制されたが、NEH群ではOGTTでのみ抑制され、ITTでは抑制されなかった。試験Bでは、NEH群でipGTTにおいて血糖値が同様に抑制されたが、抑制効果はOGTTと比較して弱かった。血漿インスリンレベルは、両試験においてNEおよびNEH群において低かった。糞便中へのトリアシルグリセロール排泄は試験AのNEおよびNEH群で増加し、肝臓トリアシルグリセロール濃度は試験BのNE群で抑制された。
  これらの知見から、EWHは、肝臓における脂肪代謝を改善することに加えて、小腸機能の如何を問わないメカニズムを介して耐糖能を改善することが示唆された。

文献No.74
全卵摂取は糖尿病のビタミンD不足予防に有効(動物試験)

Saande CJ et al., Dietary whole wgg consumption attenuates body weight gain and is more effective than supplemental cholecalciferol in maintaining Vitamin D balance in type 2 diabetic rats, J. Nutr., 2017, doi: 10.3945/jn.117.254193.

【要旨】

  2型糖尿病(T2D)では、25(OH)Dの尿中への過剰な排出によるビタミンD不足が特徴である。全卵はビタミンD(25(OH)D、ビタミンD3)を豊富に含むが、これまでに、T2Dラットにおいて全卵摂取が血中25(OH)D濃度の維持に有効であること、体重増加を抑制することを報告した。本研究では、T2DラットのビタミンDバランス、体重増加、体組成に及ぼす全卵摂取とビタミンD3摂取の影響を比較した。雄の肥満糖尿病(ZDF)ラット(n=24)および痩せた対照ラット(n=24)を無作為に3群に割付け、カゼイン食(CAS)、乾燥全卵食(WE)、WEと同量のビタミンD3(37.6μg/kg)を含むビタミンD3強化カゼイン食(CAS +D)のいずれかを8週間摂取させた。その結果、ZDFラットの体重増加および体脂肪率は、CASおよびCAS+D と比較し、WEで有意に抑えられた(-20%および11%)。また、ZDFラットは対照ラットと比較して血中25(OH)D濃度が有意に低値であったが、CAS+D摂取で+35%、WE摂取で+130%と有意に増加した。本研究より、T2Dラットにおける血中25(OH)D濃度の維持に対して、全卵摂取はビタミンD3単独の摂取よりも効果的であることが示唆された。血中25(OH)D濃度には、ビタミンD3よりも25(OH)D摂取が大きな影響を与えることが知られており、両者を含む卵の摂取でより効果がみられたと考えられる。
  さらに、ZDFラットの体重増加および体脂肪率を減少させたことから、卵を利用してT2DにおけるビタミンD不足の予防を目的とした新しい食事療法が期待される。

文献No.55
卵摂取で2型糖尿病患者の体重や体脂肪率が改善(介入試験)

Njike VY et al., Egg ingestion in adults with type 2 diabetes: effects on glycemic control, anthropometry, and diet quality?a randomized, controlled, crossover trial. BMJ Open Diabetes Research and Care 2016, 4:e000281, doi:10.1136/bmjdrc-2016-000281

【要旨】

  2型糖尿病の米国人男女34名(64.5±7.6歳)を対象とした、単盲検のランダム化クロスオーバー試験。試験は卵を含まない食事期間を4週間設けた後、通常の食事の一部として卵2個/日を含む食事を摂取する群(卵摂取群)、あるいは通常の食事から卵を除いた食事を摂取する群(卵除去群)に分け、各12週間実施した(ウォッシュアウト期間は6週間)。卵摂取群は、卵除去群と比較しHbA1c濃度および血圧に変化は認められなかったものの、体重(P=0.007)、BMI(P=0.013)および内臓脂肪(P=0.016)が有意に低下した。さらに、卵摂取群はベースラインと比較して、ウエスト周囲長(P=0.004)および体脂肪率(P=0.033)が有意に低下していた。本試験の結果より、2型糖尿病者において通常の食事に卵を取り入れることで、血糖コントロールおよび血圧に影響を与えることなく、身体計測値を改善されることが示唆された。

文献No.32
卵摂取量と糖尿病リスクは地域差あり(コホート研究)

Luc Djousse et al., Egg consumption and risk of type 2 diabetes: a meta-analysis of prospective studies. Am. J. Clin. Nutr., 2016, 103:474-480.

【要旨】

  卵摂取と糖尿病リスクとの関係について検証するため、コホート研究の結果を調査しメタ分析を行った。文献調査の結果、12報のコホート研究(対象者総数219,979名、糖尿病患者8911名)が該当した。卵摂取量が最も少ないグループと多いグループで比較すると、糖尿病の相対リスクは1.06(95% CI:0.86, 1.30)であり、卵摂取と糖尿病リスクに相関は無かった。地域別でサブグループ解析を行った結果、米国の研究(7報)では卵を多く摂取する群で糖尿病リスクが39%高かった(95% CI: 21%,60%)。その他の地域で行われた研究(5報)ではこのような相関は認められなかった。また、摂取量との関連を解析した結果、卵4.6個/週以上の摂取で糖尿病リスクがやや上昇したが有意差はなく、卵摂取量が増えてもリスクは上昇しなかったが、米国での研究に限っては、卵3個/週以上摂取するとリスクが軽度ながら高まった。

文献No.30
卵で2型糖尿病のビタミンD欠乏予防(動物試験)

Samantha KJ et al., Whole egg consumption prevents diminished serum 25-hydroxycholecalciferol concentrations in type 2 diabetic rats. J. Agric. Food Chem. 2016, 64:120-124.

【要旨】

  2型糖尿病では、25-ヒドロキシビタミンD3(25D)の尿中排泄の増加によるビタミンD欠乏が特徴である。全卵はビタミンD、とくに体内のビタミンD状態を反映している循環型25Dを豊富に含むことが知られている。本研究では、糖尿病を自然発症するZDF(Zucker diabetic fatty)ラットと対照ラットを用い、それぞれカゼイン食あるいは全卵食を8週間摂取させた。その結果、全卵食は両ラットで高血糖、高トリグリセリド状態を改善し、同時にZDFラットでのカゼイン食による体重増加も抑制した。血漿の25D濃度はカゼイン食の場合ZDFラットで低かったが、全卵食ではカゼイン食の対照ラットと同等であった。また、対照ラットにおいても、カゼイン食に比べ全卵食で有意に血漿25D濃度が高かった。これらのデータは、全卵の摂取は2型糖尿病ラットの代謝的異常を軽減するだけでなく、正常な血中25D濃度を維持することを示している。以上のことから、2型糖尿病患者のビタミンD欠乏を防ぐための新しい食事指針を提案できそうである。

文献No.29
卵摂取は2型糖尿病患者の血糖値に対し影響を及ぼさない(介入試験)

Ballesteros MN et al., One egg per day improves inflammation when compared to an oatmeal-based breakfast without increasing other cardiometabolic risk factors in diabetic patients. Nutrients., 2015, 7:3449-3463.

【要旨】

  33~65歳のメキシコ人2型糖尿病患者33名を対象に、ランダム化クロスオーバー試験を行った。エネルギー量を揃えた、1日1個の卵を含む朝食もしくは40gのオートミールを含む朝食を、3週間のウォッシュアウト期を挟み、それぞれ5週間ずつ摂取させた。各食事の摂取期間終了後に血液分析を行った結果、血中グルコース濃度、血中脂質、種々のリポタンパク質のサイズや濃度、インスリン、HbA1c、アポリポプロテインB、酸化LDL、C-反応性タンパク(CRP)に有意な差は見られなかった。しかし、性別、年齢、BMIで補正すると、ASTとTNF-α値が卵を含む朝食を摂取時に有意に減少していた。これらの結果から、オートミールの朝食と比べても、卵を含む朝食は2型糖尿病患者のリポタンパク質や糖代謝に悪影響を及ぼさないことが示された。一方、卵の摂取は慢性的な軽度の炎症者のASTやTNF-αを減少させた。このように、卵は2型糖尿病患者の血糖値に対し影響を及ぼさないことが認められた。

文献No.20
卵の摂取量と2型糖尿病発症リスクの関係(メタアナリシス)

Wallin A et al., Egg consumption and risk of type 2 diabetes: a prospective study and dose-response meta-analysis. Diabetologia., 2016, doi 10.1007/s00125-016-3923-6

【要旨】

  卵摂取と2型糖尿病の関係を明らかにするため、スウェーデン人男性を対象としたコホート研究。45歳~79歳の男性39,610人を対象に1998年から15年間追跡調査を行い、その間に、4,173人が2型糖尿病と診断された。1週当たりの卵摂取が<1回、1-2回、3-4回および≧5回に四分位し、2型糖尿病の多変量補正ハザード比を求めた結果、有意な差は認められなかった(傾向P=0.06)。
  また、このコホート研究を含む12の研究結果についてメタ分析を行ったところ、卵摂取量が1週当たり各3回増加する毎の2型糖尿病発症のハザード比は、アメリカの5研究では1.18でリスクが高まったが、アメリカ以外の7研究では0.97で影響はなかった。
  以上のことから、卵摂取の影響は母集団によって異なるようであり、食事パターンの違いが結果に影響を与えたと考えられる。

文献No.7
卵摂取は2型糖尿病患者の代謝調節に寄与する(介入試験)

Pearce KL et al., Egg consumption as part of an energy-restricted high-protein diet improves blood lipid and blood glucose profiles in individuals with type 2 diabetes. Br J Nutr. 2011 Feb;105(4):584-92.

【要旨】

  2型糖尿病患者または耐糖能異常者65名を対象にした試験。対象者を2群に分け、コレステロール量の異なる2種類の高タンパク質食(HPHcho群;high protein high cholesterol、HPLcho群;high protein low cholesterol)を12週間摂取させた。HPHcho群はコレステロール源として卵2個/日、HPLcho群は代わりに脂肪分の少ない動物由来蛋白質100gを摂取した。12週間後、血清脂質、耐糖能マーカー、血中カロテノイド・ビタミン量等を測定した。結果、体重、血中TC、TAG、non-HDL-cholesterol、apo-B、HbA1c、空腹時血糖、空腹時インスリン値、血圧については両群で低下したが、群間差はなかった。LDL-C値については両群で有意な変化が見られなかった。一方、HDL-C値はHPHcho群のみで有意に増加、血中葉酸量、ルテイン量についてもHPLchoと比較し、HPHcho群で有意に増加し、2型糖尿病患者の代謝調節に寄与する可能性が示唆された。

文献No.4
糖尿病患者の卵摂取は炎症を改善する(介入試験)

Martha Nydia Ballesteros et al.,One Egg per Day Improves Inflammation when Compared to an Oatmeal-Based Breakfast without Increasing Other Cardiometabolic Risk Factors in Diabetic Patients. Nutrients., 2015, 7:3449-3463.

【要旨】

  本研究では、35-65歳の2型糖尿病患者29名を対象とし、朝食として、卵1個/日を含む食事またはオートミール食を5週間摂取させた。結果、血糖値、インスリン値、HbA1c値、血中脂質濃度において、両群間に有意な差は認められなかった。一方、AST値、TNF-α値については卵を含む朝食を食べた群において有意な減少が認められた。この結果から、糖尿病患者の朝食における卵摂取は、オートミール食と比較し、糖代謝および脂質代謝に影響を及ぼさないことが示唆された。また、卵摂取は糖尿病患者における炎症を抑制する可能性が示唆された。

文献No.2
糖尿病患者の卵摂取は心血管リスクに影響なし(介入研究)

Fuller N R et al., The effect of a high-egg diet on cardiovascular risk factors in people with type 2 diabetes: the Diabetes and Egg (DIABEGG) study ? a 3-mo randomized controlled trial. Am J Clin Nutr., 2015, 101:705-713.

【要旨】

  18歳以上のオーストラリア人のうち、糖尿病予備軍の人や2型糖尿病の患者140人を対象として、週に6日、朝食に卵を2個食べる「高卵食群」と週に2個未満しか食べない「低卵食群」に分け、12週間後に空腹時血糖値や血中コレステロール濃度などを測定した。その結果、両群間で、HDL-コレステロール濃度、LDL-コレステロール濃度、空腹時血糖値に有意な差はなく、試験前と比較しても有意な変化はなかった。この結果より、2型糖尿病患者の食事の一部に卵を多く取り入れても安全であることが示唆された。

4.メタボリックシンドローム

文献No.201
卵は植物ベースの食事療法後のメタボリックシンドローム患者の血漿バイオマーカーを改善する
—無作為化クロスオーバー試験

Minu S. Thomas et al., Eggs Improve Plasma Biomarkers in Patients with Metabolic Syndrome Following a Plant-Based Diet—A Randomized Crossover Study. Nutrients. 2022, 10: 2138.

【要旨】

 植物性(PB)食は健康的な食事パターンとされるが、卵はこの食事パターンに必ずしも含まれていない。メタボリックシンドローム(MetS)患者に1日2個の卵を追加摂取させると、HDLコレステロール、血漿中のルテイン、ゼアキサンチンおよびコリンが増加すると仮定し本研究を行った。MetS患者30名(49.3±8歳)を対象に、PB食を13週間摂取させた。栄養士が食事指導を行い、介入期間中は被験者を追跡してコンプライアンスを確認した。ルテインとゼアキサンチンの供給源を摂取しない2週間のウォッシュアウト期間の後、4週間、朝食にほうれん草70 g+卵2個(EGG)またはほうれん草70 g+卵代替物(SUB)を摂取するよう無作為に割り付けた。3週間のウォッシュアウト後、もう一方の朝食を摂取するクロスオーバー試験を行った。介入前後に血漿脂質、グルコース、インスリン、身体計測値、血漿ルテイン、ゼアキサンチン、コリンおよびトリメチルアミンオキシド(TMAO)を測定した。
 合計24名(女性13名/男性11名)が介入を完了した。EGGあるいはSUBの朝食摂取者間で比較したところ、EGG食摂取後に体重低下(p <0.02)およびHDLコレステロールの上昇(p <0.025)が観察された。血漿中のLDLコレステロール、トリグリセリド、グルコース、インスリンおよび血圧に差はなかった。さらに、NMRで測定した粒子径の大きいHDLの数はEGGで有意に多かった(p <0.01)。血漿コリンは、介入前(8.3 ± 2.1 μmol/L)と比較して、両群とも介入後で高かった(p <0.01)。しかし、群間で比較すると血症コリン値はSUB(9.47±2.7μmol/L)に比べEGG(10.54±2.8μmol/L)で高かった(p <0.025)。どちらの朝食も介入前と比較して血漿ルテインを増加させたが(p <0.01)、血漿ゼアキサンチンはEGGでのみ増加した(p <0.01)。
 これらの結果から、植物ベースの食事と全卵を組み合わせて全卵を摂取すれば、MetS被験者の重要なバイオマーカーである血漿HDLコレステロール、コリンおよびゼアキサンチンが増加することを示している。

文献No.183
ω-3、ω-5、ω-7多価不飽和脂肪酸強化卵を3カ月間連続摂取すると、メタボリックシンドローム発症
リスクがある被験者の腹囲が有意に減少:二重盲検無作為化比較試験

Monique T Ngo Njembe et al., A Three-Month Consumption of Eggs Enriched with ω-3, ω-5 and ω-7 Polyunsaturated Fatty Acids Significantly Decreases the Waist Circumference of Subjects at Risk of Developing Metabolic Syndrome: A Double-Blind Randomized Controlled Trial. Nutrients. 2021 Feb 18;13(2):663.

【要旨】

 α-リノレン酸(ALA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ルーメン酸(RmA)およびプニカ酸(PunA)は、インスリン感受性、脂質代謝、炎症プロセスなどの生理機能に良い影響を与えるといわれている。本研究では、MetS要因のある成人におけるALA、DHA、RmAおよびPunA強化卵の摂取がMetS因子に与える影響を調べることを目的に二重盲検無作為化比較試験を実施した。
 MetS発症リスクのある24人の男女(35~75歳)を無作為に2群に分けた。対照群はオレイン酸強化卵、試験群はALA、DHA、RmAおよびPunAを強化した卵を毎日2個、3カ月間連続摂取した。糖化ヘモグロビン(HbA1c)、インスリン、空腹時血糖値、腹部肥満、血圧、中性脂肪、リポタンパク質などを試験開始時、1カ月後、2カ月後および3カ月後の4回測定した。また開始時と3カ月後の2回、末梢動脈圧とニトロシル化ヘモグロビンを測定し内皮機能を評価した。
 その結果、試験群のみ腹囲が有意に減少した(-3.17cm;P<0.001)。HbA1c、インスリン、空腹時血糖値、中性脂肪、リポタンパク質については群間での差は認められなかった。赤血球のニトロシル化ヘモグロビン濃度は両群において減少する傾向にあったが(対照群:-24.06 nmol / L、試験群:-26.56 nmol / L;P>0.05)、末梢動脈圧測定法で測定した内皮機能には有意な影響はなかった。両群においてLDLコレステロールおよびHDLコレステロールが有意に上昇した(P<0.001)が、LDL/HDL比には変化はなかった。
 以上の結果は、ALA、DHA、RmAおよびPunA強化卵の摂取は、メタボリックシンドロームの他の要因に影響を与えることなく、腹囲に好ましい変化をもたらすことが示された。

文献No.149
卵またはサプリメントでのコリン摂取は、メタボリックシンドローム患者の血漿コレステロールを変化させること
なく、血漿コリンを増加させ、炎症マーカーであるIL-6を減少させる:無作為化クロスオーバー介入試験

DiBella M et al., Choline Intake as Supplement or as a Component of Eggs Increases Plasma Choline and Reduces Interleukin-6 without Modifying Plasma Cholesterol in Participants with Metabolic Syndrome. Am J Clin Nutr. Nutrients. 2020 13;12(10): E3120. doi: 10.3390/nu12103120.

【要旨】

 メタボリックシンドローム(MetS)は、冠動脈疾患や2型糖尿病の発症リスクを高める。卵に含まれるコリン、カロテノイド、脂溶性ビタミンなどの栄養素は、これらの疾患の発症リスクを低減させる可能性が示唆されている。本研究では、卵とコリンサプリメント(コリン酒石酸水素塩)摂取による血漿中の脂質、糖代謝関連因子、C反応性タンパク質、炎症マーカーへの影響を評価することを目的として、MetS患者23人(35~70歳)を対象に無作為化クロスオーバー介入試験を実施した。被験者を2群にランダムに割り付け、卵3個/日またはサプリメント1.5錠/日(両群ともコリン400mg/日)を4週間摂取させた。その後ウォッシュアウト期間(3週間)を挟み、試験食を入れ替えて4週間摂取させた。食事調査の結果、タマゴ摂取期ではビタミンEとSeの摂取が高かった。興味あることに、LDLとHDLコレステロール、トリグリセリドおよび血糖値には試験開始時あるいは試験食間で変化はなかった。対照的に、炎症マーカーのIL-6は、両コリン源とも試験開始時より有意に低下したが(P<0.01)、卵摂取群でのみC反応性タンパク質(CRP)、インスリン抵抗性は試験開始時より有意に低下した(P<0.01)。
 以上より、MetS患者では1日3個の卵摂取はコリンサプリメントと比較し、血漿LDLコレステロール濃度を上昇させず、さらに含まれる抗酸化成分によるものと思われるが、IL-6を低下させるなどの利点があることが示された。卵はコリンをはじめとする栄養素の良質な供給源であり、MetS患者にとって健康的な食品の選択肢のひとつとなるといえる。

文献No.148
中高年男女の血漿コリンおよびベタインの予測因子としての食事パターン、食品群および栄養素

Konstantinova SV et al., Dietary patterns, food groups, and nutrients as predictors of plasma choline and betaine in middle-aged and elderly men and women. Am J Clin Nutr. 2008, 88(6):1663-9.

【要旨】

 コリンおよびベタインの血中濃度や食事摂取量は、メタボリックシンドロームなどの慢性疾患リスクと関連することが指摘されている。そのため、血漿コリンおよびベタインと食事の関係の調査を行い、疾患との関係が食事パターンによるのか、あるいは代謝機能障害によるのかを検討した。本研究は、ノルウェーでのホルダランド健康調査(Hordaland Health Study)に参加した47~49歳および71~74歳の男女5,812人を対象とし、血漿コリンおよびベタインの予測因子となる食事項目の調査を目的として実施された。4分位間での食品群および栄養素摂取量に対する血漿コリンおよびベタインの濃度との相関は多変量回帰分析で評価した。
 その結果、血漿コリンの予測因子は卵(0.16 μmol/L; P < 0.0001)とコレステロール(0.16 μmol/L;P < 0.0001)であり、血漿中ベタインの予測因子は、高繊維全粒パン(0.65μmol/L;P<0.0001)、高脂肪乳製品(-0.70μmol/L;P<0.0001)、複合炭水化物、食物繊維、葉酸、チアミン(0.66~1.44μmol/L;すべてP≦0.0002)および総エネルギー(0.45μmol/L;P=0.004)であった。また食事パターンを因子分析で評価したところ、血漿コリンについては確認された食事パターンと有意な相関は認められなかったが、ベタインは欧米の食生活パターン(肉類、ピザ、砂糖および脂肪が多い)と負の相関が認められた(P < 0.0001)。
 以上の結果から、葉酸の摂取量が比較的少ない地域での中高年および高齢の男女集団において、血漿のコリンおよびベタインは動物性食品、果物あるいは野菜類の摂取とは相関しなかったが、コリンでは卵、ベタインではパンの摂取と正相関した。先行研究では、欧米の食事はメタボリックシンドロームのリスクを高めることが示されているが(参考文献1-3)、コリンもベタインも欧米型の食事パターンと正相関しないことが本研究より示唆された。先行研究の結果と併せ、血漿のコリンおよびベタインとメタボリックシンドロームとの関係は食事摂取を反映するとは言えないと考えられる。

参考文献1
Esmaillzadeh A et al., Dietary patterns, insulin resistance, and prevalence of the metabolic syndrome in women. Am J Clin Nutr. 2007, 85:910–8.

参考文献2
Feldeisen SE et al., Nutritional strategies in the prevention and treatment of metabolic syndrome. Appl Physiol Nutr Metab. 2007, 32:46–60.

参考文献3
Lutsey PL et al., Dietary intake and the development of the metabolic syndrome. The Atherosclerosis Risk in Communities Study. Circulation. 2008, 117:754–61.

文献No.121
卵白のメタボリックシンドローム軽減効果(総説)

Shirouchi B et al., Alleviation of metabolic syndrome with dietary egg white protein. J. Oleo Sci., 2019:517-524.doi:10.5650/jos.ess19084

【要旨】

  メタボリックシンドローム(MetS)は、過栄養や運動不足などの生活習慣の悪化を原因とする腹部の脂肪蓄積に、高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさり、糖尿病や心血管疾患の発症リスクを上げる要因となっている。
  これまでの研究では、MetSの食事療法として卵白タンパク質が重要な調節因子となることが示されている。食事性卵白タンパク質は、ラットにおいてTAGの吸収を阻害し、ラットの体タンパク質量の増加および肝臓におけるβ酸化の促進を介して、体脂肪量を減少させる。またin vitro試験より、卵白は、胆汁酸ミセルによるコレステロールの取り込みを阻害し、腸でのコレステロールの吸収を抑えている。軽度の高コレステロール血症男性を対象とした介入試験では、卵白タンパク質8g含む飲料を8週間毎日摂取すると、血清総コレステロールとLDLコレステロールの濃度が低下しした。12週間の摂取では、内臓脂肪面積を減少させ、内臓脂肪面積に対する皮下脂肪面積の比率を改善した。
  これらの結果は、食事性タンパク質がMetSの予防または軽減に有用であることを示している。

文献No.105
卵摂取は高血圧リスク低下と関連する(メタアナリシス)

Yi Zhang et al., Red meat, poultry, and egg consumption with the risk of hypertension: a meta-analysis of prospective cohort studies. Journal of Human Hypertension 2018, https://doi.org/10.1038/s41371-018-0068-8

【要旨】

  赤身肉、家禽および卵の摂取と血圧の関連を明らかにするため、メタアナリシスを実施した。2017年8月にPubMed, Web of science, Embaseを用いて、赤身肉、家禽および卵の摂取と血圧の関連が報告された前向きコホート研究を収集した。それぞれの食品ごとに、最も摂取量の低いグループに対する最も摂取量の多いグループ間での高血圧の相対リスクを求めた。メタアナリシスには8報の論文を用いた。10件のコホート研究が含まれ、対象者数は全部で351,819人であった。
  多変量解析の結果、赤身肉については9件の研究から、高血圧リスクと正の相関がみられた(リスク比RR=1.12, 95%CI: 1.11?1.35; P<0.001)。5件の研究では加工肉と未加工肉のサブグループ解析が行われており、どちらも高血圧リスクが高くなることが確認された(加工肉:RR=1.12, 95%CI: 1.02?1.23; P =0.02、未加工肉: RR=1.19, 95%CI: 1.04?1.36; P=0.01)。家禽類については6件の研究があり、高血圧リスクが高くなることが確認された(RR=1.15, 95%CI: 1.03?1.28; P=0.015)。一方、卵については3件の研究があり、高血圧のリスク低下と関連することが分かった(RR=0.79, 95%CI: 0.68?0.91; P=0.001)。
  以上より、赤身肉および家禽類の摂取は高血圧リスクを高めるが、卵の摂取は高血圧リスク低下と関連することが示された。現段階では研究数が限られているため、今後さらに質の高いコホート研究が必要である。

文献No.89
乳酸発酵卵白の内臓脂肪低減効果(介入試験)

Matsuoka R et al., Lactic-fermented egg white improves visceral fat obesity in Japanese subjects ? double-blind, placebo‐controlled study, Lipids Health Dis., 2017 , 16(1):237. doi: 10.1186/s12944-017-0631-2.

【要旨】

  卵白タンパク質(EWP)は、ラットの体脂肪を減少させることが確認されている。しかしヒトにおいて有効かどうかは不明である。そこで、卵白を乳酸菌で発酵させることによって卵白の風味を改善させた乳酸発酵卵白(LE)を開発し、ヒトでの二重盲検プラセボ対照試験を実施し、内臓脂肪面積(VFA)に対するLEの効果を評価した。 参加者は、40歳以上の成人男女37名であった(臍辺りのVFAが100 cm2以上)。対照群とLE群の2群で、それぞれホエイまたはLEを含む飲料を12週間(タンパク質量8g/日)摂取させた。VFAを開始時および摂取12週目に測定した。また各種血液生化学検査を実施した。
  その結果、LE摂取群は、開始時と比較して有意にVFAが低下した(?8.89 cm2, p?<0.05)。また12週後、対照群と比較してLE群で有意にVFAが低かった(p <0.05)。また、LE群では、試験終了時の内臓脂肪対皮下脂肪面積の比は、開始時および対照群と比較して、有意に低かった(p <0.05)。他の生化学測定項目は影響を受けず、したがって、LEは内臓脂肪低減効果を有することがわかった。
  EWP中のオボアルブミンおよびオボトランスフェリンは脂肪の吸収を阻害し、それによって胆汁酸ミセル内の脂質含量を低下させることが報告されている。今回の試験でもこの2成分が効果を示したものと推察される。

文献No.81
卵白タンパク質摂取により体タンパク質が増加し、体脂肪が減少する(動物試験)

R Matsuoka et al., Dietary egg-white protein increases body protein mass and reduces body fat mass through an acceleration of hepatic β-oxidation in rats, Br. J. Nutr., 2017, 118, 423-430

【要旨】

  卵白タンパク質(EWP)は、ラットのリンパでのトリアシルグリセロール(TAG)輸送を減少させることが知られている。本研究では、EWPが体脂肪量に与える影響を調べた。4週齢の雄ラットに、20%のEWPまたはカゼインのいずれかを含む食餌を28日間給餌した。EWP群の体タンパク質量および腓腹筋(下肢筋)量は、カゼイン群よりも有意に多かった。さらに、EWP群の体中のTAG量および腹部脂肪量は、カゼイン群に比べ有意に低かったが、脂肪細胞のサイズは小さかった。ラットにおける食餌脂肪の関与を確認するために、異なるタンパク質源(EWPおよびカゼイン)とともに脂肪量を変化させた餌料(5%または10%のトウモロコシ油)を与えた結果、いずれの添加脂肪量でも腹部脂肪量および血清と肝臓TAG量は、カゼイン群よりEWP群で有意に低かった。さらに、肝臓のβ酸化酵素活性はEWP群で有意に高かった。さらに、10%脂肪食を投与したEWP群の腹部脂肪重量の減少は、5%脂肪食を投与したEWP群よりも少なかった。結論として、EWPの摂取は、以前に報告された食事からのTAG吸収阻害に加えて、ラットの体タンパク質量の増加および肝臓におけるβ酸化の促進を介して、体脂肪量を減少させることが示された。

文献No.72
卵を週7個以上摂取でメタボリスク低下(横断研究)

Shin S et al., Egg consumption and risk of metabolic syndrome in Korean adults: Results from the health Examinees study, Nutrients, 2017, 9(7), 687. doi: 10.3390/nu9070687.

【要旨】

  卵の摂取とメタボリックシンドローム(MetS)との関連についての研究は限られており、その結果は矛盾している。40-69歳の韓国人成人の卵の摂取とMetSとの関連を調べるために、横断研究を行った。The Health Examinees studyから計130,420人の被験者(男性43,682人、女性86,738人)について解析した。卵摂取量は、106項目の食品頻度アンケートを使用して算定した。MetSは、「National Cholesterol Education Program, Adult Treatment Panel III」を用いて判断した。潜在的な変数について調整した後、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)から卵消費とMetSとの関連についてロジスティック回帰分析を行った。
  130,420人の被験者のうち、34,039人(26.1%)がMetSであった。週7個以上卵を摂取した女性では、週1個未満者と比較してMetSリスクが低かった(OR: 0.77, 95%CI, 0.70-0.84、 p trend < 0.0001)。卵摂取量が多いと、女性では下記のMetS指標と逆相関関係が認められた:ウエスト周囲長の増加(OR: 0.80, 0.75-0.86)、血清トリグリセリドの上昇(OR: 0.78, 0.72-0.85)、HDL-Cの低下(OR: 0.82, 0.77?0.88)、血圧の上昇(OR: 0.86, 0.80-0.92)および空腹時血糖値の上昇(OR: 0.94, 0.83~0.99)。男性ではHDL-Cの低下(OR: 0.89, 0.80-1.00)と逆相関した。
  このように、卵の摂取量が多いと、女性ではMetSおよび測定した5つの代謝リスク指標が低減し、男性ではHDL-C低下のリスクが低減した。

文献No.56
朝食での卵摂取が満腹感を高める(介入試験)

Missimer A et al., Consuming Two Eggs per Day, as Compared to an Oatmeal Breakfast, Decreases Plasma Ghrelin while Maintaining the LDL/HDL Ratio. Nutrients. 2017, 9, 89; doi:10.3390/nu9020089

【要旨】

  食事パターンが循環器疾患(CVD)リスクと食欲に及ぼす影響を検討するため、健常な米国人男女50名(23.3 ±3.1歳)を対象とし、朝食として、卵2個/日を含む食事を摂取する群(卵摂取群)あるいはオートミール食摂取群(OM摂取群)の2群に分け、各4週間摂取するクロスオーバー試験を実施した(ウォッシュアウト期間は3週間)。各介入終了時に空腹時の採血を行った結果、卵摂取群は血中LDL-CとHDL-CがOM摂取群と比較して有意に上昇(P<0.01)していたが、CVDリスクのバイオマーカーであるLDL-C/HDL-C比には差は認められなかった。血糖値、トリグリセリドおよびALT、AST(いずれも肝機能指標)にも差はなかった。また、視覚的アナログスケール(VAS)を適用し、朝・昼・夜の食事前における満腹感を調査した結果、卵摂取群は夕食前の満腹感が大きく、1日を通して空腹感が低くなり、それに伴って血漿のグレリン(食欲増進ホルモン)濃度も低下した(P<0.05)。以上の結果より、健常な若者において卵2個/日を含む朝食はCVDリスクに影響を与えず満腹感を高めるなど、健康的な朝食としての卵の有用性が示された。

文献No.31
若者が朝食に卵摂取で食欲抑制ホルモンが増加(介入試験)

Ann G. Liu et al., The effect of an egg breakfast on satiety in children and adolescents: A randomized crossover trial. J. Am. Coll. Nutr., 2015, 34:185-190.

【要旨】

  朝食での卵摂取により満腹感が増し昼食の摂食量を減少させることが大人を対象とした研究で明らかになっている。そこで、若者での効果を検討するため、子供(4-6歳)13名と青年(14-17歳)15名を対象とし、朝食として卵食あるいは同カロリーのベーグル食(パン食)を摂取するクロスオーバー無作為比較試験を実施した(卵食はベーグル食と比較しタンパク質と脂質を多く含む)。朝食から3時間後に、昼食を満腹になるまで自由摂取させ摂取量を測定した結果、子供、青年ともにエネルギー摂取量に群間差は見られなかった。一方、朝食前および朝食30分後と180分後に血中の食欲抑制ホルモン(PYY)濃度並びに満腹感と空腹感を測定した結果、青年の卵摂取群ではPYY値が有意に高かったが、食事摂取量の減少とは結びつかなかった。これらの結果から、子供や若者では朝食での卵摂取は食欲抑制ホルモンを増加させるが、摂食量には影響を及ぼさなかった。

文献No.27
朝食に卵摂取で食欲が抑制される(介入試験)

Bonnema AL et al., The effects of the combination of egg and fiber on appetite, glycemic response and food intake in normal weight adults-a randomized, controlled, crossover trial. Int. J. Food Sci. Nutr., 2016, 16:1-9.

【要旨】

  正常体重~過体重の健常米国人48名(平均年齢24歳、BMI 23)を対象とし、朝食として卵を取り入れた高タンパク質食(タンパク質30 g)およびタンパク質+食物繊維食(タンパク質20 g、食物繊維7 g)、対照としてシリアル食(タンパク質10 g)の3種類を用いた。血糖値、昼食(自由摂取)の摂取量、VAS※を用いた空腹感と満腹感の評価を実施した。いずれも食事のエネルギー量は揃え、ウォッシュアウト期間を1週間以上設けるクロスオーバー試験として実施した。結果としては、高タンパク質食が最も満腹感が高かった。また、シリアル食と比較して卵を含む朝食はどちらも食後血糖値が低下し、昼食の摂食量が減少した。血糖値への影響は、炭水化物量の違いによると考えられる。以上から、朝食に卵を取り入れることで食欲が抑えられ、体重減少などの食事管理に役立つことが期待できる。
※VAS (visual analog scale): 視覚的アナログスケール(人間での感覚の主観的強度測定法)

文献No.22
卵白加水分解物は肥満関連因子を改善する(動物試験)

Garces-Rimon M et al., Pepsin egg white hydrolysate ameliorates obesity-related oxidative stress, inflammation and steatosis in zucker fatty rats. PLoS One., 2016, 11:e0151193.

【要旨】

  肥満ラット(Zucker fatty rats)を用い、卵白加水分解物の摂取が肥満関連障害因子に与える影響を評価した。水(対照)、ペプシン加水分解卵白あるいはアミノペプチダーゼ加水分解卵白750mg/kg/dayを12週間与えた後に、尿、糞便、臓器、血液について分析した。ペプシン加水分解卵白摂取群では、対照群と比較して精巣上体脂肪組織の低下、脂肪肝の改善、血中遊離脂肪酸濃度の低下が確認された。さらに、血中TNF-αおよび酸化ストレス指標も有意に低下した。以上の結果より、ペプシン加水分解卵白は、肥満関連障害因子の改善に適用できる可能性が示唆された。

文献No.21
卵摂取でメタボリックシンドロームのリスクが低減(横断研究)

Woo HW et al., Cross-sectional and longitudinal associations between egg consumption and metabolic syndrome in adults 40 years old: The Yangpyeong Cohort of the Korean Genome and Epidemiology Study (KoGES_Yangpyeong). PLoS One., 2016, 11: e0147729.

【要旨】

  韓国の成人男女(40歳以上)を対象に、卵摂取とメタボリックシンドロームの関係を検討した2005年から2009年にわたる前向き横断研究。身体検査とアンケートにより2,887名(男性1,115名、女性1,772名)をリクルートし、メタボリックシンドローム者を除き、1,663名(男性675名、女性958名)に対して、3.2年(0.34-8.7年)間の追跡調査を行った。追跡期間中、289名がメタボリックシンドロームに罹患したが、卵を3個/週以上摂取する群では、摂取しない群と比較し男女共にリスクが低下した(相対リスク男性0.46、女性0.54)。また、男性では卵摂取が多いと空腹時血糖および中性脂肪高値のリスク低下(相対リスクはそれぞれ0.39および0.42)することも確認された。
  以上のように、タマゴの摂取が多いと男女ともメタボのリスクが低減し、男性では血液指標値にも好影響が認められた。健康な中年および高齢者に対しては、卵摂取に関する現行の推奨を見直す必要がある。

文献No.6
卵摂取は末梢血単核球の炎症抑制および脂質代謝に影響を与える(介入試験)

Catherine J. Andersen et al.,Egg intake during carbohydrate restriction alters peripheral blood mononuclear cell inflammation and cholesterol homeostasis in metabolic syndrome. Nutrients., 2014, 6:2650-2667.

【要旨】

  全卵摂取が、単球の炎症およびコレステロール恒常性へ与える影響を検討するため、メタボリックシンドロームで糖質制限(エネルギー比20~30%)をしている患者37名を対象に、12週間、全卵3個/日(EGG群)または卵黄除去食(SUB群)を摂取させた。試験開始時および12週間後に採取した血液から末梢血単核球(PBMC)を分取し、実験に使用した。結果、SUB群のみ、LPSによってPBMCにおける炎症性サイトカインの発現が誘発された。一方、EGG群では、TLR4発現が上昇した。また、組織からのコレステロール輸送に関与するABCA1およびコレステロール合成律速酵素であるHMG-CoA reductaseのmRNA発現がEGG群のみで増加した。PBMC中の総コレステロール量は、脂質ラフト中のコレステロール含量と相関が見られた。以上より、全卵摂取は、糖質制限を行っているメタボリックシンドローム患者におけるPBMCの炎症抑制およびコレステロール恒常性に影響を与えることが示唆された。

文献No.5
卵摂取でメタボリックシンドローム患者の脂質代謝や糖代謝を改善(介入試験)

Christopher N. Bless et al., Whole egg consumption improves lipoprotein profiles and insulin sensitivity to a greater extent than yolk-free egg substitute in individuals with metabolic syndrome. Metabolism., 2013, 62:400-410.

【要旨】

  全卵摂取が、血清脂質、アポリポ蛋白、酸化LDL、CETP、LCAT活性に与える影響を検討するため、メタボリックシンドロームで糖質制限(エネルギー比20~30%)をしている患者37名を対象に、12週間、全卵3個/日(EGG群)または卵黄除去食(SUB群)を摂取させた。結果、EGG群では体重減少、HDL-Cの増加、TGの減少、LDL-C/HDL-C比の増加が見られた。また、動脈硬化への関与が指摘されている小粒子LDL-Cは両群において減少した。コレステロールのエステル化に関与するLCATについては、EGG群で有意に活性が上昇した。また、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IR値が減少した。以上の結果より、糖質制限中の卵摂取は、メタボリックシンドローム患者において、アテローム生成に関わるリポ蛋白特性およびインスリン抵抗性を改善すると考えられる。

5.運動、身体機能

文献No.191
健康な高齢者におけるタマゴの摂取量と骨粗鬆症・多発性骨折との関係

Roberta Pujia et al., Relationship between Osteoporosis, Multiple Fractures, and Egg Intake in Healthy Elderly., J Midlife Health., 2021;12(4):287-293.

【要旨】

 骨粗鬆症の予防のための食事パターンについては多くの研究で調査されているが、特定の食品の摂取と全身骨密度との関連を調べたものはほとんどない。最近の研究では、タマゴに含まれている生物活性化合物が骨密度の増加をもたらす可能性が示唆されている。本研究ではタマゴ摂取量と骨粗鬆症・多発性骨折の関係を検討した。
 65歳以上の高齢者の男女176人を対象とし、タマゴ摂取量と骨密度との関係を検討した。タマゴ摂取量は食事調査により調査し、骨密度は全身T(WBT)スコアとして二重エネルギーX線吸収法で測定した(この方法は、骨粗鬆症の臨床診断や薬の有効性の評価に汎用さている)。解析はステップワイズ多変量線形回帰とロジスティック回帰を用いて行った。  本研究では、調べた全ての食品群と非食品因子について、WBTスコアとタマゴ摂取量(B※1=0.02, P=0.02)、性別(B=0.85, P <0.001)並びにBMI(B=0.04, P = 0.03)との間に正相関が認められた。多発性骨折は、タマゴの毎日の摂取量と負の相関(B=-0.26, P = 0.02)、高密度リポタンパク質コレステロールと正の相関(B=0.09, P=0.03)があった。
 以上より、タマゴの摂取と骨の健康との間に有意な正の相関があることが示唆された。将来、無作為化介入試験でタマゴの摂取と骨の健康との間に正関係が認められれば、タマゴは骨粗鬆症を予防し、高齢者の骨折のリスクを減らすための有用な食品となる可能性がある。

※1 B:非標準化係数

文献No.166
水溶性鶏卵殻膜サプリメント摂取による変形性膝関節症の改善効果:無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験

Susan Hewlings et. al., A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Prospective Clinical Trial Evaluating Water-Soluble Chicken Eggshell Membrane for Improvement in Joint Health in Adults with Knee Osteoarthritis. J Med Food. 2019 Sep 1; 22(9): 875–884.

【要旨】

 変形性膝関節症(OA)は、生活の質に影響を及ぼす慢性疾患であり、症状緩和のための栄養補助食品がよく求められる。本試験では、水溶性鶏卵殻膜(WSEM)サプリメント摂取によるOAの改善効果を明らかにすることを目的に試験とした。
 88名の成人OA患者を介入群(n=44)とプラセボ群(n=44)に無作為に割り付け、WSEMサプリメント450mgを1日1回、12週間にわたって摂取させた。そして試験開始から5日後、28日後、56日後および84日後に6分間の歩行試験(6MWT)、Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の測定、膝関節可動域(ROM)テストを行い、結果を定期的に評価した。
 試験開始時からの改善を指標とした分析の結果、6MWTについては最低の遂行者でも5日間のWSEM摂取で最大の改善がみられ、ほかの者では12週までに対照群より有意に改善された。標準化されたWOMACのこわばりスコアもまた5日目までに対照群より有意に改善された(P<0.05)。しかし、正規化しない分析では、6MWT、WOMAC、ROMテストにおいて、統計的に有意な改善は見られなかった。この研究で製品は安全であることが認められた。
 結論として、WSEMサプリメントを毎日摂取すると各人の平均的身体能力(歩行距離と歩行能力)を有意に向上させ、摂取5日目までにこわばりを低下させ、最も重篤なもので最大の効果が認められ、12週にわたって効果が維持された。WSEMサプリメントは、OA患者の症状を緩和し、運動能力を高める安全な選択肢であろう。

文献No.161
訓練した若い男性を対象とした12週間のレジスタンストレーニング中の全卵と卵白の摂取による影響:無作為
化比較試験

Bagheri R et al., Whole egg vs. egg white ingestion during 12 weeks of resistance training in trained young males: a randomized controlled trial. J Strength Cond Res, 2021, 35(2):411-419

【要旨】

 本研究の目的は、訓練した若い男性を対象に12週間のレジスタンストレーニング(RT)中での全卵あるいは卵白の摂取が筋断面積、身体組成、筋力および無酸素パワーに及ぼす影響を比較することにある。二次的な目的として全身のホルモン応答を調べた。
 RTを行っている若い男性30名を、全卵+RT(WER)または卵白+RT(ERT)の2グループのいずれかに無作為に割り付けた(各15名)。WER群ではRT直後に全卵3個を摂取し、ERT群では全卵3個と同窒素量の卵白6個を摂取した。12週間のRT(週3回)の前後に,膝伸展筋量と断面積(コンピュータ断層撮影),除脂肪体重と体脂肪率(生体インピーダンス),筋力(膝伸展力,握力),無酸素性パワー(サイクルエルゴメーター)およびホルモンの血清濃度を測定した。
 その結果、WER群では体脂肪率、血清テストステロン、膝伸展力、握力において、介入前後でより大きな改善効果があった。膝伸展筋量、断面積、除脂肪体重、無酸素力および他の血液ホルモンに対して運動負荷の時間が有意な効果を示した(p<0.05)。WER群でERT群と比較し除脂肪体重の変化が大きい傾向にあった(p=0.06)。
 RTを行った若い男性において、運動後の全卵摂取は卵白摂取と比較し、筋肉量にグループ差がないにもかかわらず、膝伸展筋力、握力およびテストステロンを増加させ、体脂肪率を減少させた。筋力向上と体脂肪率減少を目的としたRTプログラムでは、全卵の摂取が望ましい可能性が示された。

文献No.118
卵白タンパク質補給が筋力および血清アミノ酸濃度に及ぼす影響(介入試験)

Hida A et al., Effects of egg white protein supplementation on muscle strength and serum free amino acid concentrations. Nutrients. 2012;4(10):1504-17. doi: 10.3390/nu4101504.

【要旨】

  タンパク質の摂取は、アスリートにとって身体づくりの重要な要素であることが、男性アスリートを対象とした研究で報告されている。一方、女性アスリートに対する研究は十分に実施されていない。そこで、本研究では、卵白タンパク質が女性アスリートの除脂肪体重(FFM)、筋力パフォーマンスおよびタンパク質代謝物に及ぼす影響を検討した。
  本研究は、二重盲検ランダム化並行群間比較試験で実施した。健康な女子大学生アスリート30名を、同カロリー量の卵白タンパク質群(卵白タンパク質15g/日)あるいは対照群(デキストリン)に分けた。被験者は、8週間にわたり毎日トレーニング前に試験食品を摂取した。試験前後において、FFM、筋力パフォーマンスとして最大反復回数(1RM)の測定および血液検査を実施した。
  摂取期間中、平均エネルギー摂取量には両群とも変化はなかった。FFMおよび1RMにおいては、摂取8週間後で両群とも試験前と比較して有意に増加したが、血液検査の結果、卵白タンパク質群でのみ血清中の尿素およびシトルリン濃度が有意に高値を示した。
  女性アスリートが卵白タンパク質を摂取しても、デキストリン(炭水化物)の摂取と比較して体組成や筋力に対する影響に差はみられなかったが、タンパク質代謝物に一定の変化をもたらすことが示された。いずれにしても、より長期の試験で影響を確認する必要がある。

文献No.101
卵摂取は小児の骨密度と関連する(横断研究)

Coheley LM et al., Whole egg consumption and cortical bone in healthy children. Osteoporos Int. 2018, doi: 10.1007/s00198-018-4538-1.

【要旨】

  卵は小児の骨に有益な生理活性成分を含む。そこで、卵摂取と皮質骨の関連を知るために横断研究を実施した。9~13歳の黒人および白人男女小児294名を対象とし、3日間の食事記録から卵摂取量を求めた。末梢骨定量的コンピュータ断層撮影法で橈骨および脛骨の皮質骨を測定した。体組成は二重エネルギーX線吸収測定法、骨代謝マーカーはELISA法で測定した。
  解析の結果、非調整モデルにおいて卵摂取は橈骨および脛骨皮質骨の骨塩量(Ct.BMC)、総面積、皮質領域、皮質厚、骨膜周囲長および骨強度と正の相関があった(r=0.144-0.224, P<0.05)。人種、性別、性成熟度、除脂肪軟組織量(FFST)、タンパク質摂取量での調整モデルでは、脛骨での相関は認められなかったが、橈骨の骨塩量とは正の相関が見られた(r=0.138, P =0.031)。また、総骨密度および骨塩量、総骨面積は非調整モデルのみで卵の摂取と有意な正の相関があった(r=0.119-0.224, P<0.05)。共変量による調整後、卵摂取はFFST(β=0.113, P<0.05)と正の相関があり、FFSTは骨塩量(β=0.556, P<0.05)と正の相関が示された。橈骨の骨塩量と卵摂取の相関(β=0.099,P =0.035)は、媒介因子であるFFSTの影響を調整しても確認された(β=0.137, P=0.02)。また、卵摂取とオステオカルシン濃度については非調整モデル(P =0.005)調整モデル(P =0.049)ともに正の相関がみられた。
  本研究で示された骨塩量と卵摂取の相関が今後RCTでも確認できれば、卵の摂取は小児の骨成長を促し骨折予防に役立つ有用な対処法になるであろう。2015年の食事ガイドラインでコレステロールの摂取量に上限がなくなったことや市場での価格が手頃なこともあり、卵は子供の食生活に積極的に取り入れたい食材である。

文献No.97
幼児期の動物性タンパク質摂取と成長速度について(コホート研究)

Smith-Brown P et al., Growth and protein-rich food intake in infancy is associated with fat-free mass index at 2?3 years of age. J Paediatr Child Health. 2018, doi: 10.1111/jpc.13863.

【要旨】

  近年、EFSAなど世界の公衆衛生機関および乳児用調製乳業界は乳幼児期のタンパク質の過剰摂取が体重増加を促し、その後の小児肥満につながる可能性を指摘している。本研究は、幼児の高タンパク質食品(乳製品、肉、魚、卵)の摂取が、2-3歳における身体サイズや体組成に及ぼす影響について検証することを目的として実施した。
  2010年からオーストラリアクイーンズランド州にて行われている幼児の成長と食事に関する前向きコホート研究Feeding Queensland Babies Studyに参加した36人の子供を対象とし、2-3歳における体組成について重水素希釈法を用いて推定した。解析の結果、2-3歳における除脂肪量指数(FFMI)は、12ヵ月時点での動物性タンパク質(乳製品、肉、魚、卵)摂取量と正相関を示した(r = 0.58, P = 0.002)。また、0-6ヵ月(r = ?0.79, P =0.007)6-12ヵ月 (r = ?0.75, P = 0.019)における成長速度と負の相関があった。
  以上の結果から、現在検討されている幼児期早期の動物性タンパク質摂取量を減らす戦略は、幼児期の成長速度の低下および除脂肪体重の増加抑制と関連し、その後の肥満の素因となる可能性が示唆された。

文献No.85
食事のタンパク質の質が高齢者のタンパク質同化に及ぼす影響

Kim IY et al., Quality of Meal Protein Determines Anabolic Response in Older Adults. Clin. Nutr., 2017, pii: S0261-5614(17)31357-2.

【要旨】

  必須アミノ酸の組成や含量の異なる食事が、全身および筋肉のタンパク質合成に及ぼす効果について検証するため、12名の中高齢者(57~74歳)を対象にしたクロスオーバー介入試験を実施した。全身でのタンパク質代謝と筋肉タンパク質の合成について把握するため、対象者には標識 L-[ring-2H5]phenylalanine および L-[ring-2H2]tyrosineを9 時間カテーテルで注入しながら試験を実施した。被験者は朝食として、タンパク質=約26g、総エネルギー=約500kcaに揃えた卵ベースの食事(卵摂取群)もしくはシリアルベースの食事(シリアル摂取群)を摂取し、運動後に標準的な昼食を摂取した。タンパク質代謝について測定した結果、朝食に卵を摂取した場合はシリアル食と比較して、全身タンパク質の分解が抑制され、合成と分解のバランス(プラスの正味バランス)が優れていることが示された。卵摂取群ではこのバランスは昼食後には認められなくなったが、血中必須アミノ酸濃度は高いレベルを維持していた。とくに筋肉合成に関わるロイシン濃度が卵摂取群で有意に高かった。また、卵摂取群では、朝食および昼食後の血中インスリン濃度が有意に低かった。
  以上の結果より、タンパク質摂取量が同じでも、タンパク質の質によって代謝への影響が異なり、卵摂取群はシリアル摂取群よりもタンパク質の合成と分解のバランスが優れていることが示された。

文献No.82
全卵摂取は卵白よりも運動後の筋肉タンパク質合成を高める

Stephen VV et al., Consumption of whole eggs promotes greater stimulation of post  exercise muscle protein synthesis than consumption of isonitrogenous amounts of egg whites in young men, Am. J. Clin. Nutr., doi: org/10.3945/ajcn.117.159855.

【要旨】

  運動回復時における卵白または全卵摂取後でのタンパク質代謝を比較するため、若年男性10名(21±1歳、体重88±3kg、体脂肪16±1%)を対象とするクロスオーバー介入試験を実施した。L-[ring-2H5 ]フェニルアラニンおよびL-[1-13C]ロイシンを標識として注入後、一回のレジスタンス運動を行い、運動後にL-[5,5,5-2H3]ロイシンで標識した全卵(タンパク質18g、脂質17g)または卵白(タンパク質18g、脂質0g)を摂取した。その後、血液および筋肉生検サンプルを採取し、全身のロイシン動態、筋肉のシグナル伝達および筋原繊維タンパク質合成を検討した。その結果、卵由来のロイシン血漿移行率は、全卵よりも卵白の方が速かった(p = 0.01)。食後300分間のロイシン利用率は、全卵(68±1%)と卵白(66±2%)で同様であり、正味ロイシンバランスにも差は無かった(p = 0.27)。また、全卵・卵白ともに、運動後の筋肉のシグナル伝達(mTOR1、p70S6K1、4E-BP1のリン酸化)が亢進した(p <0.05)。一方で、運動後の筋原線維タンパク質の合成率は、卵白と比較し全卵で有意に増加した(p = 0.04)。
  本研究より、レジスタンス運動直後の全卵摂取は、同じタンパク質量の卵白と比較して筋原線維におけるタンパク質合成率が高く、タンパク質以外の栄養素も豊富な全卵のような食品を摂取することで、筋肉の同化がより刺激されることが示唆された。

文献No.68
卵殻カルシウムは閉経後女性の骨量を増加させる(介入研究)

Sakai S et al., Effects of eggshell calcium supplementation on bone mineral density in postmenopausal Vietnamese women. J. Nutr. Sci. Vitaminol., 2017, 63(2):120-124.

【要旨】

 &nbnbsp;ベトナムでは高齢者人口の増加に伴い骨粗鬆症が問題となっており、カルシウムの摂取不足がその原因の一つと考えられる。そこで、特に骨粗鬆症リスクが大きい閉経後女性において、卵殻カルシウムが骨量に与える影響を検証するため、以下の試験を実施した。 閉経後5年以上経過したベトナム人女性(平均年齢61.7歳)54名を対象とし、12ヵ月間にわたりカルシウム300mgを含む卵殻カルシウムを摂取する群(卵殻Ca群, n=16)、カルシウム300mgを含む炭酸カルシウムを摂取する群(炭酸Ca群, n=14)、およびプラセボ群(n=15)に分け、単盲検ランダム化並行群間比較試験を行った。6ヵ月および12ヵ月後での骨量の変化を、骨内伝播速度(SOS)を指標として群間比較したところ、卵殻Ca群のSOSは12ヶ月後で有意に増加し(p <0.05)、プラセボ群および炭酸Ca群よりも有意に高かった(p <0.05)。炭酸Ca群もプラセボ群より高値であったが、有意差はなかった(p > 0.05)。
  以上より、卵殻Caは閉経後のベトナム人女性において骨量を増加させ、その効果は炭酸Caよりも大きいことが認められた。卵殻Caは骨粗鬆症の予防に効果的である可能性が示唆された。

文献No.66
アヒル卵白ペプチドは骨形成を調節する(動物試験)

Hou T et al., Desalted Duck Egg White Peptides Promote Calcium Uptake and Modulate Bone Formation in the Retinoic Acid-Induced Bone Loss Rat and Caco-2 Cell Model. Nutrients, 2017, 12; 9(5). pii: E490. doi: 10.3390/nu9050490.

【要旨】

  これまでに、塩漬けアヒル卵白を脱塩後、酵素処理し、分子量5 kDa未満に調製した脱塩アヒル卵白ペプチド(DP)は、Ca欠乏条件下のCaco-2細胞およびラットにおいてCaの取り込みを促進することが確認されている。レチノイン酸誘導骨損失モデルを用いて、DPのCa吸収および骨形成に及ぼす効果を評価した。3ヶ月齢のWistar雌性ラットを用い、レチノイン酸処理を行わない対照群に対し、1日1回2週間のレチノイン酸処理(80 mg / kg)の直後に0.9%生理食塩水(モデル)、DP(800 mg / kg)またはアレンドロネート(陽性対照)(5 mg / kg)で3週間処置した。モデル群は、血清骨アルカリホスファターゼが他の3群よりも有意に高く(p <0.05)、Ca吸収率、血清オステオカルシン、骨重量指数、骨カルシウム含量、骨ミネラル密度および骨の最大負荷が低かった。DPまたはアレンドロネートによる治療後、Ca吸収率が上昇し、いくつかの血清および骨指標が回復した。形態学的観察の結果、DPまたはアレンドロネートの補充により骨組織の形態が改善し、破骨細胞の数が減少した。in vitroでは、transient receptor potential vanilloid 6(TRPV6)Caチャネル※が、DP およびDPから同定されたVal-Ser-Glu-Glu peptitde(VSEE)の両者の主要な輸送経路であることが示された。このように、DPがCaの取り込みを促進し骨形成を調節することから、骨損失の予防のために使われている治療薬の有用な代替品となり得ることが指摘された。
  ※TRPV6カルシウムチャネル:小腸Ca2+吸収経路で、Ca2+選択的な膜6回貫通型のイオンチャネル

文献No.38
サルコペニア予防に卵は最適(総説)

Alison S et al., Considering the benefits of egg consumption for older people at risk of sarcopenia. Br. J. Community Nurs., 2016, 21:305-309.

【要旨】

  高齢者の重要な健康問題であるサルコペニア(筋減少症)は、虚弱や栄養失調とも関連しており、健康やQOLの低下につながる。筋肉量減少は、40、50代から始まるため、高齢期でのサルコペニアのリスクを低下させるためには、運動やバランスの良い食事などに中年期から気を付けることが必要である。食事については、筋合成を高めるためにタンパク質の摂取が重要であり、摂取タイミングや質も考慮する必要があると考えられる。卵は、筋肉合成に必要なロイシンや、ビタミンD、n-3系脂肪酸など高齢者に必要な栄養素を多く含み、消化吸収に優れた良質なタンパク質源である。安価で広く容易に手に入れることができ、多くの高齢者にとって、親しみがあり朝食などに取り入れやすいタンパク質源であると考えられる。高齢者の卵摂取量を増やすことで、健康的でバランスの良い食事や筋肉増強が期待でき、サルコペニアの予防にもつながると考えられる。

文献No.23
ルテイン強化卵黄の摂取により視力が改善(介入試験)

van der Made SM et al., Increased macular pigment optical density and visual acuity following consumption of a buttermilk drink containing lutein-enriched egg yolks: A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. J. Ophthalmol., 2016, doi: 10.1155/2016/9035745.

【要旨】

  ルテインが加齢黄斑変性症の兆候のある人の視力に与える効果を検証するため、50歳以上の男女を対象に、バターミルクを摂取するプラセボ群(43人)と、高ルテイン卵黄を配合したバターミルクを摂取するルテイン群(46人、ルテイン1.4 mg/日の付加)に分け、1年間にわたり摂取させた。その結果、ルテイン群で、①血中ルテイン濃度が摂取開始時の205 ng/mLから12ヵ月後の399 ng/mLへと増加し、②視力の指標であるLogMAR*値がルテイン群でプラセボ群と比較して有意に減少し、③黄班色素光学密度はルテイン群で摂取開始時と比較して有意に増加した。以上のことから、加齢黄斑変性症の兆候のある人がルテインに富む卵黄を摂取することで、視力、黄斑色素光学密度、血漿ルテイン濃度が改善することが示された。
  *LogMAR:視力を表す指標。小数視力0.1がLogMARでは1.0となる。

文献No.14
加水分解卵殻膜の摂取で関節機能や日常生活動作が改善(介入試験)

Jensen G S et al., Support of joint function, range of motion, and physical activity levels by consumption of a water-soluble egg membrane hydrolyzate. J. Med. Food., 2015, 18:1042-1048.

【要旨】

  加水分解卵殻膜摂取が関節機能、関節可動域、身体活動度にどのような影響を及ぼすかについて、慢性的な痛みを有する25名の健常米国人を対象とした無作為化二重盲検クロスオーバー比較試験を実施した。被験者を2群に分け、加水分解卵殻膜(450 mg/日)およびプラセボを4週間摂取させ、関節可動域、痛み、日常生活動作に及ぼす影響について評価した。その結果、加水分解卵殻膜の摂取により首、脊椎、腰、膝の関節可動域に改善が見られ、とくに首、右膝、効き肩で有意に改善した。また、身体活動度が有意に高くなり、日常生活動作についても改善が見られた。サブグループ解析の結果、冬季に加水分解卵殻膜摂取をした群においては、摂取5日目から下部の腰痛が有意に改善した。以上の結果より、加水分解卵殻膜の継続摂取は、関節機能や日常生活動作の改善、身体活動の増強効果が示唆された。

6.がん

文献No.87
食事パターンは小児がん患者の体重増加および早期死亡と関連する(コホート研究)

Eunjin S et al., Association of dietary patterns with overweight risk and all-cause mortality in children with cancer, Nutr. Res. Pract., 2017, 11(6):492?499.

【要旨】

  肥満は、小児がんの健康状態および死亡率に影響を及ぼす主要因と認識されている。しかし、個々の栄養素または食物と小児がん患者の肥満との関係についての報告はあるが、全般的な食事の質と肥満あるいは死亡率との関連性はまだ評価されていない。そこで本研究では、小児がん患者の食事パターンによる過体重リスクと全死亡原因との間の相関性を調べた。
  ソウル大学病院の小児がん病棟に入院した130人の小児のうち、国際小児がん分類基準に基づいてがんと診断された83人が試験対象に選ばれた。24ヶ月間にわたり肥満と死亡との関係を追跡調査した。小児がん群で朝食、昼食、夕食3日間にわたって摂取したすべての食品に関するデータを収集した。
  主成分分析を用いて、「魚、卵、肉、果物&野菜」、「白米とフライドチキン」、「スパイシーで、揚げた肉と魚」という3つの異なる食習慣パターンが29の食物群から得られた。三分位での比較では、「スパイシーで、揚げた肉と魚」の食事パターンは、最低分位に比べ最高分位はベースライン時でOR = 4.396(95%CI = 1.111-17.385、P for trend = 0.023)および6カ月後のOR = 4.088 (95%CI = 1.122-14.896、P for trend = 0.025)で、過体重リスクと食事パターンとは正の相関があった。これは、全死亡リスク(HR = 5.124、95%CI = 1.080-24.320、P for trend = 0.042)でも同様であった。「魚、卵、肉、果物&野菜」の食事パターンは、24ヶ月後の過体重リスクが低かった(OR = 0.157、95%CI = 0.046-0.982、P for trend = 0.084)。
  食事パターンが小児がん患者の体重増加および早期死亡と関連する可能性が示唆された。

文献No.60
コリンの摂取量が多いと肝がんリスクが低下(症例対照研究)

Zhou RF et al., Higher dietary intakes of choline and betaine are associated with a lower risk of primary liver cancer: a case-control study. Sci. Rep. 2017 7(1):679. doi: 10.1038/s41598-017-00773-w.

【要旨】

  コリン、ベタイン、メチオニンの摂取と原発性肝癌(PLC)リスクの関連性を検討した症例対照研究。症例は中国広州の病院からPLC患者644人(男:女=559:85)、対照は広州市の食事健康調査参加者から年齢と性別が一致する健常者644名を抽出した。食事調査には食事摂取頻度調査票(FFQ)を用いた。調査の結果、コリンの摂取源は卵が最も多く(21,5%)、次いで豚バラ肉(13.0%)、赤身肉(10.8%)であった。総コリン摂取量および総ベタイン摂取量を3分位に分け、摂取量の最も少ない群のオッズ比を1とした。条件付きロジスティック回帰分析の結果、総コリン摂取量の最も多い群ではオッズ比0.34(95%CI:0.24-0.49;P-trend<0.001)、総ベタイン摂取量の最も多い群ではオッズ比0.67(95%CI:0.48-0.93;P-trend<0.011)であり、PLCリスクに有意な負の相関がみられた。メチオニン摂取量との間には有意な相関はなかった。また、コリン組成別に解析した結果、遊離コリン、グリセロホスファチジルコリン、ホスホコリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンはPLCリスクと有意な負の相関がみられた(P-trend<0.05)。コリンは葉酸と共通の代謝経路を持つため相互作用が考えられるが、葉酸摂取量によりPLCリスクとの相関に有意な違いはなかった(P-interactions: 0.488-0.890)。
  以上の結果より、コリンおよびベタインの摂取はPLCリスクを低下させる可能性が示唆された。

文献No.45
タンパク質の種類と乳がんリスクの関係(メタアナリシス)

Jing Wu et al., Dietary protein sources and incidence of breast cancer: a dose-response meta-analysis of prospective studies. Nutrients, 2016, 8: 730

【要旨】

  タンパク質の種類による乳癌リスクの違いをメタ分析により評価した。2015年までに行われた46件の前向きコホート研究を解析に用いた。各タンパク質源において、摂取量最小群と最多群との間で相対リスク(RR)を求めた。その結果、加工肉ではRR=1.07(95%Cl: 1.01-1.14)で摂取量と乳癌リスクとの間に軽度ではあるが正の相関が認められた。一方、大豆製品ではRR=0.92(95%Cl: 0.84-1.00)、スキムミルクでは0.93(95%Cl: 0.85-1.00)、ヨーグルトでは0.90(95%Cl: 0.82-1.00)であり、いずれも乳癌リスクと負の相関関係にあった。同様の結果が用量依存的にも得られた。卵については、RR=1.04(95%Cl: 0.98-1.11)であり、乳癌リスクとの相関は無いことが示された。その他、鶏肉、魚、豆類、ナッツの摂取量も乳癌のリスクと相関は無かった。

文献No.44
卵摂取量と前立腺がんに相関無し(コホート研究)

Wilson KM et al., Meat, fish, poultry, and egg intake at diagnosis and risk of prostate cancer progression. Cancer Prev. Res. (Phila), 2016, pii: canprevres.0070.2016.

【要旨】

  赤身肉、加工赤身肉、未加工赤身肉、鶏肉、魚肉、卵の摂取と前立腺がんの再発の関係を調査する目的で、2003年から2010年の間に前立腺がんのため前立腺全摘出手術を受けた971人の男性を対象に前向き研究を行った。がんの進行度はグリソンスコア※を用いて評価した。摂取量によって4分位した結果、ハイグレード(スコア7以上)のがんリスクは、赤身肉の最低摂取量群と比較して最高摂取量群のオッズ比は1.66で、軽度な相関が認められた。進行性がんリスクについては、十分に焼いた赤身肉でのオッズ比は1.74で、相関があった。ハイグレードのがんリスクおよび進行性がんリスクと卵の摂取に相関はなかった(それぞれp=0.28およびp=0.16)。また、卵の摂取量が多い群(上位10%、≧42g/日)では、がんの再発リスクがわずかに高かったが有意な相関は認められなかった(p=0.11)。
以上より、卵の摂取とハイグレードのがんリスク、進行性の前立腺がんリスクやがんの再発リスクに関連は認められなかった。
※グリソンスコア…がんの悪性度を判断するために用いられる評価指標
(スコア6以下:比較的進行の遅い、スコア7:中程度の悪性度、スコア8以上:悪性度が高い)

文献No.34
卵摂取と非ホジキンリンパ腫のリスクは相関が無い(メタアナリシス)

Dong Y et al., Lack of association of poultry and eggs intake with risk of non-Hodgkin lymphoma: a meta-analysis of observational studies. Eur. J. Cancer Care, 2016,
doi: 10.1111/ecc.12546

【要旨】

  家禽類や卵の摂取と非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin lymphoma, NHL)のリスクとの関係を明らかにするため、メタアナリシスを行った。NHLとはリンパ組織に発生する悪性腫瘍であり、家禽類や卵の摂取と関連があることが報告されている。文献調査の結果、9報の症例対照研究と3報の前向きコホート研究より、合計11,271名のNHL患者が抽出された。NHLの相対リスクは家禽類の摂取量が多い群と低い群との間で比較すると、1.04 (95%CI: 0.86-1.27 p, heterogeneity <.001, I2 = 84.0%)、卵の摂取量が多い群と低い群との間では1.15 (95%CI: 0.87-1.51, p, heterogeneity <.001, I2 = 85.3%) であり、有意な相関は見られなかった。また、NHLのサブタイプ別にみても、有意な相関はなかった。以上の結果から、家禽および卵の摂取はNHLのリスクと相関が無いことが示唆された。

7.卵アレルギー

文献No.203
乳児期初期の食事の多様性は、腸内細菌の多様性を高め、アレルギー性疾患高リスク乳児の
卵アレルギーを予防する

Bo Ra Lee. et al., Dietary Diversity during Early Infancy Increases Microbial Diversity and Prevents Egg Allergy in High-Risk Infants. Immune Netw. 2021, 22(2): e17.

【要旨】

 著者らは乳幼児の食事の多様性(DD)と腸内細菌の多様性および卵アレルギー(HEA)の発症との関連を調査することを目的とした。
 アレルギー性疾患の家族歴に基づいて高リスク群68人、対照群32人の乳児を登録した。すべての乳児について出生から生後12か月まで追跡調査を行った。乳児の食事データはWHOの調査表によるDD、食品群の多様性(FGD)、および食物アレルゲンの多様性(FAD)の3つの指標を用いて評価した。腸内細菌叢のプロファイルは糞便サンプルの16SrRNAシーケンスで、サイトカインの発現はリアルタイムPCRによって評価した。
 HEA発症のリスクは、高リスク群では生後3ヶ月および4ヶ月時点でDDスコアが高いことと関連していたが、対照群では関連しなかった。高リスク群において、Chao1index*1の上昇は、生後3、4および5か月時点での高DDスコアと関連しており、IL-4、IL-5、IL-6およびIL-8の遺伝子発現はDDスコアが高い乳児に比べ、低い乳児で高かった。さらに、IL-13の遺伝子発現は、高リスク群のうちFADスコアが高い乳児で低下した。
  生後6か月以内にDDを高めると、腸内細菌の多様性が高まり、アレルギー性疾患の家族歴をもつ乳児のHEAの発症を抑える可能性が示された。

*1 Chao1index:腸内の細菌構成の多様性を示す指数。

文献No.200
日本人小児における経口負荷試験後の卵の再導入

Hiroki Masumi et al., Egg Reintroduction Following Oral Food Challenge in Japanese Children. Front Allergy. 2021;2: Article 618713. doi: 10.3389/falgy.2021.618713.

【要旨】

 経口負荷試験(OFC)は食物アレルギーの診断において最も信頼できる方法である。しかし、OFC陰性後の長期的な食習慣についてのデータは少なく、アレルギー患者の診療に際しての課題となっている。本研究は、OFCから数年後に、卵を再び食事に導入することができた人の割合を調査することを目的とした。研究対象者は、20分間ゆでた卵1個を用いたOFCで陰性となった0~6歳児で、初回のOFCから1~3年後の2012年1月~2017年3月に実施した。
 合計72名が解析対象者となり、そのうち52名(72.2%)が男性、年齢の中央値(範囲)は20ヶ月(16-32.3)で、初回OFC時の年齢の中央値(範囲)は15ヶ月(12.8-23.3)であった。62例(86.1%)で卵が再導入されたが,10例(13.9%)では食事の変更を行わなかった。
 再導入を行わなかった群では、OFC前後での介護者の不安比率(OFC後の不安スコア/OFC前の不安スコア)が0.2以上(全体中央値より高値)の調整オッズ比(OR,[95%信頼区間])は9.4[1.0-86] ,P =0.04であり、OFC後の不安が大きかった。また、OFC後のアレルギー発症のORは2.2 [0. 45-11],P =0.34、初回OFCが生後15か月以上でのORは3.2(0.54-19),P =0.2、卵によるアナフィラキシー既往のORは0.17(0.02-1.5),P =0.11であった。
 ほとんどの症例において OFC 後に卵を再導入していた。しかし、再導入が行われなかった症例もあり、OFC後の介護者の不安の大きさと相関していた。介護者の不安が強い場合は、OFC後に家庭で卵を再導入する際に心理的介入や食事指導を行い、外来での長期経過観察を行うことが必要である。



文献No.199
プロテアーゼ消化卵白はマウスに経口免疫寛容をもたらし、皮下曝露によるIgE産生を誘起しない

Ayako Yamada et al., Protease-digested egg-white products induce oral tolerance in mice but elicit little IgE production upon epicutaneous exposure. Allergol. Int,, 2022, 18; S1323-8930(22)00038-7.

【要旨】

 卵アレルギーでは、早期の摂取により耐性を獲得するが、特に湿疹状態の表皮への接触でIgE感作が促される。本研究では、卵アレルギーの安全かつ効果的な一次予防を目指し、卵白をペプシン、サーモアーゼPC10F、プロテアーゼP3SDおよびプロチンSD-AY10の4種のプロテアーゼによって消化し、以下の3試験を行った。

  1. ① IgE感作を防止する経口寛容の誘導:3週齢のBALB/c雌マウスにそれぞれ卵白、各種プロテアーゼ消化卵白および蒸留水(対照)を胃内投与した。その後ミョウバンを用いてオボアルブミン(OVA)およびオボムコイド(OVM)を腹腔内注射し、血清中のOVAおよびOVM特異的IgEの力価を測定した。ペプシン消化卵白(PDEW)およびサーモアーゼPC10F消化卵白(TDEW)では、OVA並びにOVMに特異的なIgEの産生はいずれも有意に抑制された。(PDEW群 対 対照群:OVA特異的IgE P <0.05、OVM特異的IgE P <0.01、TDEW群 対 対照群:OVA並びにOVM特異的IgE共にP <0.01)
  2. ② IgE感作マウスでもアレルギー反応を予防できるIgEとの弱度の結合: 6週齢のマウスをOVAおよびOVMで感作させ、卵白、PDEW、TDEWあるいは蒸留水を腹腔内投与した後に直腸温を測定した。PDEW、TDEWのどちらもOVA/OVM感作マウスの体温低下(アナフィラキシー)を引き起こさなかった。
  3. ③ 炎症を引き起こした皮膚と接触しても皮膚上でのIgE感作が最低:テープストリッピングで角層を除去した皮膚に卵白、PDEW、TDEあるいは蒸留水を3日/週の頻度で3週間塗布し、血清中のOVAおよびOVM特異的IgE力価を測定した。PDEWまたはTDEWを表皮暴露されたマウスでは、卵白で表皮暴露されたマウスよりも血清中のOVAおよびOVM特異的IgE濃度が有意に低かった。(いずれもP <0.0001)

 以上の結果より、ペプシンまたはサーモアーゼPC10Fで消化した卵白は、卵アレルギーの一次予防のための早期導入に適している可能性が示された。

文献No.129
加熱変性卵による卵アレルギーの治療方法(症例対照研究)

Gotesdyner L et al., A structured graduated protocol with heat denatured eggs in the treatment of egg allergy. Pediatr Allergy Immunol. 2019, 30(8):824-832.

【要旨】

 卵アレルギーを持つほとんどの小児は、よく加熱した卵焼き(熱変性卵)を食べることができる。しかし、熱変性卵を用いた卵アレルギーの治療方法に関するコンセンサスは見当たらない。
 本研究では、熱変性卵を段階的に食べさせる治療方法(SGEP)の有効性と安全性を評価するために、SGEPで治療された2歳未満の卵アレルギー児の子どものグループと、卵を全く食べないように処置された小児のグループ間での症例対象研究で検討した。
 月齢中央値16ヵ月の39名の卵アレルギー児をSGEPにて治療し、39ヵ月まで追跡調査した。対照群として、少なくとも2歳までは厳密に卵を除去していた卵アレルギー児80名について追跡調査した。
 卵アレルギー治癒した月齢中央値は対照群では78ヵ月(95%CI: 53-102ヵ月)であったのに対し、SGEP治療群では24ヵ月(95%CI: 19.5- 28.5ヵ月)で有意に短かった(P <0.001)。また、試験終了時に治療群の82%は軽く調理された卵に耐性があったが、対照群では54%であった(P = 0.001)。
 熱変性卵を段階的に食べさせる治療方法は、卵を除去する治療方法と比較し、卵アレルギーが早期治癒することがわかった。

文献No.113
乳幼児の卵摂取時期と卵アレルギーの発症の関係(メタアナリシス)

Al-Saud B et al., Early introduction of egg and the development of egg allergy in children: a systematic review and meta-analysis. Int Arch Allergy Immunol. 2018:1-10. doi: 10.1159/000492131.

【要旨】

  乳幼児にいつから卵を摂取させるかは、卵アレルギーの観点から重要な問題点である。卵の摂取時期を遅らせることは、卵アレルギー発症抑制につながるとは言えないのではないかと、近年の研究では報告され始めている。本研究は、卵アレルギーの発症に及ぼす卵の早期摂取の効果に関する既存の文献をレビューした。
  生後3?6ヵ月の「卵摂取」と「卵摂取なし」を比較したランダム化比較試験(RCT)のみを解析対象とし、卵アレルギー発症の有無を評価した。
  解析対象とした416報の論文のうち、6つのRCT(合計3,032人)を採用した。乳幼児期に卵を早期に摂取し始めた場合は、早期の卵摂取なしと比較して、卵アレルギー発症リスクを有意に抑えた(RR=0.60、95%CI:0.44-0.82、p=0.002、I2=23%)。
  9.3%の卵アレルギー発症率のある集団においては、卵を早期に摂取することによって、絶対リスクが1000人当たり37件低下した (95%CI:17?52) 。また4g/週以下の卵タンパク質の摂取は、4g/週以上の摂取量よりも大きな予防効果を示した。
  本研究により、卵の早期摂取と卵アレルギーのリスク低下との関連が示された。さらに、卵タンパク質の種類と摂取量が、卵アレルギー発症リスク低下につながる重要な役割を果たすようである。

文献No.79
家の中の鶏卵アレルゲンは卵の摂取後に増加する

Trendelenburg V et al., Hen’s egg allergen in house and bed dust is significantly increased after hen’s egg consumption ? a pilot study, Allergy, 2017, doi: 10.1111/all.13303

【要旨】

  食物アレルゲンへの暴露は皮膚感作を引き起こす要因と考えられている。ヨーロッパにおいて鶏卵アレルギーは幼児が最も罹ることの多い食物アレルギーである。鶏卵は日々の食生活の中で重要な役割を果たす食品であるため、家の中で鶏卵アレルゲンに多く曝されると皮膚感作のリスク要因となりうる。しかし、家のどの箇所に鶏卵アレルゲンが存在するのかはこれまでに示されていない。そこで、パイロット研究として、鶏卵アレルゲンが家と寝室の塵中に検出されるのか、また、鶏卵の消費に伴って鶏卵アレルゲン濃度が増加するかどうかを調査した。
  子どもを持つ8世帯(ドイツ、ベルリン)に対してアンケート(家族構成、部屋の配置、鶏卵摂取頻度)を行った上で、特殊な掃除機を用いて食事を摂る場所および子ども部屋の寝具の塵を採取した。さらに、鶏卵2個を用いたスクランブルエッグを調理・摂取した48時間後についても、塵を採取した。塵試料からタンパク質を抽出し、ELISA法により鶏卵タンパク質(オボアルブミン、オボムコイド)を定量した。
  全ての世帯で少なくとも1週間に1~2回、5世帯では少なくとも3回鶏卵を摂取していた。検出された塵1 g中の鶏卵タンパク質は、食事をとる場所では13.1μgであったが、スクランブルエッグの消費後には214.0μg(p<0.05)であった。子供部屋の寝具では12.9μgであったが、スクランブルエッグの消費後には50.34μg(p<0.05)となった。検出されたタンパク質濃度は、食事を摂る場所と寝室の位置関係に関連していた。
  鶏卵の消費に伴って食事を摂る場所と寝室の鶏卵アレルゲン濃度が増加することが分かったが、今後、それらが皮膚感作に影響を及ぼすのか検討する必要がある。

文献No.47
離乳期早期の卵摂取が卵アレルギーを予防(介入試験)

Natsume O et al., Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomized double-blind, placebo-controlled trial. Lancet, 2016, doi: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(16)31418-0

【要旨】

  離乳期の早期から卵を摂取することで1歳時点における卵アレルギーを予防できるかどうかを検証するため、日本人を対象としたRCTを実施した。
食物アレルギー発症リスクが高い、アトピー性皮膚炎の乳児(4-5ヵ月齢)121人を対象とし2群に分け、試験食群(60人)には加熱全卵粉末を6-9ヵ月では50mg/日、9-12ヵ月では250 mg/日を、対照食群(61人)には全期間を通しカボチャ粉末を摂取させた。介入期間を終えた生後12ヵ月の時点における卵アレルギー発症率を評価した結果、対照食群では61名中23人がアレルギーを発症したが、試験食群では60人中5人が発症し、発症率が有意に低下した(リスク比RR=0.221, 95%信頼区間0.090-0.543, p=0.0001)。介入期間中に入院した者の割合は試験食群で10%、対照食群で0%であり、試験食群で有意に高かった(p=0.022)。有害事象の発症者の割合は、試験食群で15%、対照食群で18%であり、有意差は無かった。
この研究の結果、卵アレルギーの発症リスクが高いアトピー性皮膚炎の乳児に対して、加熱卵を早期に少量ずつ継続して摂取することで、安全に予防できることが示唆された。この研究は、食物アレルギーに起因するアレルギー発症を抑える実用的対応策を開発したことになる。

文献No.42
乳児期早期の卵摂取がアレルギー発症リスクを低下(メタアナリシス)

Despo I et al., Timing of allergenic food introduction to the infant diet and risk of allergic or autoimmune disease. A systematic review and meta-analysis. JAMA. 2016, 316:1181-1192.

【要旨】

  乳児期にアレルゲン食品を摂取させると食物アレルギーの発症リスクにどのような影響があるのかを検証するため、メタ分析を実施した。その結果、生後4~6ヵ月に卵を摂取すると、卵アレルギーの発症リスクが有意に低下することが示された(n=1,915、RR:0.56、95%CI:0.36~0.87、P=0.009)。ピーナッツアレルギーは、生後4~11ヵ月にピーナッツを摂取することで発症リスクが有意に低下した(n=1,550、RR:0.29、95%CI:0.11~0.74、P=0.009)。また、これらの早期摂取は、他の食物アレルギーの発症には影響を及ぼさないことも示された。これらの結果から、乳児における早期の卵およびピーナッツの摂取は、それぞれの食物アレルギー発症リスクを低下させる可能性が示された。

文献No.17
鶏卵アレルギー患者におけるインフルエンザワクチンの安全性(介入研究)

Turner P J et al., Safety of live attenuated influenza vaccine in young people with egg allergy: multicenter prospective cohort study. BMJ., 2015, 351:h6291, doi: 10.1136/bmj.h6291.

【要旨】

  卵タンパク質を含むインフルエンザワクチンの安全性を確認するため、卵アレルギーを持つ779人の若者(2~18歳)に対してインフルエンザワクチンを接種する介入研究を行った。接種72時間以内の反応を調査したところ、全身性のアレルギー反応は起こらなかったが、9人で30分以内に鼻炎などの軽度な症状が報告された。また、ワクチン接種後2~72時間以内に221人が息苦しさや鼻水などの遅延型の症状を呈し、62人で72時間以内に下気道症状の兆候が報告され、両親の報告ではその中の29人で息苦しそうな状態であった。しかし、病院へ搬送された者はなく、ワクチン接種4週間後においても呼吸器症状を訴えるものは増加しなかった。
  以上の結果から、卵タンパク質を含むインフルエンザワクチンを卵アレルギーの若者に接種しても、全身性のアレルギー反応を起こすリスクは低いことがわかった。また、喘息をコントロールすることによって、ワクチンの接種が可能であることが示唆された。

文献No.15
鶏卵アレルギー経口負荷試験により6歳までに73%が免疫を獲得

Ohtani K et al., Natural history of immediate-type hen’s egg allergy in Japanese. Allergol. Int., 2015, http://dx.doi.org/10.1016/j.alit.2015.10.005

【要旨】

  鶏卵アレルギーで経口負荷試験 (OFC) を受けた2005年生まれの226人の小児を対象に、6歳までの鶏卵に対する免疫取得に至る自然経過について行われた後ろ向き研究である。グループⅠ(3歳までに免疫獲得、n = 66)、グループⅡ(3-5歳までに獲得、n = 98)、グループⅢ(6歳時に獲得、n = 62)に分け比較した結果、グループⅢは、グループⅠと比較して有意に高い鶏卵関連のアナフィラキシー反応や合併症を経験した。また、気管支喘息、アトピー性皮膚炎の有病率も有意に高かった。加えて、卵白とオボムコイドの特異的 IgE値が高レベルを持続した。今回の研究では、鶏卵アレルギーを持つ小児患者のうち6歳までに73%が免疫を獲得していた。

8.栄養、吸収

文献No.202
ヒトの栄養のためのn-3系長鎖多価不飽和脂肪酸の代替供給源としての家禽肉とタマゴ

Alice Cartoni Mancinelli et al., Poultry Meat and Eggs as an Alternative Source of n-3 Long-Chain Polyunsaturated Fatty Acids for Human Nutrition. Nutrients, 2022, 14, 1969

【要旨】

 ヒトの健康に対するn-3系長鎖多価不飽和脂肪酸(n-3 LC-PUFA)の有益効果は広く知られている。ヒトはn-3LC-PUFAを体内で十分合成できないため、食事からある程度摂取する必要がある。しかし、殆どの欧米人の食事では、食習慣故にn-6/n-3比のバランスが取れておらず、n-3 LCPUFAに富む魚の摂取量は世界的な推奨値を満たしていない(世界全体での不足量は~347,956 トン/年)。それ故に、新規かつ持続性のn-3 LC-PUFA源を見出す必要がある。家禽製品はその生理的特性と肉およびタマゴとして広く消費されていることから、ヒトへn-3 LCPUFAを供給できる。
 本研究は、家禽製品中のn-3 LC-PUFA含量を高め保持するため、飼育並びに生産後に適用すべき主な対策についての総括を目的とする。この対策には、αーリノレン酸(ALA)あるいはLC-PUFAの補給、あるいはLA(リノール酸)/ALA比と抗酸化物の濃度を改善してn-3 LC-PUFAを高めることが含まれる。さらに、遺伝子型、飼育系、輸送ならびに調理方法が家禽製品のLC-PUFAに影響する。生産系の全てについて多面的観点から対応することによって。家禽製品中のLC-PUFAの強化と保存ができよう。

文献No.192
高齢者のタンパク質摂取量を増加させるための食品基盤の介入試験:タマゴ摂取への挑戦と促進(英国)

Emmy Van den Heuvel et al., Towards a Food-Based Intervention to Increase Protein Intakes in Older Adults: Challenges to and Facilitators of Egg Consumption. Nutrients, 2018, 10, 1409.

【要旨】

 タンパク質の摂取は健康維持に重要である。タマゴは高タンパク質食品として、タンパク質が不足しやすい高齢者にとって魅力的な食品で、タンパク質の摂取状況を改善する可能性を秘めている。しかしながら、今日まで高齢者のタマゴの摂取量やタマゴの摂取への挑戦あるいは促進について調査した介入研究はほとんどない。
 本研究は、タマゴの摂取に対するいくつかの挑戦と促進の相対的重要性に焦点を当て、55歳以上の英国の高齢者1,082名を対象に、身体基礎情報および生活習慣についての郵便アンケートによる横断研究で、分析に適した230名(女性110名、年齢55~80+歳)の回答結果を解析したものである。
 その結果、タマゴの摂取量は1〜89個/月で、平均±標準偏差は18±13個/月であった。さらに主成分分析でタマゴを摂取する/しない理由を抽出して23項目について主成分解析を行ったところ、習慣的なタマゴの摂取は10項目と関係があった(最小のβ = 0.14, P = 0.04)、加えてタマゴの摂取量はタンパク質摂取量(β = 0.24, P < 0.01)、年齢(β = -0.16, P = 0.02)、BMI(β = 0.14, P= 0.03)とも関係があることが明らかになった。
 高齢者でのタマゴの摂取増加策としては、好み、風味および多様性の改善、毎日食べる食品としての推奨、タマゴを食べる人と食べない人の既成概念の低減、そして加齢の食品の摂取への影響を認識している人々への卵の推奨に焦点を当てなければならない。一方で、意外なことにコストパフォーマンスの強調は逆効果になる可能性が認められた。今後は高齢者のタンパク質摂取の改善に向けて、タマゴの摂取を促す戦略の評価が必要となる。

文献No.189
南アフリカの高リスク周産期クリニックに通う妊婦のコリン摂取量並びにタマゴおよび乳製品摂取量の関連:NuEMI研究

Liska Robb et al.,Choline intake and associations with egg and dairy consumption among pregnant women attending a high-risk antenatal clinic in South Africa: the NuEMI study. BMC Pregnancy Childbirth. 2021, 21(1):833.

【要旨】

 妊娠中でのコリン摂取の重要性は知られているが、摂取量は十分ではない例が多い。南アフリカのブルームフォンテーンの高リスク妊婦クリニックに通院している妊婦を対象に、総コリン摂取量、主要なコリン供給源およびコリン摂取量とタマゴ・乳製品摂取量との関連を調べる横断研究を実施した。
 食事摂取データは訓練を受けた調査員が定量的食品頻度調査票(QFFQ)を用いて収集した。コリン摂取量はUSDAの一般食品コリン含有量データベース(Release 2)より算出した。変数減数選択法によるロジスティック回帰分析を用いて、タマゴおよび乳製品の摂取が目安量(AI)未満のコリン摂取と独立して関連しているかどうかを調べた。
 1日のコリン摂取量の中央値は275 mg(四分位範囲185 mg - 387 mg)であった(n= 681)。参加者のほとんど(84.7%)でコリン摂取量のAIである450 mg/日に満たなかった。コリンの主な摂取源は肉と肉製品、穀類、タマゴ、乳製品であり、その中でも全脂乳、トウモロコシ粥、黒パン、揚げジャガイモおよび揚げパン(フェトクック)の寄与が大きかった。コリンの摂取目安量不足は、タマゴおよび乳製品の摂取量が少ないことと有意に関連していた(それぞれP < 0.0001およびP= 0.0002)。
 本研究に参加したほとんどの妊婦で、コリン摂取量がAIを下回っていた。妊婦を対象とした公衆衛生メッセージとして、タマゴや乳製品などコリン摂取に大きく寄与する食品の摂取を促すことが推奨される。

文献No.184
タマゴを摂取する食事パターンは栄養推奨量を満たし、食事の質の向上と栄養不足の解消に役立つ
(観察研究)

Yanny Papanikolau et al., Patterns of Egg Consumption Can Help Contribute to Nutrient Recommendations and Are Associated with Diet Quality and Shortfall Nutrient Intakes. Nutrients, 2021, 13(11): 4094.

【要旨】

 米国人については、典型的な食生活パターンでのタマゴの摂取が食事の質にどのような影響を及ぼしているのかについての情報は限定的である。本研究は、2001年から2016年の米国健康・栄養調査(NHANES)と食事の質の指標であるHealthy Eating Index2015(HEI) を用いて、卵と栄養素の摂取量の関係を調査した。被験者を卵摂取群(45,791人)と卵非摂取群(20,003人)に分け、24時間思い出し法により栄養摂取量と栄養充足度の違いを評価した。
 タマゴの摂取にはいくつかのパターンがあり、タマゴ2個のパターンはタマゴの摂取なしより食事の質が優れていた(P<0.001)。殆んどのタマゴ摂取パターンでHEI値は同等であったが、タマゴ2個のパターンでは低かった。タマゴの摂取は非摂取と比較して、総タンパク質食品、海産物および植物性タンパク質、野菜、果物、穀類および乳製品の摂取が多く、精製穀類や添加された砂糖の摂取が少なく、食事の質の改善に寄与したが、一つの食品が健康的な食事パターンに寄与するのではなかった。タマゴの摂取で、食物繊維、カルシウム、マグネシウム、カリウム、コリン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンDおよびビタミンEの摂取量が有意に高かった。そして、カルシウム、鉄、マグネシウム、カリウム、コリン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEの推定平均必要量(EAR)または摂取推奨量(AI)を下回る人の割合が有意に少なかった。
 同様に、カリウムとコリンの摂取量が推奨量以上の割合はタマゴ摂取者で非摂取者より多かった。卵摂取者では、コリンの摂取AIは34.4%であるのに対し、非摂取者は4.3%であった。
 以上の結果から、タマゴおよびタマゴを含む食品は他の食品とバランスよく摂取することで、健康的な食事パターンの重要な構成成分となることが示された。

文献No.182
卵と飽和脂肪酸を含む朝食は、健康な成人の血糖値に急激な変化を起こさない:無作為化部分
クロスオーバー試験

CS. Dhanasekara et al., Egg and saturated fat containing breakfasts have no acute effect on acute glycemic control in healthy adults: a randomized partial crossover trial. Nutr Diabetes, 2021, 11(1), 34.

【要旨】

 卵の摂取量が多いと血糖制御能の不全を来すと見なされている。タマゴの消費が広がっていることから、この相関の原因を明らかにすることが必要である。本研究では、卵の摂取が同時に摂取する飽和脂肪酸の有無に関わらず、血糖値を急激に変化させるかどうかを検証した。
 被験者48名(米国人男性46%、25.8±7.7歳、BMI 25.7±4.6 kg/m2、卵1個以上/週)を対象に、無作為化部分クロスオーバー単回摂取試験を実施した。朝食の主な成分に基づいて次の4被検食、すなわち卵群(EB)、飽和脂肪酸群(SB)、卵卵と飽和脂肪酸群(ES)および対照食群(穀類ベースの朝食、CB)について、各被験者は7日間の間隔をおいて2種の試験食を朝食として摂取した。試験は7日間の間隔をおいて2度行われ、6回の採血(朝食前、朝食後30分、60分、90分、120分および180分)を行い、血糖値とインスリンの濃度を測定した。 その結果、EB、SBおよびESのいずれの食事を摂取しても、対照食群であるCBと比較して、グルコースやインスリンのAUC(血中濃度-時間曲線下面積)に有意な差は認められなかった(P >0.05)。
 健康な成人においては、飽和脂肪酸の有無にかかわらず、卵を含む朝食を短期間摂取しても血糖値に悪影響は認められなかった。本研究は、卵の継続的な摂取が安全であることを示唆するデータであり、今後、飽和脂肪の有無での卵の長期摂取についての評価が望まれる。

文献No.181
中国人成人における卵の摂取と認知機能の関連:長期的効果と鉄の摂取による影響

Layan Sukik et al., Association between egg consumption and cognitive function among Chinese adults: long term effect and interaction effect of iron intake. Br J Nutr. 2021 Nov 5:1-26. doi: 10.1017/S0007114521004402

【要旨】

 卵の摂取と認知機能との関連に関しては様々な議論がある。本研究では、中国人成人における卵の摂取と認知機能の関連を評価することを目的とした。また、鉄の摂取との関連性についても評価した。
 本研究は、1991年から2006年までの「中国健康栄養調査(CHNS)」のデータを適用し、中国13省(都市部・農村部の両方を含む)に住む55歳以上の男女4,852名(男性2,309名、女性2,543名)を対象とした。認知機能の評価*1は、1997年、2000年、2004年および2006年に実施した。卵と鉄の摂取量は、連続する3日間について24時間思い出し法により調査した。解析は多変量混合線形回帰とロジスティック回帰を用いて行った。
 卵の摂取は包括的な認知機能と正の相関を示した。十分に調整されたモデル(モデル5)*2では、卵の摂取量の四分位別の認知機能の回帰係数(95%CI)は、それぞれ0、0.11(-0.28-0.51)、0.79(0.36-1.22)および0.92(0.43-1.41)であった。記憶力の評価では、卵の摂取量が少ない人と比較して、多い人では「記憶力が悪い」および「記憶力が衰えた」と答えた人の割合が低かった(オッズ比[95%CI]:0.93[0.74-1.19]および0.84[0.69-1.02])。また、鉄の摂取と卵の摂取との間には有意な相関があり(P = 0.011)、卵の摂取と認知機能との相関は、鉄の摂取量が少ない人で多い人よりも強かった。また、性別も卵の摂取と認知機能の関連に対し影響を与えており、女性でその関連性が認められたが(P=0.025)、男性には認められなかった。
 以上より、中国人成人において、卵の摂取と認知機能に正の関係にあることがわかった。また、卵の摂取と鉄の摂取との間には有意な相互作用があり、鉄の摂取が少ない人において、卵の摂取が認知機能の向上と関連することがわかった。

*1 認知機能の評価:2つの指標で評価した。①認知機能:客観的な評価。全体的な認知機能を「Telephone Interview for Cognitive Status-Modified」で評価した。/②記憶力:主観的な評価。「記憶力はどうか」、「過去12か月間で記憶力はどう変化したか」に対し、自己申告で回答。

*2 完全に調整されたモデル(モデル5):年齢、性別、エネルギー摂取量、脂肪の摂取量、喫煙、飲酒、収入、都市性、教育、身体活動、食事パターン、BMI、血圧、認知機能テストに1回しか参加していない人を除外。

文献No.177
高齢者の死亡率とアポリポタンパク質Eの遺伝子型並びに肉、魚、卵の摂取量との関連:中国における
縦断研究

X Jin, et al., Apolipoprotein E Genotype, Meat, Fish, and Egg Intake in Relation to Mortality Among Older Adults A Longitudinal Analysis in China. Front Med (Lausanne). 2021 20, 8:697389.

【要旨】

 アポリポタンパク質E(APOE)の遺伝子型は食事パターンと有意に関連することが報告されており、動物性タンパク質食品の健康への影響に対してAPOE遺伝子型が関連する可能性が考えられる。本研究では、APOE遺伝子型と肉、魚および卵の摂取が死亡率に及ぼす影響の交互作用を検討することを目的とした。
 人口ベースのコホート研究である中国での縦断健康長寿研究(CLHLS:Chinese Longitudinal Healthy Longevity Study)からの8,506人の高齢者(平均81.7歳、女性52.3%)を対象とした。ベースライン時に肉、魚、卵の摂取頻度を3点式の質問で評価し、平均5.46年の追跡調査を行った。Cox回帰法を用いて肉、魚、卵の摂取頻度による総死亡のハザード比を算出し、APOE遺伝子型と性別で層別解析を行った。
 多変量調整モデルにおいて、肉および魚の摂取量は全死因死亡率と関連した(高摂取vs.低摂取, 肉:HR=1.14, 95%CI:1.01-1.28、魚: HR=0.83, 95%CI:0.73-0.95)。APOE遺伝子型は、肉および魚の摂取量と有意な相互作用を示した(Ps <0.05)。また、魚類の高摂取はAPOEε4保有者でのみ死亡リスクの低下と関連していた(HR=0.74, 95%CI:0.56-0.98)。肉類の高摂取は、APOEε4非保有者でのみ、死亡リスクの上昇と有意に関連していた(HR= 1.13, 95% CI: 1.04-1.25)。この相互作用は男性でのみ認められた。卵摂取量と死亡率との間にはε4保因者、非保因者共に有意な関連は認められなかったが、層別解析では女性のAPOEε4非保有者のみ卵の摂取が低い死亡率と関連した(HR=0.87, 95%CI:0.77-0.97)。
 中国の高齢者において、卵、肉および魚の摂取量と死亡率との関連はAPOEε4保有の有無および性別によって異なることが示された。さらなる研究が必要だが、遺伝子に基づいた個別の食生活の推奨が期待できる。

※アポリポタンパク質E:リポ蛋白の主要構成成分で脂質代謝において重要な役割を果たす。APOE遺伝子型にはAPOE2(ε2)、APOE3(ε3)、APOE4(ε4)の3種類がある。

文献No.174
特殊児童の発育阻害に関連した食品群摂取量

Seyyed Mostafa Nachvak et al., Food groups intake in relation to stunting among exceptional children. BMC Pediatrics. 2020 Aug 20;20(1):394

【要旨】

 公衆衛生上の問題のひとつである発育阻害には、環境要因の中でも特に食事が大きな影響を及ぼしている。これまでに様々な食品群の摂取と発育阻害との関連が調べられてきたが、特殊児童を扱った研究は行われない。本研究では、イランの特殊児童の食品群摂取と発育阻害との関連を横断的に評価した。
 5~15歳の470人の特殊児童(精神遅滞児226人、聴覚障害児182人、視覚障害児62人)を対象に食習慣アンケート調査を実施して食事摂取量を調べた。また身長を測定し、年齢に対する身長のZスコアが-1未満の児童を発育阻害と定義した。年齢、性別、その他の食事要因を共変量として調整し、食事摂取量と発育阻害の関連性を評価した。
 児童の平均年齢は10.02±2.04歳で、50.6%の児童が発育阻害児であった。卵を適度に摂取するグループ(1〜3回/週)は、少ないグループ(1回/週未満)と比較して発育阻害の発生率が64%低かった(オッズ比OR:0.36、95%CI:0.21-0.64)。このような所見は、精神遅滞児に限定しても見られ、発育阻害の発生率は62%低かった(OR:0.38、95%CI:0.16-0.89)。さらに、乳製品の摂取量が多いグループ(>2回/日)は少ないグループ(1~2回/日)と比較して、発育阻害の発生率が50%低かった(OR:0.50、95%CI:0.29-0.87)。肉、果物、野菜などの他の食品群の摂取と発育阻害発生率との間には有意な関係は見られなかった。
 以上のことから、卵や乳製品の摂取が多いと、発育阻害の発生リスクが軽減する可能性が示唆されたが、肉、果物および野菜の摂取とは有意な関係は認められなかった。

文献No.164
アメリカ人のための食事ガイドラインで示されるたんぱく質食品オンス相当量の代謝同等性の評価:ランダム化比較試験

S Park et al., Metabolic Evaluation of the Dietary Guidelines' Ounce Equivalents of Protein Food Sources in Young Adults: A Randomized Controlled Trial. J Nutr. 2021, 15, 11190-1196.

【要旨】

 アメリカ人のための食事ガイドライン(DGA)では、消費者が様々な食品からたんぱく質の必要量を満たせるように「オンス相当量」が提示されている。しかしたんぱく質源となる食品について代謝的な同等性は立証されていない。オンス相当量のたんぱく質食品を摂取した場合の同化反応が必須アミノ酸含有量にそのまま関連するのかを検証するために介入試験を行った。
 健康な若者(12~18歳)56名を対象とし、3日間の食事制限の後に安定同位体トレーサー法を用いて8.5時間の代謝試験を行った。7種類のたんぱく質食品(牛肉、豚肉、卵、豆腐、インゲン豆、ピーナツバター、ミックスナッツ)のいずれかを摂取した後に、たんぱく質の合成および分解についてベースラインからの変化量を比較した。
 動物性たんぱく質(牛肉、豚肉および卵)を摂取した場合、植物性たんぱく質(豆腐、インゲン豆、ピーナツバターおよびミックスナッツ)の摂取よりもベースラインからの全身での正味たんぱく質バランスの増加が大きかった(P <0.01)。この改善は、すべての動物性たんぱく質においてたんぱく質合成が増加したことによるものであったが(P <0.05)、卵と豚肉では植物性たんぱく質に比べてたんぱく質分解も抑制された(P <0.001)。また、全身での同化反応の程度は食品中の必須アミノ酸含有量と相関していた(P <0.001)。
 この結果より、健康な若者ではDGAで示されているたんぱく質食品の「オンス相当量」は代謝的に同等ではないことが明らかになった。健康的な食事パターンを確立するに当たっては、食品中のたんぱく質の同化反応の重要性も考慮する必要がある。

文献No.163
朝食での卵消費量が増加すると、通常の栄養素摂取量の増加をもたらす:NHANESとUSDA CACFP School Breakfast Guidelinesを用いたモデル分析

Papanikolaou, Y.; Fulgoni, V.L., III Increasing Egg Consumption at Breakfast Is Associated with Increased Usual Nutrient Intakes: A Modeling Analysis Using NHANES and the USDA Child and Adult Care Food Program School Breakfast Guidelines. Nutrients 2021, 13, 1379.

【要旨】

 子供にとっての朝食摂取の重要性や卵の利点はよく知られているが、子供の朝食に卵を加えることの効果を調べたデータは限られている。 本研究では、日常的な朝食パターンおよびChild and Adult Care Food Program(CACFP)に準拠した学校朝食に卵を加えた場合の栄養素摂取量をモデル化した。分析には,2011年-2016年のNational Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)の食事データを用いた。NHANESの対象者は1~18歳の子供9254名、CACFPへの参加者は159名。
 通常の朝食に卵1個を追加することで、ベースライン値と比較して、総コリン、ルテインゼアキサンチン、ドコサヘキサエン酸の摂取量は20%以上増加し、パントテン酸、リボフラビン、セレン、ビタミンDの摂取量が10%以上増加した。また卵2個の追加により、朝食時のタンパク質とビタミンAの摂取量はベースライン値と比較して10%以上増加した。CACFPの学校朝食に卵を2個追加した場合の結果も同様であった。総コリンを充分に摂取できている子どもの割合は、ベースライン値の22.6%に比べて、卵1個の追加で43.6%、2個の追加で57.8%に増加した。
 これらの結果から、子供の朝食に卵を追加すれば、栄養素摂取量を増加でき、かつ、摂取量が不十分な栄養素や問題となる摂取増加を目指す公衆衛生の主導に役立つことができる。

文献No.160
妊娠第3期(後期)に母親がコリンを摂取すると乳児の情報処理速度が向上する:無作為化二重盲検介入試験

Caudill MA et al., Maternal choline supplementation during the third trimester of pregnancy improves infant information processing speed: a randomized, double‐blind, controlled feeding study. The FASEB JOURNAL. 2018, 32(4), 2172–2180.

【要旨】

 動物試験では、妊娠中に母親の食事にコリンを補給すると、生涯にわたり子の認知機能が向上することが示されているが、母親のコリン摂取の認知機能への影響を調べたヒトでの研究では、被験者の被験食品摂取状況や、コリンや他の栄養素の摂取量のコントロールが不十分なため、一貫した結果が得られていない。本研究では、被験者の食事管理を厳密に行い、コリンやその他の栄養素の摂取量をコントロールした上で,妊娠中の母親のコリン摂取が乳児の認知機能に及ぼす影響を検討した。
 妊娠第3期(後期)に入った女性を、米国で定められたコリンの1日の摂取目標量である480 mg/日(n=13)またはその約2倍量にあたる930 mg/日(n=13)のいずれかを摂取するように無作為に割り付け、出産日まで毎日摂取させた。生まれた子(n=24)を対象に、情報処理速度および視空間記憶について生後4,7,10および13か月の時点で実施した。その結果、いずれの評価時点においても反応時間の平均値は930 mg/日の群の母親から生まれた子の方が480 mg/日の群と比較して有意に速かった(P = 0.03)。さらに、480 mg/日の群では、母親のコリン摂取期間が長い子* ほど反応速度が速いことが認められた。以上の結果より、妊娠中の母親にコリンを摂取させることで、子に認知機能の向上がもたらされる可能性が示唆された。

*母親のコリン摂取期間:
コリン摂取期間は「妊娠第3期に入ってから出産するまで」なので、被験者によって摂取日数が異なっている。各群の平均妊娠期間は、480㎎/日群は40.2±0.87週、930㎎/日群は39.9±0.42週であった。

文献No.159
1日1個の卵摂取による乳幼児の発育に関する介入試験

Prado EL et al., Early Child Development Outcomes of a Randomized Trial Providing 1 Egg Per Day to Children Age 6 to 15 Months in Malawi. J. Nutr., 2020, 150(7):1933-1942.

【要旨】

 卵には、コリン、リボフラビン、ビタミンB6やB12、葉酸、亜鉛、タンパク質、DHAなど、脳の発達に重要な栄養素が豊富に含まれている。1日1個の卵を6ヶ月間にわたり摂取することが乳幼児の発達に及ぼす影響を評価した。マラウイ共和国のマンゴチ地区の農村部で実施された無作為化比較試験で、生後6~9カ月の乳幼児660名を介入群と対照群に無作為に割り付け、6か月間にわたり介入群の家庭では、家庭訪問時に卵を提供した。対照群は同じ頻度で家庭訪問を行うが、卵の提供は行わなかった。
 試験終了後、介入群と対照群では、どの発達スコアにおいても有意な差は認められなかった。しかし、運動能力の発達が遅れている子供の割合は、対照群(16.5%)と比較して、介入群(10.6%)で少なかった(発症比:0.59、95%CI:0.38-0.91)。
 主要な発達アウトカムに対して事前に指定された10の効果修飾因子のうち、7例の有意な相互作用が見つかり、世帯収入や母親の教育水準が高いといった家庭環境が整っている子供ほど介入の効果が高いという一貫したパターンが示された。
 以上の結果より、1日1個の卵の提供は、この集団全体の小児の発達には影響を及ぼさなかったが、家庭環境が整っている子供では発達面で何らかの効果が見られる可能性が示唆された。

文献No.158
現代のアメリカ人の食事パターンへの卵の排除と追加のモデル化:小児期のコリンおよびルテイン+
ゼアンキサンチンの通常の摂取量との関連性

Papanikolaou Y et al. Modeling the Removal and Addition of Eggs in the Current US Diet is Linked to Choline and Lutein + Zeaxanthin Usual Intakes in Childhood. Curr Dev Nutr. 2020, 5(1).

【要旨】

 小児期における卵摂取量の増減の栄養的影響を調べた成績は限られ、さらにコリンやルテイン+ゼアンキサンチンについての通常摂取量のデータもない。本研究は、アメリカ人についての国民健康栄養調査NHANES 2011-2014のデータを基に、6~23ヵ月齢の乳幼児 n = 130および2~18歳の小児/青年n = 980を対象に、幼少期の食事パターンに卵を追加または除去したときのコリンおよびルテイン+ゼアキサンチンの摂取量を分析した。
 幼少期の食事パターンから卵を除くと、すべての年齢グループでコリンの摂取量が減少し、コリンの摂取目安量(AI)※1を満たす数が有意に減少した。一方、週1個の卵を追加すると、乳幼児ではコリンのAIを満たす者が約10%増加した。さらに週7個の卵を追加すると、乳幼児の98%がコリンのAIを満たし、2-8歳の小児でも約94%がAIを満たした。また1個/日の卵の追加によって、コリンのAIを満たした人数の割合は9歳以上の小児では4.4%から23.0%に増加し、2歳以上の小児では22.1%から52.4%に増加した。そして1個/日の卵の追加によって、2-8歳および2-18歳の小児でルテイン+ゼアンキサンチンの1日当たりの摂取量が約75 mcgから775 mcg、並びに916 mcg/から931 mcgへと有意に増加した。
 この研究の結果は、健康的な食生活の一環としてアメリカの小児期の食事パターンに卵を取り入れることで、コリンの推奨摂取量が満たされ、ルテイン+ゼアンキサンチンの摂取量をも増加させることを支持している。


※コリン摂取目安量は次の通り。
生後6ヶ月:125 mg/日、7~12ヶ月:150 mg/日、1~3歳:200 mg/日、4~8歳:250 mg/日、9~13歳:375 mg/日、14~18歳男性:550 mg/日、14~18歳女性:400 mg/日、14~18歳で妊娠中の女性:450 mg/日、14~18歳で授乳中の女性:550 mg/日。

United States Department of Health and Human Services and United States Department of Agriculture. Dietary guidelines for Americans 2015–2020.
https://health.gov/dietaryguidelines/2015/resources/2015-2020_Dietary_Guidelines.pdf

文献No.155
調理および胃腸消化が卵の生理活性物質の吸収性に及ぼす効果

E Nolasco et al., Evaluating the effect of cooking and gastrointestinal digestion in modulating the bio-accessibility of different bioactive compounds of eggs. Food Chem. 2021, 344, 128623.

【要旨】

 鶏卵の栄養価は鶏の飼料に生理活性物質を添加することによって強化されるが、強化された成分のバイオアクセシビリティ(生体利用性)に影響する要因は特定されていない。本研究では、消化管(GI)消化後の卵成分のバイオアクセシビリティに及ぼす鶏種、飼料の強化および調理法の影響を検討した。ホワイトレグホン(WLH)およびロードアイランドレッド(RIR)にアマニ油、カロテノイドを強化したトウモロコシ、大豆ベースの飼料を与え、採卵し、目玉焼きまたはゆで卵に調理し、消化管モデルを用いてバイオアクセシビリティを評価した。
 その結果、どの卵タンパク質の加水分解の程度は鶏種や餌および調理法の影響を受けず、すべて同等に消化された。調理した強化卵中のα-リノレン酸バイオアクセシビリティはGI消化後も維持されていた。強化卵中のルテインのバイオアクセシビリティは、RIRの目玉焼き以外ではGI消化後に低下した。WLHおよびRIR由来の卵とも、GI消化後もペプチド含量は同等であった。これらの結果から、調理卵でのバイオアクセシビリティは生理活性成分によって異なるが、卵の潜在的な機能性食品として使えることが明らかにされた。

文献No.154
卵を含む乳児期の食事と乳児の成長(エクアドルでの無作為化対照試験)

Lora et al., Eggs in Early Complementary Feeding and Child Growth: A Randomized Controlled Trial. Pediatrics. 2017, 140(1) doi: https://doi.org/10.1542/peds.2016-3459.

【要旨】

 卵は成長と発達に関わる栄養素の良い供給源である。本研究では、乳児期の食事に卵を取り入れることで、乳児の栄養状態が向上するかどうかを調査した。
 エクアドルの乳児(6~9ヶ月)を介入群(1日1個の卵、n=83)と対照群(介入なし、n=80)に分け、6か月間の無作為化比較試験を実施した。週に1度、被験者を訪問して健康状態(発熱・下痢の有無、呼吸器・皮膚・歯の状態)の調査を行い、介入群では同時に卵の配布と摂取量の調査も行った。また試験開始時および終了時には、体格、食事摂取頻度を調査した。測定した値はZスコアに変換して(年齢を問わずに値を比較できるように標準化して)解析を行った。
 介入群では対照群と比較して、卵の食事摂取量が高くなっており(摂取比率1.57, 95%CI 1.28-1.92)、母親あるいは擁護者による乳児の卵に対するアレルギー反応についての報告はなかった。卵の介入によって、年齢に対する身長のZスコアが0.63(95%CI 0.38-0.88)、年齢に対する体重のZスコアが0.61(95%CI 0.45-0.77)有意に増加した。また介入群では、発育阻害に関わる有病率が47%(有病比率0.53, 95%CI 0.37-0.77)、低体重に関わる有病率が74%(有病比率0.26, 95%CI, 0.10-0.70)それぞれ有意に減少した。
 これらの結果から、早期からの卵の摂取はエクアドルの乳幼児の成長を有意に改善するといえる。体力的に脆弱な乳幼児にも受け入れられることから、卵は世界的に見てもリスク低減に寄与すると見なされる。

文献No.151
過体重および肥満成人の朝食での卵摂取によるエネルギー摂取量と満腹感への影響-クロスオーバー試験

J B Keogh et al., Energy Intake and Satiety Responses of Eggs for Breakfast in Overweight and Obese Adults—A Crossover Study. Int J Environ Res Public Health 2020, 17, 5583.

【要旨】

 朝食の内容により次の食事での摂取量が決まる可能性があり、減量中の過体重者や肥満者の食事指導において活用できると考えられる。本研究では、オーストラリアの過体重の成人男女を対象に、卵を含む朝食を摂取した場合のエネルギー摂取量およびVAS(visual analogue scale、主観的な判断スケール)法による空腹感を調査することを目的としてクロスオーバー試験を実施した。被験者は18歳以上でBMI25 kg/m2を超える過体重者または肥満者50名(44±21歳、体重86±14kg、BMI31±4kg/m2)で、1週間の期間を空けて2日間の研究を実施した。それぞれの日に朝食として卵食(卵とトースト)、またはシリアル食(牛乳、オレンジジュース、シリアル)の2種類のエネルギー量が等しい朝食(1800 kJ)を摂取させた。
 調査の結果、朝食に卵食を摂取した場合、4時間後の自由な昼食におけるエネルギー摂取量は、シリアル食と比較して有意に少なかった(4,518 vs. 5,283 kJ, P=0.001)。エネルギー摂取量にはBMIおよび性別の影響はなかった。また、卵食では朝食後の空腹感が有意に低く(食事と時間の交互作用、P=0.028)、シリアル食の摂取後ではより早く空腹感が戻った。これらの結果について性別や年齢による影響はなかった。
 以上より、過体重者および肥満者では卵を含む朝食を食べた場合、シリアル食と比較して昼食でのエネルギー摂取量が減少することが示された。このように過体重および肥満者の食事管理に役立つ食品を特定することは、減量中の食事計画を立てる上で重要であり、卵もその一つとして活用できると考えられる。

文献No.147
コロンビアの子供の赤身肉および卵の摂取頻度と血清フェリチン濃度との関係

Oscar F et al., Red meat and egg intake and serum ferritin concentrations in Colombian children: results of a population survey, ENSIN-2015. J Nutr Sci. 2020, 9: e12. doi: 10.1017/jns.2020.5

【要旨】

 コロンビアでは小児の貧血が健康課題となっておりその原因として鉄欠乏が考えられている。赤身肉や卵はコロンビアの伝統的な食事パターンの一部で、ヘム鉄の摂取源である。そこで本研究では、赤身肉と卵の摂取頻度、血清フェリチン濃度、さらに血清フェリチンと赤身肉および卵摂取の関係を調べることを目的とした。2014-2018年にコロンビアで行われたENSIN-2015(Encuesta Nacional de la Situación Nutricional en Colombia-2015)の横断データに基づき、5~17歳の小児13,243人を対象とした調査を実施した。食物摂取頻度調査の結果から赤身肉および卵の摂取頻度を求め、血清フェリチン濃度との関連性を多重線形回帰分析により評価した。赤身肉の習慣的な摂取頻度は0.49(95%CI:0.47-0.51)回/日、卵の摂取頻度は0.76(95%CI:0.74-0.78)回/日であった。男児の平均血清フェリチン濃度(μg/L)は41.9(95%CI:40.6-43.1)、女児は35.7(95%CI:34.3-37.7)で、男女間で有意に差があった(P<0.0001)。また、赤身肉および卵の摂取頻度と血清フェリチン濃度の関連について偏回帰係数(β)を求めた結果、赤身肉で3.0(95%CI:1.2-4.7)、卵で2.5(95%CI:1.0-3.9)であった。
 以上の結果から、赤身肉と卵の摂取はコロンビアの小児の血清フェリチン濃度の決定要因であり、貧血や鉄欠乏を減らすための公共政策の選択肢になると考えられた。

文献No.145
現代のタマゴの消費パターンの評価:イギリスの全国食事栄養調査 (National Diet and Nutrition Survey; NDNS)における食事の質、栄養、健康状態との関連性

Gibson S et al., Evaluating current egg consumption patterns: Associations with diet quality, nutrition and health status in the UK National Diet and Nutrition Survey. Nutrition Bulletin. 2020. doi: 10.1111/nbu.12462

【要旨】

 イギリスでは、ここ10年間タマゴの消費量が増加している。卵摂取者と非摂取者の現時点の食習慣と栄養、健康との関係を明らかにするため、イギリスの全国食事栄養調査(NDNS)に参加している647名の食事記録を分析した。
 まず、調査対象者の卵と卵料理の平均消費量は29 g/日(3.5個/週)であった。男女別に解析した結果、卵を食べる女性(n = 224、平均46g/日、卵5個/週)は、食べない女性(n = 150)より果物、野菜、魚を多く摂取しており、タンパク質、一価不飽和脂肪酸、n-3多価不飽和脂肪酸、ビタミンD、ビタミンB群、ビタミンC、鉄、亜鉛、セレンの摂取量が有意に高かった。血漿中の25-ヒドロキシビタミンD、カロテノイド、セレン、フェリチン、ヘモグロビンの濃度も有意に高かった。また卵を食べる女性では、食べない女性よりも平均エネルギー摂取量が多いにも関わらず、BMIの平均値および腹囲の値が低かった。一方で、卵を食べる男性(n = 159、平均54 g/日、卵6個/週)は、ビタミンD、ビオチン、ヨウ素、セレンの摂取量が有意に高かったが、血漿中の栄養素濃度と体重は食べない男性(n = 114)と同程度であった。卵摂取と心疾患リスクとの間には有意な関連性は男女共に見られなかった。
 以上の結果より、本研究での調査対象の女性では、卵の消費は食事の質の向上、栄養状態の改善、およびBMIの軽度の低下と関連していることが示された。

文献No.139
卵は米国人の不足栄養素の供給源として費用対効果が大きい(コスト分析)

Papanikolaou Y et al., Eggs Are Cost-Efficient in Delivering Several Shortfall Nutrients in the American Diet: A Cost-Analysis in Children and Adults. Nutrients. 2020, 11;12(8):2406.

【要旨】

 栄養成分摂取量と卵の価格との関連を調査した論文。栄養成分摂取量は、2013年~2016年の米国国民健康栄養調査のうち子供2~18歳(n= 956)および大人19歳以上(n= 2424)のデータを使用した。物価の影響を考慮した食品および栄養素の価格は、農務省栄養政策推進局(CNPP)の食品価格データベースから求めた。これらのデータから、米国で食べられている各食品群の価格と栄養成分について、全卵と比較した。食品100gあたりの価格は、乳製品0.23USD、穀類0.27USD、全卵0.35USDで、飲料を除く15の主要な食品グループの中で全卵は3番目に低かった。卵については、タンパク質1gあたり0.03USDであり、タンパク質の供給源として費用対効果が高い食品であった。食事中の全タンパク質のうち卵は子供で2.7%、大人では3.7%を占めた。また、ビタミンA は1RAE mcgあたり0.003 USDであり、全ビタミンAのうち子供で3.8%、大人で6.0%を占めた。子供では、食事中の全コリンのうち12%を卵から摂取しており、コリン1mgあたり0.002 USDであった。大人においても同様に全コリンの15%を卵から摂取していた。ビタミンDは子供で5%、大人で9.5%を卵から摂取しており、1mcgあたり 0.21 USD、0.22 USDであった。
  以上より、卵は米国人のたんぱく質および不足栄養素(コリン、ビタミンAおよびビタミンD)を補う経済的な食品として推奨できる。

文献No.132
マラウイ農村部の乳児の成長に及ぼす卵の影響(介入試験)

CP Stewart et al., The effect of eggs on early child growth in rural Malawi: the Mazira Project randomized controlled trial. Am. J. Clin. Nutr., 2019,110:1026–1033.

【要旨】

 発育不全は、多くの低所得国において重要な公衆衛生問題となっている。本研究では、1日1個の卵の摂取が、アフリカ東南部の国マラウイ共和国の農村部の子供の成長に及ぼす影響を評価した。2018年2月から7月の間、生後6~9ヵ月の660人の乳児を対象に、卵を6ヵ月毎日1個ずつ摂取するグループ(介入群)とそうでないグループ(対照群)とに分けて個別ランダム化比較試験を行った。担当者は週に2回家庭を訪問し、調査開始時、3ヵ月および6ヵ月後に、身長、体重、頭囲、上腕の太さの測定および規則順守の確認のために、24時間思い出し法による食事調査を行った。
 本研究の対象者は、594人(介入群330名、対照群329名)であったが、10%が脱落した。介入群では卵の摂取率は調査開始時に4.2%だったのに対し、3ヵ月後、6ヵ月後にはそれぞれ84.9%、71.0%に増加した。一方、対照群では調査開始時、3ヵ月後、6ヵ月後の卵の摂取率はそれぞれ4.0%、6.5%、7.2%であった。調査開始時の年齢に対する低身長の割合は14%、年齢に対する体重不足は8%、痩せは1%であり、グループ間での差は見られなかった。年齢に対する身長および体重、身長に対する体重において、介入効果は認められなかったが、年齢に対する頭囲のZ scoreは介入群で有意に高かった(平均差0.18, 95% CI: 0.01, 0.34)。また、教育歴の高い母親の子供では、介入群で身長が有意に増加した(P = 0.027)。
 この研究の結果では、卵を毎日1個摂取させても成長に対する全般的な効果は認められなかった。その原因は、動物性食品を多く摂取し「痩せ」の者の割合が低かったことが考えられる。しかし、離乳期から2歳までの子どもの食事の質を高めることは、子供の発育不全のリスクを低くする重要な対策とされており、今後もさらなる調査が必要である。

文献No.104
乳幼児の卵摂取は発育に不可欠な栄養素と身長に関連する(横断研究)

Yanni Papanikolaou et al., Egg Consumption in Infants Is Associated with Longer Recumbent Length and Greater Intake of Several Nutrients Essential in Growth and Development. Nutrients 2018, 10, 719; doi:10.3390/nu10060719

【要旨】

  乳児期の栄養素の摂取は、健全な成長と発達にとって非常に重要である。本研究では、卵摂取と栄養摂取との関連性、成長マーカーおよび体重関連指標について、米国の生後6?24ヵ月齢の卵を摂取する乳幼児(N = 561)と同年齢の卵非摂取者(N = 2129)とで比較した。卵摂取群と非摂取群は24時間食事思い出し法により分類した。
  その結果、卵摂取群は、非摂取群と比べエネルギー摂取量の増加が見られた(1265±2 vs. 1190±14kcal /day; P = 0.01)。加えて、卵摂取群は、タンパク質(48±0.7 vs. 41±0.4g /day)、総コリン(281±6 vs. 163±2mg /day)、ルテイン+ゼアキサンチン(788±64 vs. 533±23)、ドコサヘキサエン酸(DHA)(0.04±0.02 vs. 0.02±0.001g /day)、ビタミンB12(4.2±0.1 vs. 3.7±0.1 mcg/day)、α-リノレン酸(0.87±0.02 vs. 0.82±0.01g /day)、リン(977±15 vs. 903±8mg /day)、およびセレン(67±1 vs. 52±0.6mcg /day)、総脂肪(50±0.7 vs. 45±0.3g /day)、一価不飽和脂肪(17±0.3 vs. 15±0.1g /day)、飽和脂肪(20±0.4 vs. 18±0.2 g /day)、並びにナトリウム(1663±36 vs. 1418±19mg /day)の摂取量がすべて有意に増加していた; (P<0.05)。
  一方で添加糖 (4.7±0.3 vs. 6.1±0.2 tsp eqテーブルスプーン等量/day)および全糖(87±2 vs. 99±1 g /day)が有意に増加したが(P<0.05)、葉酸、鉄、マグネシウムおよびナイアシンの摂取量が減少していた。また、卵摂取群では身長の高さとの関連が見られた。(79.2 ± 0.2 vs. 78.7 ± 0.1 cm; P = 0.03)。
  結論として、6-24ヶ月齢の乳児の卵摂取は、タンパク質、ルテイン+ゼアキサンチン、コリン、ビタミンB12、セレンおよびリンを含むいくつかの栄養素摂取量増加をもたらし、また身長の高さと関連するなど乳児の発育にとってメリットがある。一方で、卵摂取群はいくつかの必須栄養素の量が少ないため、それらの栄養素の多い他の食品を組み合わせて、不足する栄養素の摂取を増加させる教育戦略が必要である。

文献No.102
卵のコリンは生物学的利用率が高い(介入研究)

Lemos BS et al., Effects of Egg Consumption and Choline Supplementation on Plasma Choline and Trimethylamine-N-Oxide in a Young Population. J Am Coll Nutr. 2018:1-8. doi: 10.1080/07315724.2018.1466213.

【要旨】

  血中トリメチルアミンオキサイド(TMAO)濃度は心血管疾患リスクと関連がある。卵はコリンの主要な供給源であるため、コリンサプリメントと比較して卵の摂取が血液中のコリンとTMAO濃度に及ぼす影響を検証する試験を実施した。健常な男女30名(25.6±2.3歳、BMI 24.3±2.9kg/m2)を対象として、13週間のクロスオーバー介入試験を行った。2週間のウォッシュアウト後、卵3個/日または重酒石酸コリンサプリメント(両群ともコリン量は約400mg)を4週間ずつ摂取させた。3週間のウォッシュアウト後、被験食を入れ替えて4週間摂取した。食事記録、TMAOおよびコリンの血中濃度は各介入の終了時に測定した。
  卵3個/日の摂取では、コリンサプリメント摂取と比較して、総脂質、コレスロール、セレン、ビタミンEの摂取量が有意に上昇した(P<0.05)。一方、炭水化物摂取量は有意に低下した。空腹時血中コリン濃度は、コリン補給で明らかな変化が無かったのに対し、卵摂取により20%増加した(P=0.023)。血中TMAO濃度には介入により開始時と有意な変化はなかった。
  以上の結果から、コリンの生物学的利用効率はサプリメントとして摂取するよりも卵からの摂取で高いが、どちらも血中TMAO濃度には影響を及ぼさないことが示された。つまり、必須栄養素であるコリンの摂取源として、卵は安全に取り入れることができることが示された。
  (No.98と同じ研究)

文献No.100
卵白は加熱温度によって消化率および消化産物が異なる(in vitro)

Wang X et al., Effect of Different Heat Treatments on In Vitro Digestion of Egg White Proteins and Identification of Bioactive Peptides in Digested Products, J Food Sci. 2018, 25. doi: 10.1111/1750-3841.14107.

【要旨】

  鶏卵は様々な加工を経て摂取されるが、種々の加熱処理条件で栄養素の変化に及ぼす影響を調べた研究は少ない。本研究では異なる温度(4,56,65,100℃)の加熱が、卵白タンパク質の消化率や消化産物に与える影響について、ペプシンおよびペプシン+パンクレアチンを用いたin vitro試験で検討した。ペプシン消化率は65℃で処理した卵白タンパク質が最も高く、ペプシン+パンクレアチンによる消化率は調理温度を上げると有意に増加した(P<0.05)。Nano-LC-ESI MS/MSを用いて消化産物の分子量を測定した結果、ペプシン処理の場合と比較してペプシン+パンクレアチン処理では低分子ペプチドが多く確認され、パンクレアチンにより低分子ペプチドが増えることが分かった。全消化産物において同定された特異的なペプチドの数とin vitroでの消化率との間に有意な正の相関がみられた。さらに、抗酸化、抗菌、抗高血圧などの機能を持つ生理活性ペプチドは4℃および100℃のサンプルで特に多く検出された。
  以上より、卵白は加熱温度によって消化率および生成されるペプチドの種類に違いがあることから、様々な消費者の要望に応えることができると考えられる。食品産業における卵の活用および卵消費の理論的な根拠となる研究である。

文献No.95
朝食での卵摂取は栄養状態や食習慣の改善に役立つ(介入研究)

Taguchi C et al., Regular egg consumption at breakfast by Japanese woman university students improves daily nutrient intakes: open-labeled observations. Asia Pac J Clin Nutr. 2018, 27(2):359-365.

【要旨】

  卵は様々な栄養素や抗酸化物質を含む良質なたんぱく源である。毎日1個の卵を追加摂取することで日々の栄養素摂取状況や血中抗酸化レベルにどのような影響があるかを調べるため、日本人女子大生を対象とした介入試験を実施した。
  14名の被験者に卵1個を含む朝食(ゆで卵、食パン、サラダ、ヨーグルト、フルーツジュース、紅茶)を提供し、4週間毎日摂取させた。また、毎日の食事を記録し、栄養素摂取量を調査した。介入前と比較し、介入期間中の1日のエネルギー摂取量に差は無かったが、たんぱく質エネルギー比及びコレステロール、ビタミンD、ビタミンB12、ビタミンCの摂取量が有意に増加した。食品群別の解析では、菓子類の摂取量が有意に減少した。また、穀類、野菜、魚・肉、乳製品、果物、菓子・アルコール類の摂取量について日本の食事バランスガイドに対する順守率をスコア化した結果、介入前と比較して介入後には合計スコアが高くなった。
  介入前後の空腹時血液の分析の結果、血中脂質濃度に有意な変化はなかったが、動脈硬化のリスク因子であるMDA‐LDL濃度が介入後に有意に低下し、LDLの酸化が有意に抑制された。また、血中葉酸濃度が有意に増加した。
  以上より、若年女性における朝食での卵摂取は、栄養状態や食習慣の改善に役立ち、特定の抗酸化指標を改善することが示唆された。

文献No.92
シッダ食品市場における卵の脂肪酸組成とω3強化卵の付加価値についての比較研究

Shahida AK et al., Comparative study of fatty-acid composition of table eggs from the Jeddah food market and effect of value addition in omega-3 bio-fortified eggs, Saudi J. Biol. Sci., 2017, 24:929-935

【要旨】

  ω-3必須脂肪酸は、健康上有益かつ重要なサプリメントの1つである。サウジアラビアでは、主として過去数十年間での栄養的変遷と生活習慣の変化により、肥満、糖尿病、循環器疾患が驚くほど増加してきている。一般的に消費される食品についての栄養介入は、人々の健康を改善し、医療費を削減する重要な一歩となる。卵はサウジアラビアで頻繁に消費される食品であり、ω-3脂肪酸を強化すれば優れた現状改善策となろう。
  本試験では、鶏の飼料に亜麻仁または魚油由来のω3脂肪酸を添加し、採取した卵を分析した。測定項目として、卵黄中の脂肪酸やビタミンE分析および官能評価を行った。亜麻仁または魚油由来のω3脂肪酸を与えた群において、卵中のω3脂肪酸の組成比は対照郡0.42 ± 0.02%に対し、それぞれ5.63 ± 0.82%および5.73 ± 0.21%と有意に増加した。また、ビタミンEも対照群1.1㎎に対し、それぞれ1.79㎎および1.82㎎と軽度ながら増加した。
  したがって、ω3脂肪酸の摂取不足は、亜麻仁または魚油源を与えた鶏からのω3強化卵を摂取ことによって改善することができ、消費者のより良い健康に寄与できる可能性がある。ω-3卵は近い将来における市場製品として有望であろう。

文献No.88
幼児期早期の卵摂取はコリン血中濃度を改善する(介入試験)

Iannotti LL et al., Eggs early in complementary feeding increase choline pathway biomarkers and DHA: a randomized controlled trial in Ecuador, Am J Clin Nutr. 2017, 106(6):1482-1489.

【要旨】

  コリンは幼児の発育に必須とされている。卵はビタミンや必須脂肪酸を含む高栄養食品でありコリン含量も高いことから幼児の発育不良を改善することが報告されている。本研究では、卵を補助食品として早期に摂取することの有用性を調査するため、エクアドルの乳児(6~9ヵ月)を対象とする介入試験を実施した。対照群(卵無し、83名)と介入群(卵1個、80名)の2群に分け、6ヵ月間介入を行った。食事調査は介入前後に行い、期間中、週1回被験者を訪問し、採血した。介入の結果、対照群と比較し、鶏卵摂取によりコリンおよびコリン代謝に関わる成分(ベタイン、メチオニン、TMAO)の血中濃度が上昇した。TMAOは幼児期における影響は不明である。一方、ビタミンB12、レチノール、リノール酸、α-リノレン酸には対照群と比較し有意な変化は認められなかった。この結果から、幼児期早期の卵摂取は、発育に必要なコリンおよびコリン代謝産物の血中濃度を改善することが示された。

文献No.80
肥満女性の血清ビタミンB12レベルおよび栄養状態(横断研究)

Baltaci D et al., Evaluation of serum Vitamin B12 level and related nutritional status among apparently healthy obese female individuals. Niger J Clin Pract. 2017 , 20(1):99-105. doi: 10.4103/1119-3077.181401.

【要旨】

  肥満女性における血清ビタミンB12濃度とBMIおよび栄養状態との関連を調査することを目的とした横断研究。赤肉、魚、牛レバー、卵、キノコの摂取量を調査した。DRIを参考にし、血清ビタミンB12濃度200pg/mL未満を欠乏、250~350pg/mLを不足、350pg/mL以上を充足と判断した。BMIによって肥満群と非肥満群に分け、ビタミンB12濃度と食品摂取量を2群間で比較した。血清ビタミンB12濃度の平均値は247.8±10.4pg/mLであり、卵(p=0.031)、牛レバー(p=0.004)、キノコ(p=0.040)、赤肉(p=0.003)の摂取量と有意な相関があった。また、ビタミンB12濃度は肥満群よりも非肥満群で有意に高かった(282.5±106.8 vs. 242.5±107.5pg/mL、p=0.001)。欠乏者の割合も非肥満群よりも肥満群で有意に高かった(37.6%vs.24.7%、p=0.019)。ビタミンB12濃度は、BMI(r=-0.155; p0.001)と有意な負の相関があったが、インスリン抵抗性(r=-0.172; p=0.062)とは相関がみられなかった。
  以上から、肥満女性では、肥満はビタミンB12濃度の低値と相関し、肥満者ではビタミンB12が不足する可能性が高かった。この不足は、卵、赤肉、魚、牛レバー、キノコなどの食品の摂取により補えると考えられる。

文献No.78
ルーマニアの小児のコリン摂取量とその摂取源

Prelicz CR and Lotrean LM,, Choline Intake and Its Food Sources in the Diet of Romanian Kindergarten Children, Nutrients, 2017, 9: 896. doi: 10.3390/nu9080896

【要旨】

  コリンは脂質の輸送や代謝、膜の機能などにおいて重要な役割を担う栄養素であり、神経発達や認知機能、がんや心血管疾患にも関わると考えられている。体内でコリンは合成されるものの、その量は限られており、生体に必要な量を満たすためには食事からコリンを摂取する必要がある。米国では食品中のコリン含有量がデータベース化され、1998年にはコリン摂取基準が設けられている。一方で、ヨーロッパでは基準が未だ設定されていない上に、ルーマニアでは国民のコリン摂取量の調査も行われていない。そこで、本研究ではルーマニアにおける小児の食物由来のコリン摂取量を調査した。
  71名の幼稚園に通う小児(4~6歳)を対象とし、3日間の食事記録からコリン摂取量を算出した。その結果、平均摂取量は215mg/日であり、約23%の小児しか米国の4~6歳の摂取目安量である250mg/日を満たしていないことが分かった。約90%の小児は少なくとも170mg/日のコリンを摂取していた。なお、男女間での有意な差はなかった。また、コリンの主な摂取源は肉類(主として家禽)、卵、穀類、酪農製品(主としてミルク)であり、全体の75%を占めていた。適切な量のコリンを摂取するには、少なくとも3日に1個の卵、1日に2人前の乳製品(牛乳あるいはヨーグルト500mL/日またはチーズ60g/日)および少なくとも1日に1人前の肉(90g/日)を食べることがロジスティック回帰解析において有意な相関を示した。ルーマニアの小児では、卵や肉類はコリンを手軽に摂取するのに役立つと言える。
  したがって、適当な量のコリンを含む食品を小児に食べさせるよう推奨するとともに、コリン摂取に関する調査を今後さらに進める必要がある。

文献No.76
途上国での給食プログラムにおける卵の補給効果

Baum J et al., The effect of egg supplementation on growth parameters in children participating in a school feeding program in rural Uganda: a pilot study. Food Nutr. Res., 2017; 61(1): 1330097. doi: 10.1080/16546628.2017.1330097.

【要旨】

  途上国の多くの小児ではタンパク質エネルギー栄養失調が懸念されるが、微量栄養素不足はより普遍的な問題である。卵は微量栄養素と高栄養価のタンパク質の安価な供給源であり、不足を補充するのに適している。現在途上国では、学校給食プログラムが普及しており、今回、ウガンダの農村部の学校給食プログラムに参加している小学生の成長に及ぼす卵の補給の効果について、予備的なデータを得ることとした。
  6~9歳(n=241人)の子供を、ウガンダのキッギャム地区全体にある3つの異なる学校から募集した。同じスクールのすべての参加者を、それぞれコントロール(卵なし群、n=56)、週5日間卵を毎日1個食べる群(卵1個群、n=89)、または週5日間卵を毎日2個食べる群(卵2個群、n=96)に割り付けた。身長、体重、上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF)および上腕中心部周囲長(MUAC)を6ヵ月間毎月測定した。
  その結果、6ヵ月の卵補給後、卵2個群は、卵なしおよび卵1個の群と比較して、身長および体重の増加が大きかった(p<0.05)。さらに、卵1個および卵2個群の参加者は、卵なし群と比較して6ヵ月でMUACが有意に増加した(p<0.05)。
  これらの結果は、卵を補給することで、ウガンダの農村部の学校給食プログラムに参加している児童の成長パラメータを改善できることを示唆している。卵の補給が栄養状態や認知発達に及ぼす影響を明らかにするため、また長期間学校給食プログラムに卵の補給を実施する可能性を判断するために、さらなる研究が必要である。

文献No.75
アメリカにおける食物由来コリン摂取量の調査

Wallace T C et al., Usual choline intakes are associated with egg and protein Food consumption in the United States, Nutrients, 2017, 9: 839. doi: 10.3390/nu9080839

【要旨】

  コリンは生体において重要な役割を担う必須栄養素である。しかし、コリンの摂取目安量が米国で設定された当時、多くの人がコリン摂取不足であることはあまり知られていなかった。また、食品中のコリン含有量が明らかにされたのは最近のことである。そこで、卵、タンパク質食品(肉や魚介類)、サプリメントといった食物由来のコリンの摂取量について調査するため、NHANES(米国の健康栄養調査) に登録されている24,774名(2009~2014年)および593名の妊婦(2005~2014年)の食事調査結果を用いて評価を行った。
  多くの性別・年齢層でコリンの摂取が不足しており、約8%の成人と約9%の妊婦しか摂取目安量に達していないことが分かった。2~3歳の小児、続いて4~8歳の小児の摂取量が最も目安量に近かった。19歳以上の成人については、卵を消費する人(NHANESによる調査で、一日の食事に卵が含まれていた人)では約57%、消費しない人では約2%の人が目安量に達しており、コリン摂取量については卵を消費する人(525±5.17 mg/日、平均値±標準誤差)は消費しない人(294±1.98mg/日)のおよそ2倍であった(p<0.0001)。肉や魚介類などのタンパク質が豊富な食品を消費しない人ではコリン摂取量が235±8.81mg/日であるのに対し、消費する人では345±2.21 mg/日であり、タンパク質食品はコリン摂取の増加に寄与するが目安量に達するまでには至らなかった。なお、コリンの許容上限摂取量を超える性別・年齢層はなかった。
  本研究から、卵の消費なくしてはコリンの摂取目安量を達成することは困難であることが示唆される。

文献No.70
卵の追加で健康的な食品の摂取が増加(介入試験)

Njike VY et al., Which foods are displaced in the diets of adults with type 2 diabetes with the inclusion of eggs in their diets? A randomized, controlled, crossover trial, BMJ Open Diab. Res. Care, 2017;5:e000411. doi:10.1136/bmjdrc-2017-000411

【要旨】

  2型糖尿病患者の食事に卵を追加もしくは除去することにより、他の食品の摂取量にどのような影響があるのかを調べるため、2型糖尿病の米国人男女34名(64.5±7.6歳)を対象とした単盲検ランダム化クロスオーバー試験を実施した。通常の食事の一部として卵2個/日を摂取する群、あるいは卵を除いた食事を摂取する群に分け、各12週間摂取した(ウォッシュアウト期間は6週間)。食事については栄養士が指導をし、カロリーが両群で同程度になるようにした。介入前と介入中の食事調査を行った結果、卵摂取期間では卵除去期間と比較し、精製穀物摂取量に減少傾向が認められた(?0.7±3.4 vs 0.7±2.2; p=0.0530)。また、介入前と比較した場合、卵摂取期間に総タンパク質摂取量が有意に増加した(0.3±0.7; p=0.0153)。卵除去期間には乳製品摂取量が有意に減少した(?1.3±2.9; p=0.0188)。その他の食品摂取量に有意な変化はなかった。以上の結果から、2型糖尿病患者の食事に卵を追加することは、健康的な食品の摂取を増加させ、非健康的な食品の摂取の減少につながる可能性が示された。

文献No.59
卵白のタンパク質利用率は加熱をしても変わらない

Matsuoka R et al., Heating Has No Effect on the Net Protein Utilisation from Egg Whites in Rats. Scientific World Journal, 2017; 2017: 6817196, doi: 10.1155/2017/6817196.

【要旨】

  卵白はタンパク質の優れた供給源であるが、ほとんどは加熱して摂取される。そこで、加熱条件の違いが卵白のタンパク質利用率に及ぼす影響を調べた。雄SDラット(N = 36、198±1g)を6つのグループに分けて、タンパク質として、非加熱卵白、ソフトボイル卵白(加熱65℃×5分)、ボイル卵白(加熱95℃×10分)、乳清タンパク質、大豆タンパク質、またはそれらを含まない群に分けて、AIN-76飼料で、10日間にわたり飼育した。窒素含有量および正味タンパク質利用率(NPU*)を測定するために、尿および糞便を5日目から毎日サンプリングした。大豆タンパク質群は、摂取量が有意に低かったので、その後の分析から除外した。大豆タンパク質はカゼインよりもメチオニンが少なく、メチオニンが少ない給餌を与えられた成長期のラットでは摂取量が減少することや、大豆タンパク質は食欲を減少させるホルモンであるコレシストキニンの分泌を促進することなどが原因と考えられる。
  NPU値(%)は、非加熱群、ソフトボイル卵白群、およびボイル卵白群それぞれ、97.5±0.4、96.5±0.1、および96.5±0.7であり、乳清タンパク質群の値(90.5±1.0)より有意に高かった。これらの結果は、卵白が加熱に関係なく、タンパク質の良好な供給源として利用されることを示している。

  *正味タンパク質利用率(NPU):摂取したタンパク質(窒素)のどれだけの割合が体のタンパク質(窒素)として保持されたかを表す値(%)
  正味たんぱく質利用率(NPU)=( 体内保留窒素量 / 摂取窒素量 )× 100 (%)

文献No.50
卵や家禽肉の栄養学的特徴

Kralik G et al., Poultry products enriched with nutricines have beneficial effects on human health., Med Glas (Zenica), 2017 Feb 1;14(1). doi: 10.17392/879-16.

【要旨】

  著者の住むクロアチア共和国では、家禽肉の平均消費量は1人当たり18.3kgであり、卵は160個である。ブロイラー肉の最も質の高い部分は、むねとドラムスティック(もも)である。むね肉は21-23%のタンパク質、1.90-1.97%の脂肪、および0.74-0.77%のコラーゲンを含有する。ドラムスティックは、19.03-19.93%のタンパク質、4.70-6.05%の脂肪、および0.91-1.13%のコラーゲンを含有する。白身肉(むね)には、赤身肉(もも)よりも多くのカリウムとマグネシウムが含まれ、亜鉛と鉄が少ない。卵可食部100gあたりのエネルギーは167 Kcalであり、12.5-13.5gのタンパク質、10.7-11.6gの脂肪および1.0-1.1gのミネラルが含まれる。また、ロイシン、イソロイシン、リジン、アルギニン、バリン、フェニルアラニンなどの必須アミノ酸が多く含まれている。さらに、卵は多くのビタミン、特にA、D、E、KおよびB群、ならびに種々の多量元素(ミネラル)および微量元素(ミネラル)を含む。n-3系多価不飽和脂肪酸(エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸)、セレン、ルテインなどの機能性成分を豊富に含む卵や肉は、人間の健康にとっての付加価値と利益のための機能性食品としての基準を満たしている。

文献No.39
卵はビタミンEの吸収を促進(介入試験)

Kim JE et al., Egg Consumption increases Vitamin E absorption from co-consumed raw mixed vegetables in healthy young men. J. Nutr., 2016, doi : 10.3945/jn.116.236307.

【要旨】

  ビタミンEは天然に存在する脂溶性の栄養素であり、その抗酸化活性および抗炎症活性から循環器疾患、特定のがん等の慢性疾患の予防に寄与することが知られている。本研究では、卵を野菜と合わせて食べることによるビタミンEの吸収への影響を検討した。健常な男性16名(mean±SD;年齢24±4歳、BMI 24±2 kg/m2)にサラダ(菜種油3 gを加えたもの)+卵0 g (control : CON)、サラダ+調理した卵75 g(low-egg : LE)、またはサラダ+調理した卵150 g(high-egg : HE)を摂食させ、10時間にわたり1時間毎の血中α-トコフェロール濃度および血中γ-トコフェロール濃度を測定した。血中α-トコフェロール濃度の0-10時間における曲線下面積(AUC)は、HE群(mean±SE:981±162 nmol/L・10h)が他の群(CON : 117±162 nmol/L・10h, LE : 311±162)と比較して有意に高値を示した。血中γ-トコフェロール濃度のAUCもまたHE群(402±54 nmol/L・10h)で、CON群(72±54 nmol/L・10h)と比較して有意に高値であった。以上のことから、卵の摂取は健常な男性においてビタミンEの吸収を促進させる効果的な方法と見なされた。

文献No.37
ビタミンD強化卵で冬季のビタミンD不足解消の可能性(介入試験)

Hayes A et al., Vitamin D-enhanced eggs are protective of wintertime serum 25-hydroxyvitamin D in a randomized controlled trial of adults. Am. J. Clin. Nutr., 2016, 104:629-637.

【要旨】

  デンマークでの研究。ビタミンD合成量が少ない冬期(1~3月)におけるビタミンD強化卵摂取の効果を確認するため、健常成人55名を対象としたRCTを実施した。被験者は、通常卵(総VD含量:3.43±1.31μg/egg)≦2個/週(対照群)、ビタミンD3強化卵(総VD含量:3.54±1.04μg/egg)7個/週(VD3群)、25(OH)D3強化卵(総VD含量:4.54±1.38μg/egg)7個/週(25(OH)D3群)の3群に分け、8週間摂取。試験前の血中25(OH)D3濃度に有意な群間差は無かったが、対照群ではVD3群、25(OH)D3群と比較し血中濃度が7~8 nmol/L低かった。8週間の卵摂取の結果、対照群では血中VD濃度が有意に減少したのに対し、VD3群、25(OH)D3群では血中濃度が減少せず、対照群に対して有意な群間差が見られた。この結果から、7個/週のビタミンD強化卵の摂取は、成人の冬期におけるビタミンD維持に重要な役割を果たすことが期待できる。

文献No.35
鉄欠乏性貧血に卵白が効果あり(動物試験)

Kobayashi Y et al., Egg yolk protein delays recovery while ovalbumin is useful in recovery from iron deficiency anemia. Nutrients. 2015, 7:4792-4803.

【要旨】

  鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia, IDA)における卵タンパク質の有効性について検討した。SD系雌ラット31匹を、通常食を与える対照群(カゼイン)(4.0mg Fe/100g, n=6)と低鉄食を与えるIDA群(0.4 mg Fe/100g, n=25)に分け42日間飼育した。IDA群は、21日間の飼育後、卵白群(n=6)、オボアルブミン群(n=7)、卵黄群(n=6)、カゼイン群(n=6)に分け、それぞれの飼料(いずれも100gあたり 4.0mgの Feを含む)で21日間飼育した。卵黄群では、ヘマトクリット、ヘモグロビン、トランスフェリンの飽和度、肝臓鉄量の回復が他の群よりも有意に遅かった(p<0.05)。卵黄中のホスビチンが鉄と結合し吸収を妨げたと考えられた。一方、卵白群およびオボアルブミン群では、肝臓鉄量がカゼイン群よりも高くなった。この結果から、卵白はIDAからの回復に有用であり、オボアルブミンがその関与成分の一つである可能性が示唆された。なお、卵黄については、鉄の過剰蓄積により組織損傷を引き起こすヘモクロマトーシス(血色症)などの疾患において、鉄除去治療に利用できる可能性が考えられた。

文献No.24
調理法によって卵カロテノイドの吸収が変わる(in vitro)

Chamila N et al., Bioaccessibility and digestive stability of carotenoids in cooked eggs studied using a dynamic in vitro gastrointestinal model. J. Agric. Food Chem., 2015, 63: 2956-2962.

【要旨】

  加熱調理が卵のカロテノイド(ルテイン、ゼアキサンチン)の消化と生体利用性(吸収)に及ぼす影響を明らかにするため、一般的な家庭調理法である茹で卵、目玉焼き、スクランブルエッグの3方法で卵を調理し、人工消化管モデル(TIM-1)を用いて検討した。その結果、ルテインとゼアキサンチの消化安定性は調理法の影響を受けなかった(平均回収率はそれぞれ90%と88%)。消化中にトランス・シス異性化は観察されなかった。しかし、生体利用性には調理法による差がみられ、茹で卵、目玉焼きでは41%~45%程度であるのに対し、スクランブルエッグではルテインが39%、ゼアキサンチンが24%で有意に低くなった。これらの結果から、卵に含まれるカロテノイドの吸収は、調理方法による影響を受けることが分かった。

文献No.12
ルテイン強化卵は血中脂質に影響を与えずルテイン濃度を増加(介入試験)

van der Made S MN et al., Consuming a buttermilk drink containing lutein-enriched egg yolk daily for 1 year increased plasma lutein but did not affect serum lipid or lipoprotein concentrations in adults with early signs of age-related macular degeneration. J. Nutr., 2014, 144: 1370-1377.

【要旨】

  加齢性黄斑変性症の初期兆候がある50才以上のオランダ人88名を2群に分け、1年間毎日、ルテイン強化卵黄1.5個を加えたバターミルク、もしくはバターミルクのみを飲む無作為化比較試験を行った。その結果、ルテイン強化卵黄を摂取した群では血漿中ルテイン濃度が有意に増加(バターミルクのみの場合の83%増)した。しかし、血清コレステロール(Chol)濃度および総Chol/HDL-Chol比には有意な差は認められなかった。campesterolとlathosterolの血中濃度比が低い(コレステロール吸収タイプ)、高い(合成タイプ)、および中間の3群に分け比較すると、コレステロール吸収タイプでは、血漿ルテイン濃度だけでなくHDL-Cholもより顕著に増加した。このように、コレステロール吸収タイプでは、ルテイン強化卵黄を加えたバターミルクの摂取効果が最も大きいと考えられる。

文献No.11
卵の摂取量は食事の質と関連あり

Sonia Vega-Lopez S et al., Egg intake and dietary quality among overweight and obese Mexican-American postpartum women. Nutrients., 2015, 7: 8402-8412

【要旨】

  産後の女性における栄養摂取状況や食事の質への鶏卵の寄与の程度を評価するため、産後のメキシコ系アメリカ人女性(28±6歳、BMI 29.7±3.5 kg/m2)を卵消費者81名(摂取量 >0個/日)と非消費者57名の2群に分け調査した。栄養素摂取状況と食事の質については、Alternative Healthy Eating Index 2010 (AHEI2010、米国での評価基準)によって評価した。その結果、卵消費者では非消費者と比較し、エネルギー、タンパク質、脂質、一価不飽和脂肪酸、その他微量栄養素の摂取量が多く、タンパク源となる食品や果物の摂取量もより多い傾向が認められた。つまり、卵の摂取は産後のメキシコ系アメリカ人女性の食事の質を改善することが示唆された。なお、卵消費者ではエネルギー摂取量も多い傾向にあるため、過体重および肥満者に対しては、過剰なエネルギー摂取は避け、食物繊維を多く含む食事に卵を組み合わせることを推奨している。

文献No.3
卵黄は血中カロテノイド濃度を改善(介入試験)

Christopher N. Bless et al., Egg intake improves carotenoid status by increasing plasma HDL cholesterol in adults with metabolic syndrome. Food. Funct., 2013, 4:213?221.

【要旨】

  Metabolic syndrome(MetS)と診断されたアメリカ人男女40人を対象に、12週間にわたって、毎日全卵3個を食べる群(EGG群)と卵黄を含まない同量の卵代替物を摂取する群(SUB群)に分けて血中カロテノイドに与える影響を評価した。なお、試験期間中は、すべての被験者に糖質制限食を摂ってもらった。その結果、EGG群では、血中ルテイン、ゼアキサンチンがSUB群と比較して有意に上昇した。また、HDLおよびLDL中のルテイン、ゼアキサンチンについてもSUB群と比較して有意に上昇していた。卵黄は心血管疾患や糖尿病リスクが高い方にとって、血中カロテノイド濃度を改善する重要な供給源であることが示された。

文献No.1
卵はカロテノイドの吸収を促進する(介入試験)

Jung Eun Kim et al., Effects of egg consumption on carotenoid absorption from co-consumed, raw vegetables. Am J Clin Nutr., 2015, doi: 10.3945/ajcn.115.111062.

【要旨】

  健康で若い成人男性16名を対象に、野菜のみ摂取する群、野菜と卵75gを摂取する群、野菜と卵150gを摂取する群の3群に分けて、血中のカロテノイド(ルテイン、ゼアキサンチン、αカロテン、βカロテン、リコペン)の推移を10時間確認した。摂取したカロテノイドはほとんどが野菜に含まれていた。血中カロテノイド量合計は、野菜のみ摂取する群、野菜と卵75gを摂取する群、野菜と卵150gを摂取する群の順に多くなり、野菜と卵150gを摂取する群は他の2群より有意に高値を示した。
  野菜と卵を一緒に摂取する事でカロテノイドの吸収を促進する事が示された。

9.抗酸化、抗炎症

文献No.115
卵白加水分解物は、マウスの短期間の遊泳負荷試験による疲労を改善する(動物試験)

Matsuoka R et al., Egg white hydrolysate improves fatigue due to short-term swimming load test in mice.Food Sci Nutr. 2018;6(8):2314-2320. doi: 10.1002/fsn3.810.

【要旨】

  本研究はマウスの遊泳時間遊泳に及ぼす卵白加水分解物(EWH)の効果の検証を目的とした。7週齢の雄ddYマウス(28?30g)を3群に分け、カゼイン(n=8)、EWH(n=7)および卵白タンパク質(EWP、n=8)を含むAIN-93G食を14日間摂取させた。EWHは、中性プロテアーゼを用いて反応させ、平均分子量700に調整した。11日目から、体重の10%に相当する体重負荷として遊泳試験を14日目まで毎日負荷し、遊泳時間を記録した。血液は14日目に採血し分析した。その結果、摂取14日目において、EWH群はカゼイン群に対し遊泳時間が有意に延長した(p=0.049)。遊泳時間延長に関連するメカニズムとして、脂質過酸化の初期を捉えるバイオマーカーである血液中のヘキサノイルリジンレベルが、EWH群はカゼイン群に対して有意に減少することが確認された(p=0.013)。
  これらの知見から、EWHの摂取がマウスの遊泳時間を延長し、そのメカニズムとして、抗酸化作用を介した抗疲労作用によることが示された。

文献No.114
アルコール性脂肪肝に対するカラザ加水分解物の保護効果 (動物試験)

Yang KT et al., Protective effects of antioxidant egg-chalaza hydrolysates against chronic alcohol-consumption induced liver steatosis in mice. J Sci Food Agric. 2018 doi: 10.1002/jsfa.9426.

【要旨】

  活性酸素種(ROS)の過剰生成は様々な慢性疾患と関連している。現在、液卵生産の過程で年間約400トンのカラザが廃棄されてので、本研究では、慢性アルコール摂取マウスを用いてカラザ加水分解物の抗酸化能を最大化するための生産方法を検討した。
  抗酸化粗カラザ加水分解物(CCH-As)はプロテアーゼAを用いて1:100(w/w)の割合で0.5時間反応させ調整した。解析の結果、CCH-Asはロイシン、アルギニン、フェニルアラニン、バリン、リジン、抗酸化ジペプチド(アンセリン、カルノシン)および15kDa以下の分子を豊富に含んでいた。アルコール摂取マウスの酸化傷害に対するCCH-Asの保護効果については、対照、アルコール摂取群およびアルコール+CCH-As 摂取群(100 mg/kg体重)の3群について8週間飼育し評価した。アルコール摂取マウスは対照と比較して肝臓の抗酸化能が有意に低く(p<0.05)、脂質含量、血中脂質/肝臓傷害指数およびIL-1β/IL-6価が有意に高かった(p<0.05)。一方、CCH-As摂取により肝臓の抗酸化能は改善し(p<0.05)、血中脂質/肝臓傷害指数は減少した(p<0.05)。また、このような効果の作用機序と考えられる糞便中への脂質排出量増加(p<0.05)、脂肪酸のβ酸化促進(p<0.05)、肝臓の脂質合成低下(p<0.05)が確認された。
  このようにCCH-Asにはもとのカラザと比べ必須アミノ酸および分岐アミノ酸がそれぞれ500倍および400倍含まれるのに加え、抗酸化ジペプチドも存在し、液卵産業に利益をもたすに違いなく、一方では消費者の動物性健康成分の選択肢を広げることができよう。

文献No.64
卵白加水分解物はマヨネーズの酸化を阻害する

Kobayashi H et al., Egg white hydrolysate inhibits oxidation in mayonnaise and a model system. Biosci. Biotechnol. Biochem., 2017, 81(6):1206-1215.doi: 10.1080/09168451.2017.1290519.

【要旨】

  マヨネーズの風味劣化は、酸性条件下で卵黄ホスビチンから放出された鉄により、脂質酸化が促進されることで誘発される。酸化劣化を防ぐために、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの合成化学物質ではなく、天然成分が消費者から求められている。卵黄リポタンパク質を鉄イオン存在化で自動酸化させると、有機溶媒抽出物の蛍光強度が増強することが知られている。そこで、マヨネーズの抗酸化素材のスクリーニング法として、卵黄に酢酸を加えてpH 4とし、酸化促進する簡便な「酸性卵黄溶液酸化モデル」を考案した。本研究では、同じアミノ酸組成の卵白タンパク質、卵白加水分解物、アミノ酸混合物の3つの卵白由来成分がマヨネーズの脂質酸化に及ぼす影響を、このモデル系を用いて評価した。その結果、3つの成分のうち卵白加水分解物が脂質酸化に対して最も強い阻害効果を有することを見出した。抗酸化作用のメカニズムは、Fe 2+ -キレート化活性と関連していた。したがって、卵白加水分解物は、マヨネーズにおける脂質酸化の天然阻害剤とし利用できる可能性が指摘された。

文献No.57
卵殻膜の炎症性腸疾患改善メカニズム(動物試験、in vitro)

Jia H et al., Eggshell membrane powder ameliorates intestinal inflammation by facilitating the restitution of epithelial injury and alleviating microbial dysbiosis. Sci. Rep. 2017 doi:10.1038/srep43993

【要旨】

  卵殻膜粉末が炎症性腸疾患(IBD)と腸内細菌に及ぼす影響を検討した。Caco-2細胞を用いた実験において、卵殻膜はLPSにより引き起こされた炎症性サイトカインの産生を抑制した。また、デキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎モデルマウスにおいて、卵殻膜摂取により大腸炎重症度(DAI)の軽減と腸管の短縮が見られた。この効果には、炎症メディエーター、腸上皮細胞の増殖、修復関連因子および抗菌ペプチドの遺伝子発現の改善が関与していることが分かった。また、関連遺伝子、タンパク質、代謝物について統合オミクス解析を行ったところ、腸内細菌の多様性を改善並びにTh17細胞の増殖に働くセグメント細菌を抑制し病原性細菌の数を減少させることが示され、卵殻膜が腸内細菌叢の改善に重要な役割を持つことが明らかになった。そして、腸上皮の修復、エネルギー代謝の改善、粘膜炎症の緩和といった宿主に対する効果をも示すことが分かった。卵殻膜に多く含まれる難消化性タンパク質が食物繊維と同様に腸内細菌叢の改善に働いたと考えられる。
  本研究より、卵殻膜のIBD治療・予防における新たな可能性が見出された。

  ※DAI(disease activity index):大腸炎の重症度を評価する基準。体重、便の硬さ、便潜血で評価。

文献No.49
卵黄ペプチドの抗酸化能、ACE阻害活性(in vitro)

Yousr M et al., Antioxidant and ACE Inhibitory Bioactive Peptides Purified from Egg Yolk Proteins. Int. J. Mol. Sci., 2015, 16(12):29161-78. doi: 10.3390/ijms161226155.

【要旨】

  卵黄レシチン抽出時の副産物である卵黄タンパク質からは、抗酸化や抗高血圧効果といった生理活性のある加水分解ペプチドなどの付加価値物質が得られる可能性がある。
本研究では、卵黄タンパク質から得られた加水分解ペプチドの抗酸化活性およびアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を調べた。卵黄タンパク質加水分解物のゲル濾過画分(EYGF)を得た。これらのうち、EYGF-23およびEYGF-33の2つの画分は、抗酸化活性を示した。抗酸化メカニズムとして、スーパーオキシドアニオンおよびヒドロキシラジカルの捕捉および鉄キレート化を確認した。アミノ酸配列WYGPD(EYGF-23)およびKLSDW(EYGF-33)中のチロシン(Y)およびトリプトファン(W)のような疎水性アミノ酸の存在が、抗酸化活性に寄与し、その活性はBHA(合成抗酸化剤)と同等であった。第三のフラクションEYGF-56は、高いACE阻害活性69%、IC 50値3.35mg / mlを示した。アミノ酸配列SDNRNQGYペプチド(10mg / mL)は陽性対照カプトプリル(0.5mg / mL)と同等のACE阻害活性を示した。さらに、EYGF-33中のアミノ酸配列YPSPVペプチド(10mg / mL)はカプトプリルと比較してACE阻害活性が高かった。
これらの知見は、卵黄から生理活性ペプチドを生産できる可能性が高いことを示しているが、医薬用途や機能性食品に使用するには臨床試験が必要である。

文献No.48
毎日の卵摂取が抗酸化力を高める(介入試験)

Kishimoto Y, et al., The Effect of the Consumption of Egg on Serum Lipids and Antioxidant Status in Healthy Subjects. J. Nutr. Sci. Vitaminol., 2016, 62: 361-365

【要旨】

  卵は栄養価が高く抗酸化物質を豊富に含む食品である。卵の摂取は食事バランスの改善に働くが、血中コレステロールへの影響が懸念されている。本研究では、通常の食事に卵を1日1個追加摂取させて血中脂質および抗酸化指標に及ぼす影響を検討した。日本人の健常男性14名を対象とし、ゆで卵1個を含む朝食を4週間摂取させた。介入により、コレステロール摂取量は有意に増加したが、介入後の血中総コレステロール、LDLコレステロールに変化は無かった。一方、HDLコレステロール濃度は有意に増加し、LDL-C/HDL-C比は有意に低下した。MDA-LDL/LDL比およびLDLの易酸化性も有意に低下した。一方、血中総抗酸化能は介入後に増加した。以上の結果から、通常の食事に加え、卵1日1個を4週間摂取することで、血中脂質に悪影響は与えず、抗酸化指標の改善につながる可能性が示唆された。

文献No.28
卵白ペプチドの抗炎症作用とそのメカニズム(in vitro)

Majumder K et al., Structure and activity study of egg protein ovotransferrin derived peptides (IRW and IQW) on endothelial inflammatory response and oxidative stress. J Agric. Food Chem., 2013, 61:2120-2129.

【要旨】

  卵白オボトランスフェリンから得られるペプチドIRWおよびIQW※は、血管内皮細胞の酸化ストレスとTNFによる炎症を抑制する。本研究では、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)を使用し、そのメカニズムを検討した。血管炎症の進行に関わる接着分子ICAM-1およびVCAM-1の発現は、TNF※の刺激により促進されるが、IRW により抑制された。IQWについては、VCAM-1のみに効果が認められた。また、IRW、IQW両方ともTNFにより産生される活性酸素を減少させた。抗炎症作用のメカニズムとしては、IRW、IQWそれぞれ違った機序でNF-κB経路を介することが分かった。これらの作用について、ジペプチド(IR, IQ, RW, QW)やアミノ酸(I, R, W, Q)では効果がみられなかったことから、トリペプチド構造が必要であることが示された。

※アミノ酸  I:イソロイシン、R:アルギニン、W:トリプトファン、Q:グルタミン
※TNF (tumor necrosis factor), 腫瘍壊死因子。

文献No.19
卵黄ペプチドは抗酸化およびACE阻害活性を有する(in vitro)

Marwa Y et al., Antioxidant and ACE inhibitory bioactive peptides purified from egg yolk proteins. Int. J. Mol. Sci., 2015, 16: 29161-29178, doi:10.3390/ijms161226155

【要旨】

  卵黄タンパク質から精製したペプチドについて、抗酸化能およびアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性について検討した。加水分解卵黄ペプチドを、EYUF-10 (≦10 kDa)、EYUF-5 (≦5 kDa)、EYUF-2 (≦2 kDa)の3つに分画し、抗酸化活性、ACE阻害活性を測定した。特に効果が見られたEYUF-2について、ゲルろ過によりさらに分離したところ(EYGF)、EYGF-23およびEYGF-33画分が効果的に脂質過酸化物質の生成を阻害した。抗酸化メカニズムについては、ヒドロキシラジカルの捕捉や鉄のキレートが関与していた。また、EYGF-23、EYGF-33には、チロシンやトリプトファンのような疎水性アミノ酸が含まれること明らかとなった。ACE阻害活性はEYGF-56で高く、EYGF-56中のSDNRNQGYペプチドおよびEYGF-33中のYPSPVペプチドで特に活性が高かった。本研究の結果より、卵黄タンパク質から、抗酸化およびACE阻害活性を有するペプチドを得られる可能性が示された。

10.その他

文献No.205
有機卵の消費:健康に関連する側面についてのシステマティックレビュー

Arthur Eumann Mesas et al., Organic Egg Consumption: A Systematic Review of Aspects Related to Human Health. Front Nutr. 2022, 9:937959. doi: 10.3389/fnut.2022.937959.

【要旨】

 近年、先進国において有機食品の消費量が増加しているが、有機食品が健康に及ぼす潜在的な影響についての証拠は限定的である。このシステマティックレビューでは、有機卵の消費と健康との相関を調べた科学的証拠をまとめることを目的とした。
 MEDLINE、EMBASE、Web of Science、およびCochrane Libraryのデータベースを基に、2022年4月13日までの有機卵と健康に関する査読論文を検索した。選択基準に従い、有機卵に関する3件の研究を抽出した。このレビューはPRISMA※ガイドラインの推奨に準じている。
 有機卵を8週間摂取させた1例の無作為化交差試験で、非摂取群と比較し血清のルテイン濃度が高値であった。さらに、50歳以上の米国人についての国の代表的データについての横断研究で、有機卵の摂取は炎症マーカーであるCRPとシスチンのレベルの低下と相関した。最後に、0~2歳児についてのコホート研究では、有機卵の摂取と湿疹のリスクとの間に有意な相関は認められなかった。
 結論として、有機卵の消費が健康に良い影響をもたらすという潜在的な証拠はあるが、有機卵の健康上の利点を主張するにはさらなる研究が必要である。有機卵は通常卵より栄養的特性を有することを示す実験研究に基づいて、通常卵よりも望ましい栄養的特性を有することを指摘できるヒトでの研究計画を提案する。

※PRISMA:Preferred Reporting Items for Systematic Review and Meta-Analysis (システマティックレビューおよびメタアナリシスのための優先的報告項目)

文献No.197
日本の高齢者において朝食の低アミノ酸スコアは認知障害の発生率と関連する:コミュニティベースの縦断研究

K. Kinoshita et al., Low Amino Acid Score of Breakfast is Associated with the Incidence of Cognitive Impairment in Older Japanese Adults: A Community-Based Longitudinal Study. J. Prev. Alz. Dis., 2022, 9, 151–157

【要旨】

 タンパク質消化率補正アミノ酸スコア(PDCAAS)は、タンパク質の利用度、すなわちタンパク質の「質」を示す指標である。食品の消化・九州は食事の摂取ごとに進むので、食事のPDCAASはそれぞれの食事について評価する必要がある。タンパク質の摂取と認知機能との間での正相関が報告されているが、食事のPDCAASと認知機能との相関を検討した研究はない。本研究では、高齢者を対象に食事のPDCAASと認知機能障害との関連を調べる4年間のコミュニティベースの縦断研究を実施した。
 認知機能障害がない60~83歳の高齢者541人を対象とし、認知機能障害はMini-Mental State Examination(MMSE)スコア≦27と定義した。開始時の3日間の食事記録から、3食ごとのPDCAASを算出した。被験者は、各食事のPDCAASの性差による三分位値(T1-T3)に準じて2群に分類した(T1を低スコア群、T2-T3を中高スコア群)。4年後に認められた認知機能障害を従属変数、各食事に対するPDCAAS群を説明変数として多変量ロジスティック回帰分析を行い、4年後の認知機能障害について低PDCAAS群を評価した。
 その結果、朝食の低PDCAASと認知障害の発生率との間でのみ有意な相関連が認められた。(朝食、昼食、夕食の認知機能障害に対する低PDCAASの調整オッズ比はそれぞれ1.58[95%CI:1.00-2.50]、0.85[95%CI:0.54-1.34]、1.08[95%CI:0.71-1.65])低PDCAASグループのタマゴ、豆類、魚介類、乳製品の消費量は、中高PDCAASグループよりも有意に低かった(P <0.003)。
 朝食のPDCAASが低い、すなわちタンパク質の質が悪い食事は、高齢者での認知機能障害の発生と相関していた。

文献No.196
RPA-CRISPR/Cas12a法による食品中のサルモネラ菌の迅速かつ簡便な検出法の開発

Li Liu et al., Development of rapid and easy detection of Salmonella in food matrics using RPA-CRISPR/Cas12a method. LWT- Food Sci. Technol., 2022, 162: 113443

【要旨】

 サルモネラ菌は食中毒を引き起こす代表的な病原性菌である。現在、サルモネラ菌検出法のほとんどは、大型の機器や複雑な手順、さらに判定までに長時間を要するため、現場での対応には適していない。この研究では、CRISPR / Cas12aシステムと組換えポリメラーゼ増幅(RPA)を組み合わせることにより、食品中のサルモネラ菌を現場で検出する新しい方法を開発した。Cas12a, CRISPR RNA (crRNA)およびFQ-probeの最適濃度比は1:1:2.5であった。RPA-CRISPR / Cas12a法の検出限界は、 ゲノムDNA(gDNA)で10-4ng /μL、バクテリア液で102CFU/mLであった。加えて、4種の一般的な病原菌との交差反応性を示さなかった。鶏およびタマゴを沸騰する簡単な前処理で現場での要望に叶った。
 鶏およびタマゴでの検出限界は、そのままでは103CFU / mLであったが、37°Cで3時間培養することで10 CFU/mL でも検出可能であった。RPA-CRISPR/Cas 12a法は定量的ポリメラーゼ連鎖反応法(qPCR)と同等であった。本試験法のタマゴにおける感度は、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)法の感度と同等であった。さらに、本法の操作はqPCRよりも簡単かつ迅速であり、サンプルの前処理と3時間の培養を含め、検出全体の工程を4時間以内に完了できた。
 以上より、本方法は、食品中のサルモネラ菌を含む病原性菌による食品の汚染について現場での検査に適用できることが示された。

※参考
わが国でのサルモネラ菌の判定方法は公定法では、前培養、選択培養、鑑別のため判定に最短で約4日必要とする。PCRを利用した迅速法でも約20時間必要であり現場での使用は難しい。なお、Cas12a酵素はトランス切断活性を持ち、DNAを標的とする。したがって、この酵素を使用してターゲットDNAを認識することで、RNA抽出の複雑なプロセスを回避することができる。

文献No.195
タマゴ由来ホスファチジルコリンは、高脂肪食を与えられた雄のウィスターラットのT細胞機能障害を軽減する

Jessy Azarcoya-Barrera et al., Egg-Phosphatidylcholine Attenuates T-Cell Dysfunction in High-Fat Diet Fed Male Wistar Rats. Front. Nutr., 2022, 9: 811469.

【要旨】

 肥満は、T細胞の増殖マーカーであるIL-2の産生低下を特徴とする T 細胞機能の低下などの免疫機能障害と関連している。タマゴでは、コリンはホスファチジルコリン(PC)として含まれていて、IL-2産生を増加させ、授乳期のT細胞機能を向上させることが示されている。そこで、タマゴのPCを含む高脂肪食(HFD)が免疫機能に及ぼす影響を評価した。
 4週齢の雄のウィスターラット( n = 6 )を総コリン量は同じだがコリンの形態が異なる3種類の実験食*1のうちのいずれか1つにランダムに割り付け、9週間飼育した後、安楽死させ、脾臓の免疫細胞表現型をフローサイトメトリーで、脾臓細胞によるサイトカインの産生をphorbol 12-myristate 13-acetate plus ionomycin (PMA+I)、lipopolysaccharide (LPS)および pokeweed (PWM) で刺激し、ELISA 法で測定した。
 免疫細胞表現型の分析の結果、PCHF食を与えたラットでは、CLF食およびCHFと比較して、CD3+細胞の割合が低かった。 生体外でのサイトカイン生産量の測定の結果、PMA+I刺激後では、CLF食およびPCHF食と比較して、CHF食ではIL-2およびTNF-αの割合が少なかった。LPSおよびPWM刺激後のサイトカイン産生量には、群間で有意差は認められなかった。この結果は、高脂肪食の摂取はT細胞応答を損うが、タマゴ-PCの摂取によってT細胞応答の低下が減弱され得ることを示している。
 以上より、雄のウィスターラットにおいて、HFDの摂取はT細胞の機能を低下させるが、抗原提示細胞機能にはほとんど影響を与えないことが示唆された。また、HFDの一部としてタマゴPCを与えることにより、IL-2などのT細胞増殖を促進するTh1サイトカイン産生を増加させ、肥満に関連するT細胞機能の障害が軽減されることを明らかにした。

*1 総コリン量は同じだがコリンの形態が異なる3種類の食餌
 1 – CLF食:Control low fat ( 10% wt/wt fat, 100% free choline (FC))
 2 – CHF食:Control high fat ( 25% wt/wt fat, 100% FC)
 3 – PCHF食:PC high-fat ( 25% wt/wt, 100% PC)

文献No.194
メタボリックシンドローム者の腸内細菌叢と血漿カロテノイドに及ぼす卵の摂取と酒石酸コリンサプリメントとの比較

Minu S. Thomas et al., Comparison between Egg Intake versus Choline Supplementation on Gut Microbiota and Plasma Carotenoids in Subjects with Metabolic Syndrome. Nutrients, 2022, 14(6), 1179

【要旨】

 著者らは、以前にメタボリックシンドローム(MetS)者で、タマゴ3個/日を4週間摂取すると、血漿のコリンが上昇し、炎症を低下させることを示した。本研究では、MetS者において、タマゴ由来のホスファチジルコリン(PC)と酒石酸コリン(CB)サプリメントが、腸内細菌叢、トリメチルアミンN-オキサイド(TMAO)生成および血漿のルテインとゼアキサンチンに及ぼす影響を比較した。
 MetS者23人を対象に無作為化対照クロスオーバー臨床試験を行った。被験者はコリン含有食品を摂取しない2週間のウォッシュアウト期間の後、無作為にタマゴ3個/日またはCBサプリメントのいずれかを4週間摂取するように割り当てた(両群とも400mg /日に相当するコリンを摂取)。糞便サンプルからDNAを抽出し、腸内細菌叢解析のために16SrRNA遺伝子領域の配列を決定した。血漿TMAO、メチオニン、ベタイン、およびジメチルグリシン(DMG)は、タンデム質量分析を併設した安定同位体希釈液体クロマトグラフィーによって定量した。血漿のルテインおよびゼアキサンチンは、逆相高速液体クロマトグラフィーにより測定した。その他、血糖、血中脂質などのバイオマーカーを測定した。
 その結果、ベースラインまたはCBサプリメントの摂取と比較して、タマゴ3個/日摂取群で血漿ルテインおよびゼアキサンチンは有意に増加した(P <0.01)。一方、TMAOはベースラインと比較して両群間で差はなかった(P> 0.05)。さらに、今回のタマゴあるいはCB摂取の両介入とも腸内細菌叢の多様性の測定値(α多様性)や相対的な分類群の存在量(β多様性)には影響を与えなかった。細菌の多様性と代謝パラメーターの間の相関分析を行ったところ、腸内細菌叢の生物多様性と血漿HDL濃度の間に正相関が観察された(r = 0.79、P <0.01)。
 タマゴ摂取後での血漿ルテインとゼアキサンチンの増加は、MetSに共通して認められる酸化ストレスを付加的に保護することを示唆している。

文献No.193
ルテインとドコサヘキサエン酸を強化したタマゴの摂取は、健康な高齢者の網膜機能を改善する(カナダ)

Chelsey Walchuk et al., Lutein and docosahexaenoic acid enriched egg consumption improves retina function in healthy Caucasian older adults. Journal of Funcyional Foods. 2022, 89, 104913

【要旨】

 抗酸化ビタミン、ミネラル、カロテノイドなどの特定の栄養素の摂取は網膜の健康に寄与することが分かっている。また網膜にはDHAが高濃度に含まれることから、網膜の機能と発達にはDHAの役割が不可欠であることが示唆されている。本研究は、ルテインとDHAを強化したタマゴの摂取が、加齢性眼疾患のリスクを抱える高齢者の視覚機能を改善できるかどうかを調べることを目的とした。
 30人の白人高齢者(64.0±3.4歳)が、強化卵を毎日2個(ルテイン0.87mg/日、DHA220mg/日)、6週間摂取した。0日目、3週目および6週間目に、血漿DHA、血漿ルテイン、脂質プロファイルおよびリポタンパク質サブフラクションを分析した。また0日目と6週間目に全視野網膜電図によって網膜機能を測定した。
 その結果、6週間目では桿体光受容体細胞の反応(暗所視のa波の最大振幅)と錐体駆動の網膜内細胞の反応(明所視のb波の最大振幅)が0日目と比較して有意に改善し(P < 0.001)、血漿DHA濃度が35.4%増加した(P < 0.001)。血漿脂質パラメータ、血漿ルテインおよびLDLサブフラクションには有意な変化はなく、大きいサイズのHDL粒子が有意に増加し、中間サイズのHDL粒子が減少した。全体として、ルテインとDHAを強化したタマゴの毎日2個の摂取は、白人の高齢者において血漿脂質パラメータに悪影響を与えることなく、電気生理学的網膜機能を改善することが分かった。
 タマゴにユニークな脂質構成は、ルテインやDHAを含む脂溶性栄養素の吸収能力の増加を可能にする。安全で手頃な濃縮卵を食事に取り入れることで、加齢に伴う網膜の変性を防ぎ、加齢性黄斑変性症などの加齢に伴う目の悪化のリスクを減らすことができる。

文献No.190
EPIC-スペインでの認知症コホートにおけるタマゴの摂取量と認知症リスクとの関連

Hernando J. Margara-Escudero et al., Association Between Egg Consumption and Dementia Risk in the EPIC-Spain Dementia Cohort. Front Nutr. 2022, 9:827307

【要旨】

 ルテインやホスファチジルコリンなどのタマゴの成分は、認知症に対してプラスの影響を与える可能性があることが報告されている。我々は、タマゴの消費量に大きなばらつきがある地中海沿岸住民を対象に、タマゴの消費量と総認知症のリスクおよびアルツハイマー型認知症(AD)のリスクとの関連を明らかにすることを目的とした。
 本研究は、European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition (EPIC)-スペイン認知症コホートの3施設のデータを使用した。1992年から1996年にリクルートされた30歳から70歳の25,015人の参加者を対象に、平均21.5年間追跡調査を実施した。この期間中に、774人が認知症と診断され、うち518人がADであった。タマゴの消費量に関するデータは、募集時に検証された食事歴調査法で評価した。解析には、交絡因子で調整したCox比例ハザードモデルを使用した。
 タマゴの消費量を四分位に分けて解析した結果、認知症総リスク(Q4 vs. Q1:ハザード比HR=1.05;95% CI 0.85-1.31; P-trend=0.93)、ADリスク(Q4 vs. Q1: HR=0.93; 95% CI 0.72-1.21; P-trend = 0.50)のいずれとも関連性は認められなかった。地中海食への相対的な遵守度(rMEDスコア*)に準じて集団を分けた解析では、rMEDスコアが低遵守度の参加者で認知症総リスク(Q4 vs.Q1: HR=0.52; 95% CI 0.30-0.90; P-trend = 0.10) およびADリスク(Q4 vs. Q1: HR=0.52; 95% CI 0.27-1.01; P-trend = 0.13) の両方でタマゴ消費量との逆相関が認められた。しかし、rMEDスコアの遵守度が中程度と高遵守の参加者では、相関は認められなかった。
   この前向き研究では、タマゴの消費がrMEDスコアの低い成人集団における認知症、特にADのリスク低減と相関することが示唆された。一方、遵守度が中程度および高い集団においては、タマゴの摂取量は影響を及ぼさなかった。

* rMEDスコア(relative Mediterranean diet score):相対的な地中海食パターンの遵守度を評価したスコア。0~18点で評価する。0~6点を低遵守、7~10点を中程度遵守、11~18点を高遵守とした。rMEDスコアは、6つの肯定的な要素(果物、野菜、オリーブオイル、豆類、魚、穀類)と、2つの否定的な要素(肉類、乳製品)、およびアルコールの9つの要素に基づいて算出。

文献No.185
タマゴの摂取は、炎症性、代謝性および酸化ストレスマーカーを高めることなく、血管および腸内細菌叢の
機能を改善する

Xiang Liu et al., Egg consumption improves vascular and gut microbiota function without increasing inflammatory, metabolic, and oxidative stress markers. Food Sci. Nutri. 10 (1):295-304 ,2021

【要旨】

 タマゴの摂取はコレステロール摂取と循環器疾患(CVD)とを結び付ける証拠に見られる多くの不一致の一例でもある。さらに、腸内細菌叢とその代謝物であるトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)は、CVDの発症に重要な役割を果たすことが明らかにされている。タマゴにはTMAOの前駆体となるコリンが多く含まれていることから、タマゴの過剰摂取は腸内細菌叢を変化させ、TMAOの産生を増加させる可能性が考えられる。しかし、タマゴの摂取が血管機能や腸内細菌叢に及ぼす影響については、依然として不明な点が多い。
 本研究では、9人の男性被験者(29±1歳)の食事に、毎日2個のゆでタマゴ(コレステロール含有量:460-500㎎)を2週間にわたり添加した。介入の前後において、血管の機能性、炎症性(CRP)、代謝性(グルコース、脂質)、酸化ストレスマーカー(MDA、SOD)および腸内細菌叢の変化を調べた。
 タマゴの摂取は血流依存性血管拡張反応を高め、上腕-足首脈波伝播速度を低下させた。さらに、腸内細菌の機能を好ましい方向に就職したが、CRP、グルコース、脂質プロファイル、MDA、SOD、あるいはTMAOのレベルには影響しなかった。
 今回の試験で、タマゴの摂取は血管機能を改善させたが、それは腸内細菌叢の変化と関連するようであった。したがって、CVDや他の代謝疾患リスクが低い人では、適度のタマゴの摂取は血管および庁の機能性の改善に役立つようである。

文献No.180
卵の摂取が黄斑色素と視覚の健康に及ぼすプラス効果:システマティックレビューとメタ解析

Sikaroudi MK et al., A positive effect of egg consumption on macular pigment and healthy vision: a systematic review and meta-analysis of clinical trials, J Sci Food Agri., 2021 15;101(10):4003-4009.

【要旨】

 黄斑部のルテインとゼアキサンチンの濃度が高まると、黄斑色素光学密度(MPOD)※1が上昇し、加齢黄斑変性症(AMD)※2のリスクを低減することが知られている。本研究は、ルテインとゼアキサンチンの豊富な供給源である卵の摂取が、MPODと血清ルテイン濃度に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
本研究のシステマティックレビューとメタ解析では、2020年7月までのPubMed、ScopusおよびISI Web of Scienceを検索し、関連する無作為化介入試験について調査した。ランダム効果モデルを用いて、各アウトカムの加重平均差、および標準偏差(SD)を求めた。研究の質はCochrane Collaboration’s toolで評価した。
 検索の結果、508件の論文が見つかり、最終的に5件の論文が該当した。5件の試験 (296名)のメタ解析により、卵の摂取はMPODを有意に高め(加重平均差、WMD): +0.037; 95% CI: 0.004, 0.069; P = 0.027)、さらに血清ルテイン濃度をも有意に上昇させること(WMD: +0.150 mol L-1; 95% CI: 0.037, 0.263; P = 0.009)が認められた。層別解析において、 卵の摂取は、(a)パラレルデザインの研究で卵の摂取がMPODの増加に与える影響が大きいこと並びに(b)健康な人で卵摂取による血清ルテインの上昇効果が大きいことが認められた。研究間の異質性は認められなかった。
卵の日常的な摂取はMPODと血清ルテインの上昇をもたらし、加齢黄斑変性症のリスク低減効果が期待できる。さらなる介入試験で、本研究の結果を確認する必要がある。

※1 黄斑色素光学密度(MPOD):眼の中にあるルテインおよびゼアキサンチンの密度。MPODのスコアが高いということは、光ストレスからの回復が早い、コントラスト感度が高いなど眼が健康であることを意味する。
※2 加齢黄斑変性症(AMD):眼の黄斑部が加齢等の原因で変化し、視力の低下を引き起こす疾患。

文献No.179
卵の摂取は健常な高齢者の記憶力低下を緩和する(コホート研究)

Lee GJ et al., Egg intake moderates the rate of memory decline in healthy older adults. J Nutr Sci. 2021, 21, 10:e79. doi: 10.1017/jns.2021.76.

【要旨】

 卵にはコリン、ルテイン、トリプトファンなど重要な認知機能向上成分が含まれているが、卵の摂取が高齢者の記憶力低下に直接影響を与えるかどうかは明らかになっていない。本研究では、卵の摂取量が健常な高齢者の記憶力低下に関連するかを調べることを目的とし、社会人口統計学的特性および食事因子を調整した解析を行った。米国でのBiospsychosocial Religion and Health Studyの参加者のうち50歳以上の470名のデータについて解析し、食物摂取頻度調査票(FFQ)より算出された卵摂取量に基づき、低(23 g未満/週、卵半分程度)、中(24~63 g/週、卵半分~1個半程度)および高(63 g以上/週、卵1.5個以上程度)の3分位に分類した。参加者には、2006-2007年にカリフォルニア言語記憶評価テスト第2版(CVLT-II)を実施し、2010-2011年には294名について再テストを実施した。
 線形混合モデルを用いた反復測定分析を行った後、年齢、性別、人種、教育、肥満度、心血管リスク、うつ病および肉・魚・乳製品・果物/野菜の摂取量を調整した結果、横断的な解析では卵の摂取量の違いによるCVLT-IIの成績に有意差は認められなかった。しかし縦断的に見ると、年齢と卵摂取量には有意な相互作用があり、中摂取群は低摂取群に比べてCVLT-IIのスコア低下が有意に抑えられた(β=0.018, 95%CI:0.0000-0.0342, P =0.043)。また、卵の高摂取群では統計的に有意ではないがスコアの低下が抑えられた。
 以上のように、週1個程度の卵の摂取は卵の摂取が僅かあるいは摂取しない場合に比べて、加齢に伴う記憶力低下の遅延と相関したが、用量依存性は明確ではなかった。本研究は、他の食物摂取量や危険因子について調整していない先行研究における矛盾点を説明するのに役立つと考えられる。

文献No.173
6歳時の朝食の摂取習慣と12歳時の認知機能の関連:縦断コホート研究

J Liu et al., Breakfast Consumption Habits at Age 6 and Cognitive Ability at Age 12: A Longitudinal Cohort Study. Nutrients. 2021, 13, 2080.

【要旨】

 長期にわたる習慣的な朝食摂取と認知機能との関連を調査するため本研究を行った。対象者は中国でのJintan Cohort study に参加した子供で、6歳児を6年間追跡した。解析対象者数は横断研究835名、縦断研究511名。朝食の摂取状況は6歳および12歳時において保護者が自記式質問票により回答した。認知能力は6歳および12歳時におけるIQ(ウェスラー知能検査中国版)および12歳時点での学力(中国版の標準化学校報告書)により評価した。多変量一般線形モデルと混合モデルを用いて、朝食の摂取量、朝食の構成と認知機能の関係について解析した。
 6歳時点での朝食の摂取頻度に基づいて2群に分け、縦断解析を行った。4日/週以上の朝食摂取習慣がある者は全体の94.7%であった。共変量で調整した多変量混合モデル解析の結果、朝食の摂取頻度が低い場合(3日/週以下)と比較し、習慣的な朝食の摂取では言語テストおよびIQスコアが有意に高かった(P <0.05)。
 12歳時点での横断解析においては、朝食に穀類を6~7日/週摂取した場合、穀類0~2日/週の摂取と比較して言語で3.56 点、パフォーマンスで3.69点およびIQで4.56点高く、認知機能が有意に高かった(P <0.05)。また、朝食に肉・卵を習慣的に摂取している者は学業成績が有意に高かった(平均値差=0.232、P =0.043)。果物・野菜および乳製品の摂取と認知機能には関連は見られなかった。
 以上より、朝食の摂取習慣がIQの高さと相関していることや、穀類や肉・卵類を高頻度で摂取すると子供の認知機能が高まることと相関する可能性が示された。

文献No.169
卵白タンパク質摂取によるクレンブテロール投与あるいは非投与の若齢ラットの骨格筋増大の促進(動物実験)

K. Koshinaka et al., Egg White Protein Feeding Facilitates Skeletal Muscle Gain in Young Rats with/without Clenbuterol Treatment. Nutrients, 2021, 13(6), 2042.

【要旨】

 卵白タンパク質(EWP)は、DIAAS※1によると、筋肉増強効果作用が知られるロイシンの含有量が少ないにも関わらず、ホエイタンパク質(WHE)と同等の優れたスコアを有している。
 本試験では、EWPの摂取がラットの骨格筋増加に及ぼす影響を、一般的な動物性タンパク質であるカゼイン(CAS)およびホエー(WHE)と比較した。試験には同化作用の効果が強いクレンブテロールを投与あるいは非投与の若齢ラットを用いて、各食事の単回摂取時および長期摂取時(7日間)のロイシンの筋肥大効果に関連するシグナルにも着目した。またEWPが同化ホルモン分泌促進で知られるアルギニンを多く含むタンパク質であることから、アルギニン量を揃えた食事の試験も通常の若齢ラットで実施した。
 結果:クレンブテロール投与の有無に関わらず、EWPはCASやWHEよりも骨格筋を有意に増加(p <0.05)させ、その効果はEWPがアルギニンを多く含むことに依存しないことが分かった。またEWPによる筋力増強効果のメカニズムでは、クレンブテロール投与の有無に関わらずロイシンに関連して増加するmTOR(mechanistic target of rapamycin)やインスリンといったシグナルが検出されないことが明らかになった。
 以上より、卵白タンパク質(EWP)は他の一般的な動物性タンパク質と比較して筋肉増強効果が優れていると結論できる。

※1)Digestible Indispensable Amino Acid Score(消化性必須アミノ酸スコア)

文献No.165
短期間の全卵摂取による主要代謝経路修飾のRNAシーケンスを用いた解明(動物実験)

Bries AE et al., RNA Sequencing Reveals Key Metabolic Pathways Are Modified by Short-Term Whole Egg Consumption. Front Nutr. 2021, doi: https://doi.org/10.3389/fnut.2021.652192

【要旨】

 卵はタンパク質が豊富で栄養価が高いだけでなく、遺伝子発現の調節や健康に影響を与える生理活性物質も含んでいる。
 本試験では卵の摂取による組織特異的なmRNAとmiRNAの発現への影響を明らかにするために、ラット(n=12)に全卵を含む介入食と、カゼインを含む対照食(それぞれタンパク質20%(w/w))を2週間与えた。そして、前頭葉皮質(PFC)、内臓脂肪組織(VAT)への影響を主成分分析と階層的クラスタリングを用いて、食事の違いによるトランスクリプトームプロファイルを解析した。さらに統合データベースであるGene OntologyとKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG)によるパスウェイ解析,遺伝的ネットワークと疾患のエンリッチメント解析を実施し、各組織においてどの代謝経路が最も変化しているかを調べた。
 介入試験の結果、PFCでは52の遺伝子、VATでは22の遺伝子の発現に変化が見られた(調整 p < 0.05)。そして全卵摂取によって影響を受ける主な経路は、VATのグルタチオン代謝とPFCのコレステロール生合成であった。また、16種類のmiRNAがPFC、VATで異なる発現制御を受けていることが分かったが、いずれも多重検定による補正後には確認されなかった。
 これらの結果、短期的な全卵の摂取によって影響を受ける経路は諸疾患の発症にかかわっており、主要な経路が影響を受けることを指摘している。

文献No.153
n-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)強化卵の摂取が白血球の活性化と抗酸化能に及ぼす影響:無作為化
二重盲検試験

Sangsefidi ZS et al., Leukocyte Activation and Antioxidative Defense Are Interrelated and Moderately Modified by n-3 Polyunsaturated Fatty Acid-Enriched Eggs Consumption—Double-Blind Controlled Randomized Clinical Study. Nutrients. 2020. doi: 10.3390/nu12103122.

【要旨】

 n-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)の摂取は血管内皮機能を改善することや免疫機能を調節することが知られているが、その効果を観察できるn-3PUFAの有効量は分かっていない。本研究では、n-3PUFAを低量あるいは中程度量を含む卵の摂取が血管内皮機能、白血球の活性化マーカー、ならびに抗酸状況に及ぼす影響を調べた。
 健常な若年男女20名(18~30歳)を2群に無作為に割り付け、通常卵2個(n-3 PUFA約75mg/日)あるいはn-3 PUFA強化卵2個(n-3 PUFA約407mg/日)を3週間摂取させた。試験開始前後にレーザードップラーフロー血流計による血管内皮機能測定と、血液検査により血清脂質プロファイル、白血球活性化マーカー、および抗酸化酵素活性を測定した。
 その結果、白血球活性化マーカーのCD11a/LFA-1および抗酸化的防御機能について試験食摂取前後で有意な改善(P<0.05)が認められ、この傾向は強化卵でより顕著であり(P<0.05)、栄養的に強化した卵の摂取が酸化的なバランスに関わる生理学的機構に関与する可能性が示された。しかし、n-3 PUFAを約1 g含む機能性卵についての著者らの以前の研究の結果とは異なり、低量ないし中程度量のn-3 PUFAの摂取では微小血管の反応性に有意な変化が認められず、用量応答性が示唆された。少なくとも、強化卵2個を毎日摂取しても血清のn-3およびn-6PUFAの濃度にほとんど影響せず、皮膚微小血管の反応性にも影響をしないことが示された。

文献No.152
急性虚血性脳卒中後のコリン経路の栄養素および代謝物と認知機能障害

Zhong C et al., Choline Pathway Nutrients and Metabolites and Cognitive Impairment After Acute Ischemic Stroke. Stroke. 2021. doi: 10.1161/STROKEAHA.120.031903.

【要旨】

 コリンの代謝は神経系やアテローム性動脈硬化症の発症に関与することが示唆されている。しかし、コリン経路の栄養素や代謝物が脳卒中後の認知機能障害に及ぼす影響についてはほとんど知られていない。著者らは、急性虚血性脳卒中患者における血漿コリン、ベタインおよびトリメチルアミンN-オキサイド(TMAO)と認知機能障害との関連性について検討する前向き研究を実施した。
 本研究では、CATIS(China Antihypertensive Trial in Acute Ischemic Stroke)に参加した被験者のうち認知機能に関する追跡調査を行った617人のデータを対象とした。コリン代謝物である血漿コリン、ベタインおよびTMAOの濃度はベースライン時点の測定値を、認知機能障害はMini-Mental State ExaminationとMontreal Cognitive Assessmentを用い評価した。コリン代謝物の血中濃度と、虚血性脳卒中後の認知機能障害のリスクとの関連性は、コリン代謝物の血中濃度を三分位に分けてロジスティック回帰を用いて解析した。
 試験対象者の血漿コリンおよびベタイン濃度と認知機能障害と逆相関し、リスク(調整オッズ比、OR)は、第一分位と第三分位を比較してMini-Mental State Examinationではそれぞれ0.59(95%CI:0.39-0.90)および0.60(0.39-0.92)、Montreal Cognitive Assessmentでも同様の有意な関係が認められた。一方、血漿中TMAO濃度と認知機能障害リスク(1標準偏差[SD]上昇ごとのオッズ比)は、Mini-Mental State Examinationで1.33(95%CI:1.04-1.72)で認知機能障害と正相関していた。
 以上の結果より、コリンやベタインの血中濃度レベルが高いと急性虚血性脳卒中後の認知機能障害のリスクが低かったことから、脳卒中後の認知機能障害に対しコリン経路の栄養素が予防効果を示す可能性が支持された。

文献No.144
卵白加水分解物は精神疲労を軽減する:無作為化二重盲検試験

Oe M et al., Egg white hydrolyzate reduces mental fatigue: randomized, double-blind, controlled study. BMC Research Notes.2020. doi:10.1186/s13104-020-05288-8.

【要旨】

 卵白加水分解物(EWH)には、血圧上昇抑制作用、抗酸化作用、抗炎症作用などの生理機能があるが、この機能のうち抗酸化作用は運動後の疲労軽減に深く関わっていると考えられている。そこで、EWHの血液中での抗酸化能および疲労軽減機能を調べるために日本人大学生(自転車競技クラブ所属)を対象に2つの臨床試験を実施した。
 試験1では19名のアスリート学生にEWH(5g/日)を含むジェリー飲料またはプラセボ飲料を1回摂取させるクロスオーバー試験を行い、運動前後の血中酸化ストレス指数(d-ROMs)、抗酸化能(BAR)および疲労度(VAS)を評価した。試験2では74名のアスリート学生をEWH(5g/日)群とプラセボ群に無作為に割り付け、2週間にわたってトレーニング前に継続して摂取させ、摂取前および摂取後1、2週間の疲労度(BAP、CFS)を評価した。
 試験1の結果、酸化ストレスおよび疲労度には有意差は認められなかったが、抗酸化能についてEWH群はプラセボ群と比較して有意な高値を示した(P<0.05)。試験2の結果、総合疲労および肉体疲労には有意差が認められなかったが、精神疲労はEWH群でプラセボ群と比較して有意な低値を示した(P<0.05)。以上の結果から、EWHの単回摂取は抗酸化能を向上させ、2週間の継続的な摂取は精神疲労を軽減させることが示唆された。

文献No.140
高齢者における食習慣と睡眠の関連性(9年間の追跡コホート研究)

Fan H et al., Associations of dietary habits and sleep in older adults: a 9-year follow-up cohort study. Eur Geriatr Med.2020. doi:10.1007/s41999-020-00377-0.

【要旨】

 中国では近年高齢者人口が急増し、慢性疾患の有病率増加や高齢者の不眠症などの睡眠関連の課題に直面している。そこで、この研究では、食生活がもたらす睡眠の質および睡眠時間への長期的な影響を調べた。中国健康寿命縦断調査(CLHLS)から、60歳以上の中国人高齢者62,552人の9年間(2005年‐2014年)の食生活、睡眠の質、睡眠時間に関するデータを得た。食生活に関して、果物、野菜、肉、卵の食物摂取頻度と睡眠との関連を評価した。その結果、毎日の果物、肉、卵の摂取は、睡眠の質と明確に関連していた(P<0.05)。野菜摂取は十分な睡眠時間と関連していた(P<0.0001)が、睡眠の質とは関連していなかった。Cox比例ハザードモデルを用いて卵と睡眠の関連を評価した結果、めったに摂取しないおよび全く摂取しない人に比べて、毎日摂取する人の睡眠の質が有意に10%増加した(ハザード比 HR=1.10, 95%CI :1.05-1.15)。
  以上の結果から、高齢者は睡眠の質と睡眠時間が食習慣に関連していることを認識し、果物、肉とともに卵の摂取に留意すべきである。

文献No.134
母親の血中コリン濃度と呼吸器感染症が出生児の脳の発達へ及ぼす影響(症例対照研究)

Freedman R et al., Maternal choline and respiratory coronavirus effects on fetal brain development. J. Psychiatr. Res., 128:1-4(2020)

【要旨】

 米国の疾病予防管理センターは、母体が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすウイルス(2 SARS-CoV-2)に感染すると、他の一般的な呼吸器コロナウイルスの場合と同様に、母体の炎症反応を介して胎児の発育に影響すると予測している。コリンは、神経伝達と脳の発達に必要な栄養素であり、米国では妊娠期の女性に対して、適切な摂取を推奨している。さらに、感染症の妊婦では血中コリン濃度が高いと、母体の炎症反応から胎児の脳の発達を保護する可能性が報告されている(文献No.133参照)。
 本研究では、母親の血中コリン濃度とウイルス性呼吸器感染症が出生児の脳の発達に及ぼす影響との関係を検討するために、妊娠6〜16週目の期間にウイルス性呼吸器感染症と診断された43人の母親と、非感染の53人の母親を対象に、妊娠16週目に血中コリン濃度を測定した。その後新生児について生後3ヵ月の時点で、改訂乳幼児行動チェックリスト(IBQ-R)法による乳児の反応や自己制御について母親にアンケート調査を実施した。
 ウイルス性呼吸器感染症に感染し中程度の症状が出た母親のうち、妊娠中の血中コリン濃度が高いと(≥7.5 μM)、低い場合(<7.5 μM)に比べて、乳児のIBQ-Rスコアでの注意力の維持などの項目で有意に高いことが観察された(P<0.001)。さらに妊娠中の血中コリン濃度が高かった母親の乳児は、感染していない母親の乳児と比較してもIBQ-Rスコアに差はなく、感染による影響は認められなかった。
 以上の結果より、食事やサプリメントによって血中コリン濃度を上げれば、妊娠初期の母体のウイルス感染による胎児の脳の発達を保護する可能性があることが示唆された。

文献No.133
感染症の母親において妊娠中の血中コリン濃度が高いと、胎児の脳の発達を保護する(症例対照研究)

Robert Freedman et al. Higher Gestational Choline Levels in Maternal Infection Are Protective for Infant Brain Development. J. Pediatr, 208:198-206 (2019)

【要旨】

 本研究は、産科病院および助産婦施設を対象に、妊娠16週目の時点での母体の血中コリン濃度と妊娠中の感染症が新生児の脳神経回路および自己制御機能の発達との関連性について調査した症例対照研究である。
 調査に参加した母親201人のうち41%が妊娠16週の時点で感染症に罹患し、炎症指標であるCRP値が有意に高値で(P=0.002)、1ヵ月齢での大脳による聴覚応答阻害の発生が低減した(P<0.001)。母親の血中コリン濃度と出生児の発達を評価した結果、感染症に罹患した母体の血中コリン濃度が高いほど、新生児の脳神経回路の発達の評価指標となる聴性誘発電位が低く、感染の影響を軽減した(β= -0.34 [95%CI、-5.35〜-0.14]、P= 0.002)。また、感染症に罹患したが血中コリン濃度が高かった母親の子供では、3ヵ月齢時点での自己制御行動の発達を評価する改訂乳幼児行動チェックリスト(IBQ-R)指標は非感染の母親の子供と同等レベルであった(β= 0.29 [95%CI 、0.05~0.54]、P= 0.03)。
 これらの結果より、妊娠中に感染を経験した母親の小児でも、母親の血中コリン濃度が高いと優れた行動発達が認められた。妊娠16週では、血中コリン濃度が最も低いとも報告されており、米国医師会からはコリンを出産前に摂取すべき栄養素として推奨している。

文献No.130
健康な米国人の若者では、卵由来のコレステロール摂取に対する応答性には個人差があるが、
カロテノイドおよびコリンの濃度は影響を受けない(介入試験)

DiMarcoet DM al., Differences in response to egg-derived dietary cholesterol result in distinct lipoprotein profiles while plasma concentrations of carotenoids and choline are not affected in a young healthy population. J. Sci. Food Agric., 2019, doi: 10.1016/j.jafr.2019.100014.

【要旨】

 コレステロールを含む食品を食べても血中コレステロール値が上昇しやすい人(ハイパーレスポンダー)と上昇しにくい人(ハイポレスポンダー)が存在することが明らかになっている。本研究では、卵に含まれるコレステロールの摂取に対する応答性の違いが、卵の栄養成分であるルテイン、ゼアキサンチンおよびコリンの利用性にどう影響するかを検討した。
 本介入試験は、試験開始2週間前から卵を摂取させなかった36名の健康な若者(18歳から30歳までの男女)を対象に3個/日の卵を4週間負荷した。
 血中コレステロールが上昇しやすい人(ハイパーレスポンダー)は36名中12名だった。ハイパーレスポンダーはハイポレスポンダーと比較して、総コレステロール、LDLおよびHDLコレステロールが優位に高かったが(P <0.001)、LDL/HDL 比および動脈硬化原生が高い小型のLDLには変化はなかった。また、すべての被験者で卵の摂取により大型のHDLが上昇した。卵に含まれるルテイン、ゼアキサンチンおよびコリンの吸収効率は食事コレステロールに対する応答性とは無関係で、介入前と比較して卵3個/日の介入によりすべての被験者で有意に高まった(P <0.001)。
 以上のことより、卵摂取によるカロテノイド(ルテイン・ゼアキサンチン)、コリンの血中濃度上昇は、血中コレステロール応答の違いとは無関係であることが示された。カロテノイドの抗酸化能やコリンの認知機能に対する役割を考慮すれば、卵が健康な食事の重要な要素になりえることが示唆された。
※HDLも大型のものはコレステロール代謝の面で機能性に優れていることが知られておる。なお、カロテノイドはHDLとして血流中を運ばれている。

文献No.128
卵黄リン脂質由来のコリンは酒石酸コリンよりも効率よく吸収される (介入試験)

Smolders L et al., Natural choline from egg yolk phospholipids is more efficiently absorbed compared with choline bitartrate; outcomes of a randomized trial in healthy adults. nutrients, 2019, 11(11), 2758.

【要旨】

 コリンは必須栄養素でありサプリメントや乳児用調合乳などにはコリン塩が使用されているが、リン脂質など自然な形でコリンが存在する場合には、より効率的に吸収される可能性がある。この研究では、リン脂質態の天然型コリンと酒石酸コリンの吸収効率を比較するため、18名の健常成人(男性7人、女性11人)を対象とした無作為化二重盲検クロスオーバー試験を実施した。リン脂質態の天然型コリン3gを含む卵黄リン脂質飲料あるいは酒石酸コリン3gを含む対照飲料を摂取し、摂取前および摂取 30, 60, 120, 240, 360分後の血中コリン、ベタイン、ジメチルグリシン濃度を測定した。その結果、卵黄リン脂質として摂取した場合、酒石酸コリンと比較し血中コリンの曲線下面積は有意に大きく、コリンの吸収率が高かった。(P <0.01)また、コリン代謝物であるベタイン、ジメチルグリシンでも同様の結果であった。
 以上の結果から、卵黄リン脂質としての天然型コリンは、化学的に製造された酒石酸コリンと比較してよりよく吸収されることが示された。コリン塩に代わり、卵黄リン脂質としてコリンを添加することで、コリンの吸収が高まり健康に寄与すると判断される。

文献No.123
卵由来コリンと認知症リスクおよび認知機能との関係(コホート研究)

Ylilauri MPT et al., Associations of dietary choline intake with risk of incident dementia and with cognitive performance: the Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study. Am J Clin Nutr. 2019. doi: 10.1093/ajcn/nqz148.

【要旨】

 適度な卵の摂取は、認知機能の向上と関連していることが報告されている。特に、卵黄由来のコリン(以下、ホスファチジルコリン:PC)は神経伝達物質の前駆体として必要であり、認知症を予防するための成分として期待されている。本研究では、東フィンランドのクオピオ虚血性心疾患危険因子研究(Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study)に参加した認知症のない42~60歳の男性、計2,497人を解析対象とし、卵由来コリンと認知症発症リスクとの関連について調べた。
 被験者は21.9年間のフォローアップの間に、337人が認知症と診断され、うち266人がアルツハイマー型認知症と診断された。食事調査は、開始時に4日間の食事内容記録から解析した。被験者の総コリン摂取量は平均431mg/日、そのうち188mg/日は卵由来PCだった。被験者が食事から摂取するPC量が144mg/日未満の群と比較して、222mg/日以上の群の認知症リスクは28%低いことが示された(ハザード比HR=0.72, 95%CI:0.52-0.99) 。一方で総コリン摂取量は認知症の発症リスクとの関連はみられなかった。また、総コリン摂取量とPC摂取量が多い群では、記憶力と言語能力のテストのスコアが高かった。認知症の主要な危険因子であるアポリポタンパク質Eɛ4(APO-E4)遺伝子保持者についても関連を調べたが、結果にはほとんど影響がなかった。以上より、これまでに報告されている卵摂取と認知機能の向上との関連は、卵のコリン、特にPCによるものである可能性が示唆された。

文献No.122
卵アレルギーの治療における熱変性卵による治療方法(症例対照研究)

Gotesdyner L et al., A structured graduated protocol with heat denatured eggs in the treatment of egg allergy. Pediatr Allergy Immunol. 2019. doi: 10.1111/pai.13115.

【要旨】

 卵アレルギーを持つほとんどの子どもは、よく加熱した卵焼き(熱変性卵)を食べることができる。しかし、熱変性卵を用いた卵アレルギーの治療方法に関するコンセンサスは存在しない。
 本研究では、熱変性卵を段階的に食べさせる治療方法(SGEP)の有効性と安全性を症例対象研究にて評価するために、SGEPで治療された2歳未満の卵アレルギーの子どものグループと、卵を全く食べないように治療された子どものグループを比較した。
月齢中央値16ヵ月の39名の卵アレルギーの子どもをSGEPにて治療し、月齢中央値39ヵ月まで追跡調査した。対照群として、少なくとも2歳までは厳密に卵を除去していた卵アレルギーの子ども80名を追跡調査した。
 SGEP治療群の卵アレルギーが治癒した月齢中央値は24ヵ月(95%CI 19.5 – 28.5ヵ月)であったが、対照群では78ヵ月(95%CI 53 ‐ 102ヵ月)だった(P < 0.001)。試験終了時にSGEP治療群の82%は軽く調理された卵に耐性があったが、対照群では54%であった(p = 0.001)。
 熱変性卵を段階的に食べさせる治療方法は、卵を除去する治療方法と比較し、卵アレルギーが早期治癒することがわかった。

文献No.117
米国国民健康栄養調査(2007-2010)に基づくコリン摂取と血圧の関係

Taesuwan S et al., Relation of choline intake with blood pressure in the National Health and Nutrition Examination Survey 2007?2010. Am J Clin Nutr, 109(3):648-655.

【要旨】

  卵はコリンの重要な供給源である。食事由来コリンの腸内微生物依存性代謝物であるトリメチルアミン由来のトリメチルアミンオキサイド(TMAO)については、循環器疾患との関連性が報告されている。本研究は2007-2010年の米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)データを用いて20歳以上の非妊娠者を対象に検討した横断研究で、循環器疾患のリスク要因となる血圧とコリン摂取の関連について検討している。コリン摂取量は24時間食事思い出し法、血圧は質問票および測定値を用いて評価した。
  その結果、コリン摂取量と高血圧の有病率との間の相関には性別による差があり(N=9227;P-interaction=0.04)、女性では、コリン摂取量と高血圧の有病率が逆相関する傾向であった(N=4748;コリン摂取量100mgあたりオッズ比OR=0.89 ; 95%CI : 0.77-1.02 P-trend < 0.10)。男性では関連性は観察されなかった(N=4479 ; コリン摂取量 100 mgあたりOR=1.03 ; 95%CI : 0.95-1.12 P-trend=0.54)。コリンサプリメントの摂取量と高血圧の有病率については、男女ともに逆相関していた(N=9227 ; 摂取群と非摂取群の比較においてOR:0.68; 95%CI:0.49-0.92 P-trend=0.01)。コリン摂取量と収縮期、拡張期血圧との間には、ほとんどあるいはまったく相関は認められなかった(N=6,554、コリン摂取量100 mgあたり収縮期血圧変化量-0.26±0.22 mm Hg P-value=0.23, 拡張期血圧変化量-0.29±0.19 mm Hg)。結論として米国国民健康栄養調査データを用いた評価では、コリンの摂取量が多いほど高血圧の有病率を上昇させるという仮説は支持されなかった。

文献No.116
卵の摂取と慢性腎疾患(総説)

Tallman DA et al., Egg Intake in Chronic Kidney Disease. Nutrients. 2018;10(12):1945. doi: 10.3390/nu10121945.

【要旨】

  世界の人口のほぼ 10%が慢性腎疾患(CKD)に罹患している。CKD 患者は腎臓病の重症度や病期に応じて食事療法を厳守するように医師から指導されている。CKD 患者では腎不全の進行を遅らせるために、リン酸やカリウムなどの栄養素の摂取制限や高生物価のタンパク質の摂取が処方される。卵は安価で容易に入手でき、かつ高品質のタンパク源であり、体タンパク質合成に必要な必須アミノ酸であるロイシンを多く含んでいる。しかし卵黄にはリン酸と trimethylamine N-oxide の前駆体であるコリンが多く含まれ、CKD では悪影響を及ぼす可能性がある。卵はまたコレステローを多く含み、リポタンパク質コレステロールに影響し循環器疾患のリスクとなる可能性があるが、透析患者(すでに腎臓食を遵守)については、脂質異常症を管理するためにコレステロールの摂取量を抑えても付加的な利益をもたらさないことが知られている。しかし、CKD 患者の脂質像に及ぼす卵摂取の影響に関しては十分なデータはない。加えて、疫学研究では卵の摂取は CKD 発症のリスクと相関していない。卵黄はまたルテイン、ゼアキサンチン、ビタミン D などの生物活性物質を含んでおり、筋肉タンパク質合成を促し CKD 患者の健康に資する可能性がある。ここでは、卵の摂取と CKD についての研究を総括し、卵摂取の禁忌と有効性の可能性の両面について論じるが、CKD および終末期の腎疾患者に関しては今後の研究が必要である。

文献No.109
卵殻膜の創傷治癒メカニズム(動物試験)

Vuong TT et al., Processed eggshell membrane powder regulates cellular functions and increase MMP-activity important in early wound healing processes. PLoS One. 2018;13(8):e0201975. doi: 10.1371/journal.pone.0201975.

【要旨】

  卵殻膜は創傷治療に使用されてきた天然のバイオマテリアルであり、卵産業において大量に入手可能な素材である。これまでに、工業的に作られた卵殻膜パウダー(PEP)が抗炎症作用を示すことが明らかにされている。本研究では、真皮繊維芽細胞を用いたin vitro 試験および皮膚創傷治癒モデルマウスを用いたin vivo 試験において、PEP がマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP, マトリックスの分解活性を持つ酵素)活性に与える影響を調べた。PEP 1 mg/mL を添加し3日間細胞を培養した結果、アクチン-細胞骨格の再構築に関わる接着タンパク質vinculin の増加並びに膜貫通型プロテオグリカンであるsyndecan-4 切断の増加をもたらした。さらに、MMP-2 とその調節因子(MT1-MMP、TIMP-2)のタンパク質発現には影響を与えず、マトリックスのMMP-2 酵素活性を高めた。10 日間の長期培養では、MMP-2 およびその調節因子のタンパク質の発現が増加した。また、筋繊維芽細胞のマーカーとなるα-平滑筋アクチン(α-SMA)産生が増加したことから、筋繊維芽細胞への分化への影響が示唆された。マウスの皮膚創傷治癒モデルを用いたin vivo 試験では、傷口1 cm²あたり2.5 mg/ 25μL のPEP / PBS 溶液を3 日間塗布した結果、傷口のMMP 活性の上昇と共にMMP-2 およびMMP-9 のタンパク質レベルが増加し、さらに、ケラチノサイトの細胞の増殖が促進された。以上より、PEP はMMP 活性を高め、細胞組織の再構成が行われる創傷治癒の初期段階において促進作用を促すことが示唆された。

文献No.94
卵白タンパク質とそのペプチドの機能性(総説)

Abeyrathne EDNS et al., Antioxidant, angiotensin-converting enzyme inhibitory activity and other functional properties of egg white proteins and their derived peptides ? A review, Poultry Science, 2018 , 0:1?7

【要旨】

  卵白は多くの機能的に重要なタンパク質を含む。例えば、オボアルブミン(54%)、オボトランスフェリン(12%)、オボムコイド(11%)、オボグロブリン(G2およびG3,8%)、オボムチン(3.5%)、リゾチームと言った主要タンパク質に加え、オボインヒビター、オボマクログロブリン、オボグリコプロテイン、オボフラボプロテイン、チアミン結合タンパク質、アビジンといった微量なタンパク質などである。これらのタンパク質ならびにタンパク質由来のペプチドは、抗酸化剤、抗菌剤、金属キレート化剤、抗ウイルス剤、抗腫瘍剤およびアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤として機能的に重要である。ペプチドの機能特性のうち、抗酸化活性および抗菌活性は食品加工にとって重要な特性である。
  一方、ペプチドのACE阻害活性などの特性は重要な健康機能を有する。生理活性ペプチドは、酵素加水分解、化学的処理、または異なるpH条件での熱処理によって、卵白タンパク質から産生することができる。卵白タンパク質から産生される有用な機能性ペプチドは、通常、分子サイズが2kDaより小さい。しかし、これらのペプチドはin vitroでの活性のみが知られており、in vivoでの効果を証明するための研究はほとんど行われていない。したがって、卵白タンパク質に由来する生理活性ペプチドが将来ヒトに有用であるかどうかを調べるためにはさらなる研究が必要である。

文献No.90
卵白オボアルブミンとリゾチームの共凝集の分子機構

Iwashita K et al., Co-aggregation of ovalbumin and lysozyme, Food Hydrocolloids, 2017, 67, 206-215. doi.org/10.1016/j.foodhyd.2017.01.014

【要旨】

  卵白は、優れた熱誘導ゲル化特性を有する。しかしながら、卵白タンパク質の凝集の根底にある分子機構は、その複雑な組成のために解明されていない。ここでは、主成分であるオボアルブミン(OVA)の熱凝集プロセスに関し、タンパク質組成、凝集速度、分子間力、形態学的の面からよく研究されているリゾチーム(LYZ)共存下で検討した。
  70℃での熱処理によるOVA-LYZ混合物のサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果、等モルOVAの存在下でのLYZの凝集速度定数が64倍増加した。対照的に、OVAの凝集速度はLYZの存在に依存しなかった。
  酵素分析およびSDS-PAGE分析で、LYZが可逆的非共有結合相互作用および不可逆的ジスルフィド結合を介してアンフォールディング(立体構造変化)OVAと共に沈殿を形成することを示した。OVAのアンフォールディングは、易凝集性域を露出し、OVAとLYZとの間のジスルフィド結合交換による共凝集を誘発する。LYZは、ジスルフィド結合を介して小さなOVA凝集体に共有結合し、より大きなネットワークを有するOVA-LYZ凝集体の段階的成長をもたらす。これらの結果から、卵白中のタンパク質の熱凝集に関しての情報が得られた。

文献No.86
発酵キノコ菌床を摂取した産卵鶏では卵の生産性が高まる

Yoshida S et al., Effect of Dietary Fermented Mushroom Bed on Egg Production in Laying Hens. Biosci. Biotechnol. Biochem., 2017, 81(11):2204-2208.

【要旨】

  卵の生産性は、鶏のストレスによって低下する。本研究では、キノコ栽培に用いる菌床を発酵させた発酵菌床の投与が、卵の生産性に及ぼす影響について検討した。鶏を100羽ずつ2 群に分け、コントロール食と発酵菌床添加食を16か月間与えた。その結果、コントロール食と比較して発酵菌床群では、産卵数が有意に多く、割れた卵および軟殻卵の数が有意に少なかった。また、鶏のストレスについて評価した結果、発酵菌床群では、ストレス関連マーカー(オボトランスフェリン、脂質過酸化物、好中球・リンパ球比)が有意に低値を示した。腸内細菌叢にも違いが見られ、発酵菌床群ではBacteroides属およびStaphylococcus属が有意に少なかった。以上の結果から、飼料への発酵キノコ菌床の添加は、鶏のストレス状態を防ぎ、卵の生産性を高める可能性が示された。

文献No.77
卵白由来リゾチームとキトサン糖複合体のカンジダ増殖抑制効果

Kageshima H et al., Inhibition of Growth of Candida albicans by a Lysozyme-chitosan Conjugate, LYZOX and its Combination with Decanoic Acid, Med. Mycol. J., 2017, 58(3), J63-J69. doi: 10.3314/mmj.17-00005.

【要旨】

  化粧品材料や食品添加物として使用されている卵白由来リゾチームとキトサンをメイラード反応により融合させた複合体(以下LYZOXとする)のCandida albicansの菌糸形発育抑制効果を検討した。C.albicansをLYZOXで3時間処理して、16時間菌糸形発育誘発条件で培養した。その結果、LYZOX濃度依存的にカンジダの菌糸形発育が抑制された。LYZOXの原料であるリゾチーム、キトサン、あるいはリゾチームとキトサンの混合物では菌糸形発育抑制効果は弱かった。さらに、LYZOXと中鎖脂肪酸のデカン酸を併用することで、相乗効果を示すことが分かった。この組成物について、口腔カンジダ症感染マウスへの防御効果を検証したところ、舌症状の有意な改善が確認された。

文献No.58
米国の卵消費量の推移

Conrad Z et al., Time Trends and Patterns of Reported Egg Consumption in the U.S. by Sociodemographic Characteristics. Nutrients 2017; 9(4) doi: 10.3390/nu9040333.

【要旨】

  卵は低コストで必要な栄養素を提供できる食品として期待できる。多様な人口統計学的特性における卵摂取の状況について調査するため、米国の成人29,696名の卵摂取に関するデータを米国国民健康栄養調査から入手し、解析を行った。米国国立がん研究所の方法を用いた卵摂取量分布の推定、線形・ロジスティック回帰モデルを用いた卵消費の経時変化や人口統計学的特性による差異について評価を行った。結果、卵を摂取している米国人の割合は2001-2012年でほぼ横ばいで、人口統計学的特性による差異もみられなかった。一方、人口全体での卵消費量は2001-2002年の23 g/日に対し2011-2012年では25.5 g/日と有意に増加していた(P<0.012)。しかし、食糧保障が十分でない者やSupplemental Nutrition Assistance Program(SNAP)登録者においては変化がみられなかった。また、所得や食糧保障の水準、SNAP登録状況によって層別解析を行った結果、卵消費量に差はなかった。卵はコストの低さや料理の多様さだけでなく栄養面での利点もあり、健康格差の改善に寄与できる可能性がある。摂取量を増やすための要因や価格変動など障壁となる要因を明らかにするため、更なる調査が必要である。
  ※SNAP:米国で低所得者に対して、最低限の食料を提供するための食料品購入補助制度

文献No.53
卵の摂取は認知機能に効果がある(コホート研究)

MP Ylilauri et al., Association of Dietary Cholesterol and Egg Intakes With the Risk of Incident Dementia or Alzheimer Disease: The Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study. Am. J. Clin. Nutr., 2017, doi: 10.3945/ajcn.116.146753.

【要旨】

  東フィンランドのクオピオ虚血性心疾患危険因子研究に参加した当初検査で認知症のない42~60歳の男性、計2,497人を解析対象とし、コレステロールおよび卵の摂取量と認知症またはアルツハイマー病(AD)の発症、および認知機能テスト参加者480人の認知機能との関連を調べた。認知症の主要な危険因子であるアポリポタンパク質E?4(APO-E4)遺伝子保持者についてもデータのある1,259人について関連を調べた。食物摂取量は、開始時に4日間の食物摂取記録を用いて評価した。その結果、21.9年間のフォローアップの間に、337人が認知症と診断され、うち266人がADと診断された。APO-E4遺伝子の保持如何にかかわらず、食事性コレステロールおよび卵の摂取量が増加すると、認知症やアルツハイマー病のリスクが低下する傾向にあった(有意差なし)。また、卵摂取量が多くなると(中央値45g=約卵1個/日)、認知機能に関するいくつかの試験においてより良好な成績を示した(有意差あり)。以上より、1日1個程度の卵の摂取は、ある種の認知機能に関して有益な効果があることが示唆された。

文献No.46
食習慣(主食、魚、卵、果物、野菜)と便秘の関係(疫学調査)

Yang XJ et al., Epidemiological study: correlation between diet habits and constipation among elderly in Beijing region, World J. Gastroenterol., 2016, 22: 8806-8811.

【要旨】

  食習慣と便秘の関係を評価するため、北京に住む60歳以上の2,776人を対象に疫学調査を行った。食事については、主食、魚、卵、果物、野菜の摂取頻度を調査した。便秘については、排便頻度の減少、便の性状、排便困難を評価した。対象者の便秘の罹患率は13%であり、年齢と正の相関(p<0.01)が認められたが、男女間および都会と田舎在住者間で差はなかった。主食の摂取量(p<0.05)、魚の摂取頻度(p<0.01)、食物繊維(果物・野菜)の摂取頻度(p<0.05)について、有意な負の相関が認められた。卵については、非摂取者よりも摂取者で罹患率が低かったが、有意な相関はなかった。また、性別および居住地域による相関も認められなかった。以上より、食習慣は便秘に影響することが示唆された。バランスの良い食事を第一に、果物や野菜、全粒粉のような食物繊維を多く含んだ食品の摂取が有効であるという従来の論拠が確認されている。

文献No.40
腸内微生物叢とTMAOと卵の関係(介入試験)

Cho CE et al., Trimethylamine-N-oxide (TMAO) response to animal source foods varies among healthy young men and is influenced by their gut microbiota composition: a randomized controlled trial. Mol. Nutr. Food Res., 2016, doi: 10.1002/mnfr.201600324.

【要旨】

  腸内微生物叢が関連する代謝物であるトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)は心臓病のリスク増加に関連する成分である。動物性食品に対するTMAOの応答は健常な男性の間でも異なり、この反応は腸内微生物叢により修飾されるという仮説を証明するため、以下の試験を行った。40名の健常男性(21~51歳)を、TMAOを多く含む食事(魚群)、TMAOの前駆体であるコリンあるいはカルニチンを多く含む食事(卵群あるいは牛肉群)、およびフルーツ食(対照群)に分け、クロスオーバー試験を行った。それぞれの食事中のTMAO量は、魚群528.9±9.4 mg、卵群0.8±0.1 mg、牛肉群0.9±0.1 mgであった。試験の結果、魚群は卵、牛肉、対照群よりも血中および尿中のTMAO、トリメチルアミン、ジメチルアミンの濃度が有意に高かった。特に、尿中TMAO濃度は他の群に比べ、魚群では約45倍増加していた。また、血中TMAO濃度が魚摂取15分以内に上昇したことから、食事のTMAOは腸内微生物叢による代謝を経ずに吸収される可能性がある。16S rRNA遺伝子の解析によると、高TMAO生成者(卵や牛肉を摂取することで尿中TMAOが20%以上増加した者)の腸内にはバクテロイデスよりフィルミクテスが有意に多く、腸内微生物叢の多様性が低いことがわかった。以上のことから、TMAO生成は個人毎の腸内微生物叢の違いに依存することが示された。

文献No.33
出産年齢女性における卵摂取と環境ホルモン代謝は負の相関(コホート研究)

Jo A et al., Associations between dietary intake and urinary bisphenol A and phthalates levels in Korean women of reproductive age. Int. J. Environ. Res. Public. Health, 2016, doi: 10.3390/ijerph13070680

【要旨】

  食品や飲料の容器包装に使われているビスフェノールA(BPA)やフタル酸は、女性の生殖器官の様々な不調を含む健康被害に関連する環境ホルモンとして注目を集めている。本研究では、出産年齢(30~49歳)の韓国人女性305名を対象に、食事と尿中のBPAおよびフタル酸の関係を調査した。その結果、飲料(缶や小袋入りコーヒーやプラスチックボトルや缶ボトルのお茶、炭酸水、アルコール)の摂取は尿中BPAと正の相関があり、卵や卵製品の摂取はフタル酸の代謝物である尿中フタル酸モノ2-エチル-5-オキソヘキシル(MEOHP)や尿中フタル酸モノブチル(MnBP)と負の相関があった。また、飲料摂取が1日当たり100gより多い女性では100g 以下の女性に比べ、高BPAレベル(90パーセンタイル以上)であるオッズ比が有意に高かった。これらの結果から、出産年齢の韓国人女性では、飲料はBPAの体内負荷量と正の相関、卵はMnBP、MEOHPと負の相関があることがわかった。

文献No.16
卵殻膜加水分解物は、UV照射によるシワを改善(動物試験)

Jin H Y et al., Effects of Egg Shell Membrane Hydrolysates on UVB-radiation-induced wrinkle formation in SKH-1 hairless mice. Korean J. Food Sci. An., 2015, 35, 1: 58-70, doi: 10.5851/kosfa.2015.35.1.58

【要旨】

  卵殻膜加水分解物のしわ、保湿に対する効果を全画分および画分Ⅰ(> 10 kDa)、画分Ⅱ(3-10 kDa)、画分Ⅲ(< 3 kDa)の4分画について検討した結果、HaCaT 細胞(ヒト表皮角化細胞株)におけるヒアルロン酸量の増加、CCD-986Sk繊維芽細胞におけるコラーゲン合成の増加、MMP-1産生量の減少が認められた。またUV-照射によりしわを形成したヘアレスマウスに画分Ⅰを5週間塗布した結果、皮膚厚の改善、水分量の増加、経皮水分蒸散量の減少、紅斑の減少、しわの改善が認められた。UV照射によるしわ形成メカニズムとしては、MMPの活性化を介するコラーゲン分解促進機構が知られている。本研究では、MMP-1の減少、コラーゲン合成およびコラーゲン遺伝子の増加が観察され、これらの応答が卵殻膜加水分解物のしわ形成抑制メカニズムの1つと考えられる。
  本研究より、卵殻膜加水分解物は、化粧用としてUV-B照射によるしわ形成を改善する可能性が示された。

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